特訓!特訓!特訓!④
……一撃入れたくらいで調子にのってごめんなさい。
そんな情けない言葉を飲み込んで、ボクはリューさんに向かっていく。
ボクが攻撃を掠らせた後、お昼ご飯を食べるということで一度ログアウトしていったリューさんとサファイアさん。ボクもその間に幼馴染たちから届いていたメッセージを返したり、一度ログアウトして簡単に昼食を食べたりした。
そして、午後からもリューさんを相手に模擬戦をしている。決闘システムの『無限デスマッチ』機能を使っての模擬戦だ。……無限デスマッチっていうのは、HPがゼロになっても、強制的に復活してそのまま戦闘続行という頭のおかしい機能だ。回復の手間が省けていいんだけど……もう、何回死んだのかわかんないくらい死んでるんだよね。三十回を超えたあたりで数えるのをやめたしなぁ……あはははは。
「にゃぁあああああああああ!!」
「おおう、気合がやけくそ染みてきたな……。ちょっとやりすぎたか?」
「ふにゃぁああああああああああ!!」
「うーん……ま、やる気も根気も十分みたいだし、このまま続けるか。さぁ、ナナホシ! 一回くらい俺を殺してみろ!」
無茶言わないでくださいよぉ!? リューさんのHPをゼロにするとかそれなんて無理難題ですか? ミレニアム懸賞問題か何かですかァ!?
うう……けど、リューさんは手加減に手加減を重ねてるんだよね……。レベルだって下げてもらってるし、回復だってしてない。強化魔法だって最小限だ。
それでも、勝てない。攻撃は結構当たるようになったけど……。それでも、一度繰り出した攻撃は必ずといっていいほど防がれる。初見の攻撃でもかなり正確に対処してくるし……。うう、対応力が高すぎて泣きたくなる。
リューさんはさっきからメイスじゃなくて魔法で作り出した長剣を使っている。アーツを使わない素の剣技は、すでにボクより上手なんじゃ……というか、絶対上手だ。理不尽ってこういうことを言うのかな?
……だけど、これはチャンスでもある。
リューさんとの訓練で、武器を向けられることへの怖さは払拭できた。……できたというか、強制的にそうならざるを得なかったというか……まぁ、それはともかく。
相手の攻撃に対して恐怖で目をつぶる、何てことも無くなったんだ。そんな今のボクなら、リューさんの戦い方を真似るくらいのことはできる……はず。
リューさんの戦い方は、一見すると攻撃一辺倒に思えるけど……一撃一撃にこちらの行動を制限するような動きが混ざっていたり、攻撃後の立ち位置がこちらの攻撃範囲外だったりと、緻密を極めたような戦い方だ。そして何より、ボクがさっき言ったように、『一見すると攻撃一辺倒にしか思えない』というのがとても厄介だ。間違った認識で動くと、すぐにこちらのペースを崩されてしまう。
近接戦闘を仕掛けるのが無謀だと思えるほど。じゃあ遠距離攻撃なら……と思ったけど、リューさんにはあの光の剣を創り出す魔法がある。そして何より、リューさんが遠距離攻撃への対策をしてないとは思えない。ボク自身が遠距離攻撃を使えないので確認できないのが残念だ。
……うん、わかったよ。リューさんの戦い方がどんなのかって言うのは。けどね………真似できない! 真似できないよぉ!? あれを真似するとか無理無理無理!!
くぅ……け、けど……やるだけ、やってみよう! 無理かもしれなけど、それでもだ! 憧れた人の戦い方、参考にするのに、これほど適した教材なんてあるもんか!
「……ハァッ!!」
「ほう?」
リューさんがどんな動きをするのか。それを、今までの戦闘から予測する。そして、その行動を阻害するような攻撃を繰り出す。これはダメージや勝負を決めることを目的にした攻撃ではなく、次の攻撃につなげるための攻撃だ!
「なるほど、そう来るか……。けど、分かりやすすぎるな。もっと、狡猾になれ」
「あうっ」
簡単に狙いを見破られ、剣を弾かれてしまった。
けど、一度でうまくいくなんて思っていない。そんな思い上がりなどできないほどに、リューさんの強さはこの身に刻み込まれている。
だから――――――――考える。
思考をやめない。リューさんがどう動くのか。ボクはどう動けばいいのか。考えて考えて考えて、目の前が真っ白になりそうなほどに考える。
考えていくうちに、ひとつ、気になることが出てきた。
―――ボクは、今、なんで戦ってるんだろう?
強くなりたいから? 幼馴染たちの役に立ちたいから? 弱い自分を変えたかったから? 憧れたリューさんみたいになりたかったから?
リューさんに勝つための思考の片隅で、そんな疑問が躍る。剣を振るい、リューさんの攻撃を避け、また剣を振るう。そんな間にも、思考は深みへと嵌っていく。
うん、その全部が間違いじゃない。
けど、それよりも……。
「…………しい」
こうやって、全力で戦って、勝つ方法を死に物狂いで考えるのことが。
「…………………楽しいッ!!」
思わず、そんな叫びが口から洩れた。訓練を付けてもらってる最中に不謹慎だったかな? ととっさに口をふさぎ、恐る恐るリューさんの方を見ると……。
ゾッ。
思わず、後ずさってしまった。だって、だって……。
「りゅ、リュー……さん?」
「お? なんだナナホシ。こないのか?」
「え、いや……あの……」
「んー? まぁいいか。ソッチが来ねぇなら……」
「俺から行くぜ?」
顔の前で光る剣を構えるリューさん。半透明の刀身の向こうに見えるリューさんの表情は、
……完全に、エモノを狩る肉食獣の笑みだった。
ドンッ! という強烈な踏み込み。その力を速度に変換したリューさんが、ボクの得意技である突進からの袈裟斬りを繰り出してくる。ボクのそれより、洗練された一撃を。
一瞬でも気圧されてしまったせいで、反応が遅れた――!?
そう思った次の瞬間には、リューさんが振るった剣が、ボクの体にめり込んでいた。視界の端で、HPゲージが真っ黒に染まっていく。
この上ないクリティカル。……ははは、まだまだだなぁ……。全然、届かないや。
「そうだ。それでいい。ナナホシ、その感覚を忘れるな。……戦いを、楽しめ」
光となって砕け散ったナナホシを見ながら、リューがそうつぶやく。その後ろで、訓練の様子を見守っていたサファイアは、呆れたようなため息を吐いた。
リューが斬りかかる寸前のナナホシの表情、そこにはまぎれもない笑みが刻まれていた。
「……リューにぃ、やりすぎ」
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