決闘①
赤茶けた大地。立ち並ぶ岩石群。
風に乗って砂が舞う、太陽に照らされたフィールドにて、二人の人物が向かい合っていた。
「ほぉ、逃げんかったことは誉めたるわ。ま、これから自分はワイにボッコボコにされるんやけどな」
そのうちの一人。金髪ツンツンでわざとらしい関西弁でしゃべる槍を持った男―――ライゴが、口元に皮肉げな笑みを浮かべて、対峙する相手をそう挑発する。
そんな挑発を受けた神官……の振りをした狂戦士、リューは、めんどくさそうにため息を吐いた。
「はぁ、そうやって余裕ぶっこいてていいのか? 足掬われるぞ?」
「ワイが? 自分に? くははは! なかなかおもろい冗談やないか」
「冗談、ねぇ。そんなことを言ってられるのも今のうちだぜ?」
挑発には挑発を。とでも言わんばかりに、リューは手に持った紅戦棍の柄頭をライゴに向けた。
「早く戦おうぜ、金ツン野郎。PvPはまだあんまりやったことなくてな。どんな戦いになるのか結構楽しみなんだよ」
ニヤリ、と口元を楽し気に歪めて言うリュー。地獄のレベル上げ三日間のことや、ライゴのイライラする言動も今はどうでもいい、と言わんばかりに全身から闘気をみなぎらせる。
「ハンッ、自分、やっぱりただの戦闘狂やないか。そんでもって戦い方は狂戦士てか? どんなイロモノやねん」
「イロモノ言うんじゃねぇよ。ほら、さっさと決闘システムを起動しろよ。ハリーハリー」
「ワイに命令していいのはギルマスだけや。……ほれ、申請送ったで。ルールはデスマッチ。HPを全損させた方の負けや。アイテムの使用は禁止。スキル魔法アーツに制限は無し。時間は無制限。あと、レベル差がありすぎるさかい、ワイのレベルを55まで下げるで」
「そんなレベルで大丈夫か?」
「大丈夫や、問題ない。……って、ふざけとんのか、自分?」
「普通にそんなにレベルを下げて大丈夫かなって思っただけなんだけど……」
死亡フラグの前振りのようなリューのセリフに反射的に反応してしまったライゴは、微妙に頬をヒクつかせながら、二コリと笑っていない笑みを浮かべた。ちなみにだが、リューに某大天使さんのセリフをまねた自覚は無い。
ライゴは無言でレベル設定を60まで引き上げた。「そこまで言うなら、お望み通りレベルを上げてやんよぉ……」というわけだ。
再度送られてきた申請に目を通したリューは、「やっぱり不安だったのかよ」とつぶやいた。ライゴの顔から笑ってない笑みが消えさり、無表情となる。
表情を消したライゴはゆっくりと自分の愛槍を構えた。
「さっさと申請を承諾せぇ。ワイも血がたぎって来たで」
主に、リューへの怒りで。もともと直情的なライゴに、リューの無自覚の挑発は大変効果的だったようだ。
そんなことなど露も知らず、ライゴもやる気になったのだと楽し気に口元に好戦的な笑みを浮かべるリュー。
「よし、準備はできたみたいだな、二人とも?」
「問題ないで、ギルマス。いつでもええで」
「こちらも。すぐにでも始められるぞ、アポロ」
「りゅーにぃ、がんば」
「せ~んぱい、がんばってくださいっす~!」
観客のサファイアとマオの声援が、リューにのみ届く。ライゴのこめかみに青筋が浮かび上がる。
審判役のアポロは二人の言葉を聞いてうん、とうなずくと、スッと片手を天に掲げた。
「それじゃあ…………始めっ!!」
アポロの振り上げた腕が振り下ろされる。それと同時に、リューが申請ウィンドウの承諾ボタンを押した。
対峙するリューとライゴをパラパラと空中に展開した数字の群れが覆っていく。ドームを形成した数字の群れ。その内側には、外側の荒野とは似てもつかない世界が構築されていく。
そこは、闘技場だった。
古代のコロッセオを彷彿とさせる形状。石畳でできたステージ。その端には天高く伸びるオベリスクが生えていた。誰もいない観客席は得も言われぬもの悲しさを感じさせる。
「バトルフィールド、タイプ闘技場。PvPプレイヤー中でも大人気のフィールドの一つや。男なら、こーゆー舞台の上で戦いたいん思うのは普通やろ?」
「確かにな。なんだか、こう……。血沸き肉躍る感じがする」
きょろきょろと切り替わった空間を眺めたリューは、口元に浮かべる笑みをさらに深くして、紅戦棍を油断なく構えた。それを見て、ライゴも槍を構える。
戦いの火蓋が、切って落とされる。
「《信仰の剣》《信仰の盾》、【ストレングスエンハンス】【ディフェンスエンハンス】【アジリティエンハンス】【マインドエンハンス】」
先に動いたのは、リューだった。石畳の舞台。その端に後退するように動きながら、自分に強化をかけていく。
まずは、いつもの強化魔法とスキルの一式。普段ならここで強化を終了し、戦闘に写っているはずのリューの視界には、まだ二つのゲージが写っていた。
それは、リューがスキル進化によって手に入れた新たな力。詠唱時間が若干長いそれらを発動するために、リューは戦いの第一手に「逃げ」を選択した。
「ハッ! イイのは威勢だけかいなッ!! 【チャージアタック】!!」
後退するリューに、獰猛な笑みを浮かべるライゴが突っ込んでくる。放つのは槍での突進攻撃の威力と速度を上げるスキル。単純故に強力なスキルの効果が乗った一突きが、リューを穿たんと迫る。
突っ込んでくるライゴ。リューは目の前に迫る槍に対して平行になるように体を動かすと、小さくつぶやく。「【バックステップ】」。
一瞬前までリューがいた位置を、ライゴの槍が通り過ぎる。手ごたえの無かった槍をすぐさま手元に引き戻したライゴは、瞬時にリューが移動した先に視線を送り、その方向へ一歩踏み出すとともに槍を薙いだ。
「シャオラァッ!!」
「ハァッ!!」
ガキンッ!
槍とメイスが交差し、どちらからともなく弾かれる。
ライゴの薙ぎ払いを紅戦棍で迎撃したリューの視界の端で、二つのゲージがほぼ同時にマックスになった。
「【生命活性】! 【ブーステッド・STR】!」
リューが新たな魔法を発動させる。
【生命活性】。身体能力系のステータス、すなわちSTR、DEF、AGIの三つのステータスを少しだけ強化する魔法。リューの戦闘スタイルに必要なステータスを底上げする魔法だ。
そして、【ブーステッド・STR】。この魔法は自分のSTRを「強化魔法やスキルで強化している分も含めて」倍率で強化する魔法。リューが先に発動していた《信仰の剣》、【ストレングスエンハンス】、【生命活性】で強化したSTRがさらに一割ほど上昇する。
強化された筋力は、踏み込みの強さに変換され、さらには加速となってライゴに襲い掛かる。紅戦棍を猛スピードで上から下へスイング。
「【パワークラッシュ】ッ!!」
さらにダメ押しとばかりに発動されるアーツは、リューの一撃を必殺の一撃へと昇華させた。
これを喰らえば、たった10のレベル差などあってないようなもの。強化に強化を重ねた一撃がライゴの頭蓋を砕かんと迫る。
「くっ……! シャラァッ!!」
とっさに頭上に掲げた槍が、紅戦棍を寸前のところで受け止めた。そのままの状態で、つばぜり合いが始まる。
「はぁあああああああああ!!」
「うぐぐぐ……」
重量と、上から押しこむ体勢によってつばぜり合いがリューが有利。強化された筋力が紅戦棍を受け止める槍を弾き飛ばし、ライゴの肉体を打ち据える。そうなるとリューは確信していた。
だが、相手はリューが今まで相手にしてきたモンスターではない。「技」と「駆け引き」を持つプレイヤーだ。
「甘いで、【スパークウェイブ】!」
「ガッ!?」
バチィッ!! と何かが爆ぜるような音とともに、リューの体に紫電のエフェクトが流れる。紅戦棍を押し込む力が緩んだすきをついて、ライゴは後ろに飛んで距離をとった。
リューは視界の端に映るHPゲージが減ったのを見て、自分が何かしらの攻撃を受けたことを悟る。
「魔法……か?」
「ご明察や。【スパークウェイブ】、武器を通して相手に電撃を流し込むちゅう魔法や。ワイに触れると痺れるで?」
「ご丁寧にどうも。なら、さっきみたいな状況にならなきゃいいわけだな」
リューとライゴ。二人はどちらからともなく笑みを浮かべ、地面を蹴った。
ライゴの槍が突き出される。それを紅戦棍がはじき、お返しとばかりに蹴りが叩き込まれる。
リューの蹴りはライゴの膝で防御され、柄を回転させ放つ石突きがリューの肩に命中。
ダメージと衝撃をモノともせずに紅戦棍を振るうリュー。減ったHPは即座に【ヒール】。
「まだまだいくで! ついてきいや、自分!」
「くははッ! 望むところだ!!」
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