これは酷い(いろんな意味で)
「ま、何はともあれ。これでリューがウチのギルドに加入することが正式に決定したわけだ」
「どんどん、ぱふぱふー」
「わー、おめでとうっすー」
「ものすごく投げやりな賛辞をどうもありがとう。とはいえ、正式に決定したところで、これまでと何かが変わるというわけでもないんだがな」
今回の件ではっきりしたが、俺にパーティープレイプレイというものは到底不可能だ。アヤメと二人で戦うことすらままならない状態で、それ以上の人数と一緒に戦う? 考えるまでもなく無理。絶対無理。
敵と間違えて、味方をミンチにしちゃいました! とかなったら、洒落じゃすまされないからな。
俺がきっぱりとそう言うと、アポロとサファイアが途端に残念そうな顔をする。そんな顔してもダメです。俺だって、お前らに迷惑をかけるようなことはしたくないんだよ。
「まぁ、最初からそういう約束だったしなー。あ、でもリュー。模擬戦の相手くらいならいいよな?」
「ああ、それだったら構わないぞ」
「ん、クエストのお手伝いとか……ダメ?」
「ものにもよるが、俺の手伝いが必要ならいつでも言ってくれていいぞ?」
「じゃあ先輩、欲しい素材があって、それを集めるのを手伝ってほしいとかはどうっすか?」
「俺に出来る範囲なら」
「……じゃあ、わたしとのデートは?」
「別に構わな…………ちょっと待て、なんかおかしくなかったか?」
「むぅ、引っかからなかった。残念」
さらっととんでもないモノを混ぜやがって……。サファイア、恐ろしい子。
「じゃあ、私とのデートはどうっすか?」
「むしろなんでこの流れでOKしてもらえると思ったんだ、お前?」
「それなら、俺とのデートとか……」
「キモイ」
アホなことを言い始めたアポロをばっさりと切り捨てる。何が悲しくて男とデートしなきゃいかんのだろうか。俺に構ってる暇があったら、ハーレムの娘たちの相手をしてあげるべきだろう。もしくは家の家事を手伝って……いや、それは無理か。おとなしく勉強でもしててくれ。
「うう……」と乙女座りで崩れ落ちるといういかにも『落ち込んでいます』というポーズをするアポロにもう一度「キモイ」と言葉の刃を放つ。がっくりと項垂れたのを確認。よし、アホは滅びた。
さて、転職が終わったということで、ここ最近の目標が達成されたわけである。ここからはまた俺の好き勝手にこの世界を楽しむのだ。
とはいえ、何をするのがいいだろうか? とりあえず、後輩に言われた通りに冒険者ギルドに登録するとして……。そこで受けることのできる依頼をどんどんクリアしていく? それもいいが、今まで行ったことのないフィールドの探索もしてみたい。ボスモンスター戦とか特に。ああ、ボスモンスターと言えば、ちょっと違うけど、『大樹の草原』にいたドラゴンと戦ってみるってのもアリか。それとも、ダンジョンに潜ってみる? ふむ、こうしてみると、結構やることあるな。ま、時間はあるんだし、一個一個やって行こうじゃないか。
と、俺が今後の予定に思いをはせていると、「おいッ!」という声が聞こえてきた。なんだ藪から棒に……。
声の方を向くと、そこには金髪ツンツンの……えっと、名前なんだったっけ。
「フンッ、いちおう転職は出来たみたいやな。約束は約束や。お前さんのギルド加入を認めてやるわ」
うん、何だこいつ。なんでこんな上から目線何だろうね? 名前は……ああ、ライゴか。思い出した思い出した。
今考えると、この三日間って、八割がたがこいつのせいなんだよなぁ。ギルドの加入条件を全く気にせず俺を入れたアポロとか、ギルドの加入条件何ぞ思考の片隅にもなかった俺も悪いと言えば悪いが……。でも、三日間という期限を付ける必要があったとは思えないんだよなぁ。
うーん、そう考えるとだんだんイライラしてきたぞ。まぁ、軽く嫌味を言うくらいの報復なら構わんだろう。
「どうも。わざわざそんなことを言いに来たのか? 存外暇なんだな、お前」
「ああ? お前さんが逃げてへんか確かめに来ただけや。お前さんみたいなやつにワイの出した課題はむずすぎるんちゃうかと思ったんや。というか何なん? そのアホくさい職業」
おん? それを言ったら戦争だぞ?
……って、落ち着け落ち着け。名前は気にしないって自分で決めた「にしてもなんや『狂戦士ん官』って。こんなん選ぶとか自分、頭大丈夫か?」……うん、これは怒ってもいいんじゃないかな? イイよね? よし、怒った。
「……あはは、あの程度で? まぁ、時間がかかって面倒な課題だったのは事実だが、難しい? ああ、お前そう言うの苦手そうだもんな。見た目的に」
「……喧嘩売ってんのか、自分?」
「まさか。俺はそんなに暇じゃねぇよ。どこかの誰かさんと違って、な」
くすり、とかすかに笑いながら言ってやれば、金ツン野郎は分かりやすく顔を真っ赤にして表情を怒りでゆがめた。なかなか直情的なヤツ。
「自分……ワイのことを随分と嘗めとるみたいやな。ワイが『雷神槍』の二つ名を持つトッププレイヤーやてこと、分かっとんのか?」
「『雷神槍』? 二つ名? 何それ、トッププレイヤーってそんな辱めに会うんだ。もしかしてアポロとサファイア、後輩にも二つ名があったりする?」
「辱……ッ!?」
絶句している金ツン野郎から視線を外し、三人の方を見てみる。おれの視線を受け、サッと明後日の方向を向く三人。うん、わかりやすい反応をありがとう。
「どんな? どんな二つ名なんだ?」
「さ、ささささあ? 何のことかさっぱりだぜ?」
「サファイアは確か……『魔導蒼姫』だったっけ? こないだ魔法について教わった時に、お前をみてそう言ってるプレイヤーがいたから、間違いないと思うが」
「むぅ、リューにぃの記憶力は化物か。ちなみにアポロの二つ名は『陽光の騎士王』」
「へぇ、『陽光の騎士王』、ねぇ……」
「ぐわぁああああああ! ヤメロぉおおおおお! 俺をその名で呼ぶんじゃねぇええええええええ!!」
「まぁ、いいんじゃないか? かっこいいと思うぞ、『陽光の騎士王』」
「顔が完全に笑ってるじゃねぇかぁあああああああああああああ!!」
「あ、先輩。私は特に二つ名とか無いんで、期待しても無駄っすからね」
「あ、そうなの」
「む、マオにも何か二つ名、つける?」
「やめてくださいっす。いやほんとマジで」
「後輩の二つ名か……。ふむ」
「先輩も、まじめに検討するのやめてくれるっすか?」
と、四人でアポロをいぢめて遊んだりしていると、すっかり忘れてて蚊帳の外だった金ツン野郎が、俺の肩をガシッとつかんできた。振り返ってみると、金ツン野郎は何かをこらえたような笑みを震わしていた。
「なんだ、藪から棒に」
「自分……いくら温厚なワイでも、そろそろ怒るで?」
「温厚? 誰が?」
思わず、素でそう返してしまった。いや、だっていかにも「自分、キレてます!」みたいな顔して温厚とか言われても、ねぇ? 説得力がすがすがしいほどないのだもの、しょうがないよね。
俺が言葉を放った瞬間、スッと金ツン野郎の顔から笑みが消え去った。変わりに浮かんだ表情は、爆発した火山のような、烈火の怒り。
「決闘や! 生意気な自分に、ワイの恐ろしさを存分に教えてやるわ!」
おう、なんか一気に分かりやすくなったな。こういう流れは嫌いじゃないぞ。サファイアも「いいぞ、もっとやれ」みたいな顔をしているし。
けどな、残念ながら……。
「悪いが、そろそろ夕食の支度をしないといけないから、その決闘明日でもいいか?」
「………………おう」
すっげぇ微妙な顔でしぶしぶ承諾してくれた金ツン野郎。なんだ、案外話が分かるじゃないか。
そして後輩よ。その「うわー、何すかこの人空気読めねぇっすね」みたいな顔するの、やめろ。
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