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15.アルカイックな微笑

今回は儚目線を入れさせていただきます。



湯船に浸かりながら、儚はボーっとしていた。

この家のお風呂は、かつきのおじい様がこだわったものらしく、ひのきでつくられている。儚にとったら、出かけでもしない限り縁がないものに、いつもお世話になっているのだ。


その為、初めてこのお風呂に入った時はあまりの心地よさについ長湯してしまい、危うくかつきにお風呂場まで乗り込まれそうになってしまった。懐かしいことを思い出して、くすっと笑う。お風呂に入っていると、様々な事が断続的に浮かんでは消える。




正直、かつきが私の前で泣いたのは初めてだったため、さっきは驚いた。彼が仕事のために家を出てからの記憶があいまいで、気がつくとかつきの腕の中にいたのだ。

普段、憎たらしいほど年上という体勢を崩さない彼の涙を見たのは、あれが初めてだった。



彼と手をつなぎながらこの家に帰ってきた時には、思わずほっと安心してしまった。はじめ、この家がかつき名義のものだと知ったときは驚いた。たやすく家一軒を自分の物に出来るほどお金持なのかと、自分との差を意識してしまったのに、今となってはすっかり落ち着ける場所になっていた。


家の事を聞いた時、一瞬ひいてしまったのが分かったのだろう。言い難いだろうに、亡くなった彼のおじいさんとおばあさんの話を私に聞かせてくれた。彼はいつでも大人の対応で優しい。


…ただ残酷なことに、それさえも私たちの年の差を見せつけられている気がした。もともと年がひらいていることを気にしていたのに、身分差の様なものまであったら、彼と今までどおりに付き合っていける自信がなかった。

お金持ちだからと言って友達を差別したことなどなかったのに…。たしかに私は、あのときに怖気づいたのだ…。




同棲しだしたのは、仕事にもだいぶ慣れ、せっかく彼の隣にいる自信を持てそうなときのことだった。


私が倒れたことで彼に甘えるようにして同棲することになり、仕事まで止めることになってしまった。今までどおりでいいのだとかつきは言ってくれたけど、確かに私たちの関係は変わるだろう。というより、引け目を感じずにいられる訳はない。

仕事をしていない私に生活費を全て折半するのはつらいし、貯金などを切り崩そうとしても「後のために、とっておけと」かつきに断られてしまうのだ。


彼が優しいのは知っているし嬉しいけれど、結婚している訳でもないのにかつきに養われているようなこの状況は嫌なのに…。

そう思っていながら結局は甘えているのだから、これまでひとり頑張って来たことすら無かったことにされそうな感覚に襲われる。



散々周囲から、かつきを『誑かしている』などと言われて傷ついてきたのに、あの人たちの言葉を否定できないことをするのだと思うと、悔しかった。

どんな時でも彼の傍にいたいし、彼の人柄を好きになったのだといつでも胸を張りたかったのに…。



ある日そんな自分に自信が持てない環境で、彼女にかつきとの関係を仄めかされ、私はぐらついた。


―――先ほどの彼の様子をみると、これまでの事を話さない訳にはいかないだろう。


そろそろ、かたをつける時だったのだ。

最近の自分が、情緒不安定なこともほんとは気付いていた。それでも、真実を確かめるのが怖くて逃げていただけ。いっそ、全てを話して楽になってしまおう。それで私たちの関係が終われば、その時はしょうがない。



そう結論を出した儚の顔は、不格好にゆがんだ笑みをしていた。




あの日、大好きな貴方の前で

辛さを隠しながら笑った時

人生で一番ヘタなつくり笑いをしたと分かり、絶望した。

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