クリアと続きと涙と酒と
創造主はたっぷりと時間をかけて息と気持ちを整えている。俺は心を覗きつつ……。
数分後、ようやく気を取り直したらしい。
「ふ、ふん。君がどれほど恐ろしい奴でも関係ないぞ。驚くなよ、なんと!人間界、魔界の全ての生命を殺さなければ君は私に触れる事すらできないのさ」
「生命の定義は?ふむ、意志を持ってマナを扱う主体。なるほど動植物ついでに魔物は完全に素材、食材、道具なのね。てか最初から思ってたけど、この世界虫とかいないよな。そこだけは褒めてやる。つまり人間とドラゴンだけか」
「そうだけど、え?え?君、まさか本気で?んなわけないよね、お、脅しても無駄だぞ。あ、でもそう、仕方ないから教えてやる。実はもう一つの方法が」
「済んだ」
「は?……は?……この感覚、本当に?やだ、確認したくない。でも一応しないと。……ほ、本当に殺した……。君、頭おかしいんじゃないか?……あ、そうか、後で蘇生をすると?いや、それでも」
「しないよ」
「怖いよ!?……本当に、本当に蘇生する気が無い……。完全に狂ってる。もうどっちがラスボスなんだか分かんないよ」
「ラスボスなの?」
「え?そのつもりだったけど、その……」
「はっきり言え」
「ら、ラスボスだよ!でもほら、もう決着はついたというか」
自分でラスボスとか言っちゃうのざぁこざぁこ確定演出説。
「君が言わせたんだろ!?いやそんな事言ってる場合じゃないこいつヤバい、ま、まて参った、まい」
殺して蘇生。
「た、ひぇええっ!?な、何で殺したんだよ、負けは認めたし君も永遠の命を得たと分かったはずだろ!?」
「何で、ね。何で「死」なんて概念をこの世界に組み込んだ?」
「え?え?君、もしか、ひぃいっ!?……して怒ってるの?いや、私はそりゃ怒られて当然で、ぎゃぁああっ!?……ではある、自覚はあるけど、君が?いや、君が怒るのだけはおかしいというか、がはぁああっ!?殺し方ぁっ、どんどん酷くなってる、怖い、痛い、いや、分かる、それを私に与えるという事の意味は理解できるんだけど、それを君がしたがるという事が理解できな、ぎひぃいいっ!?」
「後59億9999万9963回ですね」
「多いよっ!?んごほぉおおっ!?」
「これでも大分少ないでしょ。今さっき死んだ人間界と魔界の生命約50億プラス俺のムカつき分10億でたった60億回ポッキリなんだから」
「いや君の分多すぎ、ひぎぃうぎぃいいっ!?」
「この世界の始まり以来の全生命分本当は死ぬべきでしょ。あ、動植物を物扱いに設定しといて本当に良かったね」
「……わ、分かったよ。なるほど、私にふさわしい罰かもしれない。意味の分からん奴に意味の分からん理由で弄ばれる感覚が心底理解でき、たがぁあああっっぅ!?」
60億回は流石に面倒で、拷問みたいな殺り方に拘れたのは最初の1000回位までだった。後は流れ作業で斬って絶命したら蘇生。チートで自動プログラムを組んで俺はぼーっと待っていた。
「……ぁ、ぁ……お、終わった……?本当に?嘘じゃない?」
「あ、終わった?」
「何でそっちが疑問形なんだよ!?終わった、終わったんだ……。うう、うぁ、うぁあああんっ!」
情緒が完全にぶっ壊れているのか殺しまくった俺の胸に飛び込んできた。これがなんちゃら症候群って奴か?あ、でもこいつ意外と余裕あるな。泣きわめきながら縋り付くフリして可愛さアピールで小賢しく媚びてきてる。少なかったか?
「ちょま、悪かったから!本当に限界なのは本当だから!だから媚びてるんだろ、もう絶対服従するから止めてくれって意味だよ、わかってよぉ!」
まあ、そういう事にしておくか。
それから。
今日も天界では俺の生前葬ゆめかわお見送り祭りが開かれている。敢えてそう簡単には脱がしきれないフリフリドレスを着ている娘、完璧な美貌を更に映えさせるセクシーランジェリーに身を包んだ娘、そして何も身に付けずあるがままのゆめかわで俺を楽しませてくれる娘。みんな違ってみんな女神。
「んっ、はぁ、はぁ……っ。ありがとうございます。あなたの為の式なのに、いつも、こんなに幸せにしてくれて……っ。それでは、皆名残惜しいと思いますが、第113回ゆめかわ生前葬感謝祭オールタイムベストを閉会致しますっ!」
「わーっ!」
「お兄ちゃん、直ぐ帰ってきてねーっ!」
「主様、主しゃま、ぐす、うぁあああっ!」
素晴らしい天界から、元殺し合い界へワープ。6畳間でもいいんだけど相手が嫌がるからね。嫌がる事を無理強いするの良くないよね。
「どの口が言うんだか」
「じゃ、早速」
「やだ、先にゲームしてよゲーム、ほら君の記憶で作ったんだよ」
「……1時間だけだぞ」
「ホント!?やった、言ってみるもんだぜへへ」
こいつ自体は本当に弱い。めちゃくちゃ弱い。ついでにゲームも弱かった。俺も弱いのにそれ以下とかざぁこざぁこが過ぎる……。
「仕方ないだろ私はクリエイターであってファイターじゃないんだから」
「じゃあ何で自分がラスボスの世界を作ったんだよ」
「理由を明確に言語化できるなら作品を作る必要は、はぎゃぁああっ!?なんで殺すんだよいきなり、怖いじゃないかっ!?」
「正論がイラっとしたから。今の分、俺も殺していいよ」
「私にメリットが無さ過ぎる……。確かに、何でこんな世界にしたんだろうね……はぁ……」
「はよ殺せ。もう1時間経った」
「分かってるよ!」
でも永命の種族を殺せるのがこいつしかいないからなー。
「はい、今日の分終わり」
「もう一回していいって言ったじゃん」
「要らない!……それにしても、やられたよ。涼しい顔で心の声を偽るなんて」
「そんな事したっけ?」
「本気で忘れてるのか偽ってるのかすんごい分かり辛いからやめてもらえないかな」
「本気で忘れてた。今思い出した」
「……そうだ、こういう奴なんだ。気を許してはいけないと改めて誓ったよ」
秒で忘れてそうな誓いに何度も頷いてる。アホだなー。
「どうせアホだよっ!……時間の圧縮。人間界も魔界も確かに「既に滅びている」けれど、彼等の主観では数百、数億、または永遠に近い時を「過ごした」はず。その長さ、どんな道を歩むか、エンディングも全て彼ら自身が「決めた」」
「そんな良く分からん事してたんだ。チートに丸投げしただけだから知らんかった」
「……君のいう丸投げ、普通はどうあがいても出来ないからね?」
「何で俺は出来るの?」
「私が知りたいよ。……仮説、として。君という存在は矛盾しながら平然と生きている」
「誰でもそうでしょ」
「それはそう。でも君の場合、出力が異常なんだよ。自分本位と他責思考、ある程度は親和性もあるし共存できるとしても限界があるだろう。なぜそこまでわがままなのに、純粋無垢とさえ言える程チートを信頼できるんだ」
「さぁ?」
「はぁー……まあいいや。ねぇゲームの続きしようよ、別の奴でもいいから、すぐ作るから」
やっぱり忘れてる鳥頭。
「あんまり悪口ばっかりだと殺してあげないよ!?……何だよこの脅し」
「そういうなよ。お前しかいないんだから」
「っ、変な言い方やめてよっ。というか君こそ私に気を許しすぎじゃないの?もし私が蘇生しなかったら?」
「その時はその時」
「……そんな顔するなよ。冗談にしても悪かったって。ちゃんと蘇生するから信じてくれていい」
「天界の女神達には本当に感謝だな。俺が女心をくすぐれるなんて」
「そこは私に感謝しろよ!全く……」
結局更に2時間ゲームに付き合う事になった。確かに気を許しすぎかもしれない。
「負けすぎて気持ち良くなってきた、えへへ……。……あのさー、君がこんなに殺される必要はあるのかい?もうやめようよ、殺す方も面倒なんだから」
「優しいね、可愛いね」
「嬉しくない!あんなに私に怒ってたくせに」
「60億回殺したから」
「……それはそう」
「この世界に来てお貴族様……王子だったけど……の一言にブチ切れて殺して、前世って怖いなと思った。天界に行って、前世の嫌な事なんて忘れようと思った」
「結局は無理だった?」
「少なくとも、今はまだ。いつかはちゃんと忘れたいと思ってる。この何の意味もないような儀式も、その為……になったらいいな、って。前世のクリエイター様のコンテンツにさ、悪い奴に復讐してスッキリって作品が山ほどあって、それは全然わかるんだけど」
「全然わかるんだ」
「何なら一番好きな作品の一つも一般的には復讐譚って言われてる奴だし。俺の解釈ではちょっと違うんだけど……それはいいや。悪い奴をまあ、拷問して殺す位までならまだ分かるんだよ。でも悪い奴だからって悪霊になって地獄に行きましたとか、地獄で何億、何兆も苦しみを繰り返しますとかさ……そこまでいくと大分気持ち悪いって思う。それをした「正義」はじゃあ何京回死ぬんだ?ちゃんと見合う分だけ死ねよ?って」
「……君は110億回「殺した」から110億回死ぬって事ね。君なりの「カンジョウ」がある、と。歪み切ってるけどまあ、少しは分かったよ」
「分かるな」
「へへ、やなこった。あ、ちょ、酷い、負けるのは良いけど今のはズルだろ!気持ち良く負けさせろよ!」
情けない事を全力で叫ぶ元ラスボス。
こいつへの抑え難い怒りがあったのは事実だ。でも60億回殺したらどうでもよくなっていた。
60億回殺さなくても、どうでもいいと思える方法が、きっと「誰か」にはあるんだろう。
でも、俺にはなかった。
それでも、俺はここに来た。
「ありがとな」
「……分かってるだろうけど別に私が召喚したわけじゃないよ?チートもそう」
「分かってるよ。この世界を作ってくれて、ありがとう」
「な、なんだよ急に、逆に困るじゃん……。ええい、もう決めた、絶対勝つ。今は無理でも私は上達するから、勝てる。ゲームならやればできるんだ私は」
やればできる、か。
前世を断ち切る事も、いつかはできるだろうか。
俺は思考を切り上げてゲーム画面に集中する。……いや弱すぎだろ何でやればやるほど弱くなっていくんだよ。
「うわぁぁああんっ!」




