人斬りと言えば聞こえはいいが
「止まれ!カネと装備をよこしな、おとなしく渡せば命は取らないでやる」
俺は異世界転生して(事前説明の無いパターンだったから厳密に断定はできない、いや、頭の良い奴ならできるのか?ともかく俺にはできないけど、実感としては異世界転生したとしか思えない。ま、夢オチなら覚めてから黒歴史にすればいいし、起きて覚えてるかもわからないし)すぐに出会った青年と共に歩いていた。
青年と出会った時、ほぼ同時に魔物の群れにも遭遇したのだが、何となくできそうな気がしたからその辺にあった木の棒きれ一本持って群れを倒した。すると青年に凄い実力だと称えられ、是非同行して欲しいと頼まれたのでとりあえず承諾した。男と連れ合う趣味はないし女には見向きもされない俺だが、異世界の情報が欲しかった。なので田舎者を装って同行者を質問攻めにした。彼は明らかに訝しんでいたが、魔物共を倒した時の主観的にも、青年の反応的にも、俺には結構やばめのチートがあるっぽい。だから彼もこちらの気分を害さないよう、知る限りの事を話してくれた。それで多少は異世界の知識が付いて来た所に山賊の襲撃を受けたわけである。
これでこそ異世界、というべきなのかどうか。
まあいいか、と俺は鷹揚に前に出る。近寄るとおばさん、いや失礼か、いや山賊だしいいか、山賊の頭がおばさんだと気付いた。微妙にやり辛いな。まあ殺せるだろう。前世で直接人殺しをした事はないけど、それに近い事はした。
「っ、くそ、警告はしたぞ!」
おばさんは殺気を放ち戦闘態勢に入る。中々の熟練度を感じさせる。チートが無かったら俺は泣いて逃げ出した挙句あっさり捕まっていただろう。チート様様だな、説明が無かったのは根に持ってるけど。
「待ってくれ。ここは僕にまかせろ」
俺が応じようとした時、青年が俺の腕を引いた。助けに入ってくれるという事なんだろうが、腕を引かれた時、何とも言えない嫌な気持ちがした。まあいい、任せろというなら任せよう。どっちが死のうがどうでもいいし。
おばさん山賊と愉快な仲間たち(おばさん含め4人)vs青年の戦いは、青年がやや優勢。
まかせろというだけあってそれなりに腕が立つようだ。改めて見ると青年はカジュアルっぽくても良い服を着てる、気がする。彼の得物の片手剣もしっかり手入れがされてるっぽいし、いいとこのお坊ちゃん感がある。一方山賊たちは見るからにみすぼらしい。短めの刃物をそれぞれが使っているが、どれも刃こぼれしてたりサビてたり。命に関わるんだから手入れしてない事はないだろうけど、年季というか耐用期限切れ感は否めない。
青年は勝ちを確信している様子だ。殺し合い中なのに話しかける余裕がある。
「どうせ害虫だろうと思ったが、お前達、同胞か。全く、嘆かわしい事だ!」
「っ、何が同胞だ、お貴族様が舐めやがってっ!」
え、貴族なの。そこまでの身分には見えなかったけど、俺の現在地は結構貧しい国なのかしら。でも貴族となれば話は別だ、青年を応援しよう。コネがあるに越したことはない。と、俺はむむむ、とフィーリングを確かめる。うん、治癒も支援も出来そうだ。ステータスウィンドウもシステムメッセージもないタイプの世界っぽいので現状フィーリングでしかチートを把握できてないのがつらみ。
と俺がのんびりしてたら
「ぐぅっ!」
油断したのか青年が一撃貰ったらしい。地力と得物では劣っても経験は山賊たちが上か。だが追撃する山賊たちを青年はすぐに押し返した。良かった、じゃあ一応、練習も兼ねて治癒と支援でもかけとこ……
「忌々しい乞食共め!我々は出来る限りの事をしている!それをお前達のような落伍者が邪魔して」
俺は木の棒を一振り。斬った。殺した。
青年を。
山賊たちは固まっていた。俺が感情のまま適当なチート斬撃を放った結果、やたら凄惨な現場になったからだろう。山賊たちが死んでないのは彼等の悪運の強さ故か、俺の無意識が個体向けスキルを選んだからかは分からない。或いは両方かもしれない。
死体は酷い状態だ。縦に両断されているが、同時に全身が潰れて中身が、これもぺしゃんこになって周囲に飛び散っている。地面にも切断跡の他に圧し潰したような跡がある。我ながらどういうスキルを使ったらこうなるのか分からない。棒切れ一振りの齎す結果としては物理法則的におかしいのでは。まあ物理なんて何も分からんけど、この世界の理が前世と違うのは確かだろう。どっかで子供向けでいいから「この世界の物理法則」的なのを勉強しないとなー。
いや、分かってる。人を殺した。分かってるけど、やっぱり殺せたし、何も感じないわけでもないが、それほど動揺もしていないし、後悔も無い。
むしろすっきりと清々しい気がしているのが危険だ。倫理的にって事じゃなくて、力に飲まれて調子に乗ってすぐ死にそうって意味で。死ぬのは怖い。転生しても、いや、転生して尚更そう思う。不老不死チートがあればよかったけど、むむむ、と改めてフィーリングしてみても、少なくとも今の所そこまでの超越者感はない気がする。
と、ずっと固まっていた山賊たちがよろよろと動き出す。こちらに敵意はもうないらしい。頭のおばさんが一歩進み出て、土下座のように額を地に付けた。DOGEZAはこの世界にもあるのかよ、なんかやだなー。
「無理を承知で、頼む。私の首一つで、こいつらは、見逃してやってくれないか」
「アネキ!何を言って」
「黙れ!……どうか、頼む。……それが叶わないなら、せめて綺麗に殺してやってくれ。私の身はどのようにしても構わない、から……」
完全にやべー奴と思われてるな。まあ否定できないけど。それにしても、命乞いはともかく殺され方に拘る辺り、山賊にも一分の魂か。……そりゃそうか。
「これまでに何人殺した?」
「……5人。こいつらの分も合わせるなら8人だ。……他に、妹より若い娘を売った事もある。一度や二度じゃない。……これまでに12人の女子供を人買いに売った」
「負けた。俺はこれで……3人目だ」
「は?」
「覚えてるんだな、人数」
「……忘れようにも忘れられなかっただけさ」
「これ、まあ一時しのぎにしかならないだろうけど」
俺は魔物の群れが残した石ころをポッケから取り出しては山賊達の前に転がした。この世界では魔物は死ぬとすぐ死骸が消えて、魔力の籠った石、魔石を残す。この石がこの世界における最重要エネルギー兼加工用素材らしい。魔石は魔物一体につき常にコイン一枚程度の石ころだが、魔物の種類、或いは個体差でも落とす石には質の違いがある。俺が全部転がし終わった魔石は、一つ一つは大した事ないっぽいが、量はそこそこ。
「それで300ダグ位にはなるんだろ」
300ダグがどの程度の価値なのかまでは聞きそびれた。値踏みした時の青年の様子から、それなりに大金っぽいけど。そう考えると貴族とはいえ石ころに何の執着も見せなかった青年にも矜持はあったな。潰れた死体を改めて見やる。やはり特に後悔はない。ただ、チート魔法で死骸を集めて地中に埋めた。同時に遺品を洗浄して小綺麗に纏め、山賊達の前にこれも転がす。
「追加で。じゃあ、さよなら。お互い長生きできると良いな」
山賊達は、感謝より、化け物を見るような眼でこちらを呆然と見上げていた。うん、転生しても根本は何も変わらない。それでも死ぬのが怖い以上は生きるしかない。俺は青年の遺してくれた情報を頼りに町へ向かった。




