1 プロローグ
気がつくと私は衛兵に取り囲まれていた。
「何者だ!?」
「暗殺者か?」
「ひっ捕らえろ!!」
辺りを見回すと、どう見ても中世の王城の玉座の間だった。玉座には王様っぽい人が座っているしね。
何でこんな場所にいるんだ?
思考が追いつかない。
私はだだ実家でゲームをしていたはずだけど・・・
★★★
私は佐藤マコ。25歳のOLだ。
大学を卒業して地元の運送会社に就職した。なかなか内定が取れない私を不憫に思った過保護な父がコネを使ってくれての就職だった。まあ過疎化が進む町だけど、父は一応町長だからね。3期連続無投票で当選してるけど・・・
仕事自体はかなり楽だけど、職場の人は子供の頃から知っている私を未だにお子様扱いしてくる。それはそれでしんどい。
この前、近所のおばあちゃんに「マコちゃんはどこの高校を受けるんだい?」と真顔で言われた時は流石にショックだった。まあ、童顔で小柄だからよく中高生に間違えられる。
もう立派な社会人なのに・・・
そんな私は最近、「聖女と勇者」という乙女ゲームにドハマりしている。
フリーのゲームサイトで何の気なしに始めたゲームだったが、大した趣味もない私は、このゲームに没頭するようになってしまった。
この「聖女と勇者」はオーソドックスな乙女ゲームで、「聖女」の素質を持つ平民の主人公が、貴族学校に入学するところから物語が始まる。
「勇者」のジョブを持つ王子様や騎士団長の息子、宰相の息子などの攻略対象と共に学園生活をエンジョイし、最終的には冒険の旅に出て、魔王を討ち倒すというものだ。当然、悪役令嬢も出てくる。一言で言えば、「ザ・乙女ゲーム」といった感じだ。
なぜ私がここまで、このゲームにドハマりしたかというと、それはこのゲームがフリーのゲームサイトに趣味で投稿された作品にも関わらずクオリティーが高く、そしてサイト内の掲示板に書き込めば製作者さんが真摯に対応してくれるからだ。
システムの不備や誤字脱字に留まらず、新たなジョブやスキルを提案すれば対応してくれたり、ストーリーの考察を掲示板に書き込めば、それに近いサブイベントを用意してくれたりする。
自分の意見が反映されるゲームが新鮮だった私は、どんどんと考察や提案を掲示板に書き込んだ。
自慢ではないが、8割方採用されたと思う。そして掲示板で私は、ちょっとした有名人になった。ハンドルネームは「マコッチ博士」。掲示板には私を称賛するコメントが多数並ぶ。
「マコッチ博士の考察は、いつも新鮮で感銘を受けますね」
「そのジョブはいいですね。製作者さん、是非とも検討をお願いします」
「悪役令嬢にそんな過去が!?その情報だけで判断したとは、流石はマコッチ博士だね」
最近、私が提唱している説は「悪役令嬢が実はいい人」というものだ。
ありがちな話だけど、私にはそう思えてならなかった。理由は色々とあるんだけどね。
これには掲示板の反響が大きかった。それに製作者から丁寧な返信メッセージも届いた。
「私もそのように考えていました。是非、マコッチ博士の案を採用させていただきます。来週月曜日の19時にアップデートしますね」
このゲームは既に本編は完結しているけど、それ以上に追加されるサブイベントが私の楽しみになっていた。
そして今日、19時にアップデードされるのを自室のパソコンの前で待っていた。
楽しみ過ぎて、会社の制服のまま待っていたんだけどね。
「悪役令嬢のカトレアがどんな人物か分かるのね。私の意見がどこまで採用されているか、楽しみだわ」
しかし予定の19時になっても、アップデードはされなかった。
「製作者さんも忙しいのかな?」
まあ、少し遅れたくらいで文句を言うべきではない。
20時になった。それでもアップデートはなかった。
「少し心配だな・・・製作者さんが病気なったり、事故とかに遭ってなければいいけど・・・」
掲示板にも心配する声が多数書き込まれ始めた。
そんな時、私はいきなり光に包まれ、意識を失った。
そして、今に至る。
★★★
記憶を整理して、改めて周囲を観察する。
玉座に座る王様に見覚えはなかったが、王様を庇うように立つ男性には見覚えがあった。
攻略対象の勇者であるカイン王子だ。それにその隣にはカイン王子の婚約者で悪役令嬢のカトレアがいる。
私は悟った、「聖女と勇者」の世界に転移したのだと。
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