第45話 水美のお願い
はー、楽しかったね」
水美が幸せそうにため息を吐いて、仰向けに寝転がった。長い時間うつ伏せだったので疲れたのだろう。
「ああ。こうして振り返るのも悪くないな」
「ん……ちょっと恥ずかしいのもあったけどね」
火凛はそう言って恥ずかしそうに頬を掻いた。
火凛の言う通り、恥ずかしい写真も少なからずあった。
……具体的には、火凛や水美が遠慮なくハグやらキスなど……色々してきた所が写真に撮られていた。
いつ撮ったものなのかは分からないが、水美と火凛が両頬にキスしているものもあった。どうして父さんは止めなかっ……いや、父さんなら止めないか。
そうしてアルバムを見終わった余韻に浸っていると、水美が何かを言いたそうにしていた。
ゆっくりと、髪を梳くように頭を撫でる。水美はこうしていると落ち着くのだ。
「……えへへ。兄さんには敵わないや」
水美は微笑み、俺の手を両手でゆっくりと包み込んだ。
「あのさ、兄さん。火凛ちゃん。二つお願いがあるんだ」
水美がじっと俺と火凛を見た。
「良いぞ」「良いよ」
俺と火凛の言葉が重なった。考えている事は同じか。振り向けば、火凛と目が合う。思わず笑ってしまった。
「え……えっと、兄さん? 火凛ちゃんも、僕まだ何も言ってないんだけど」
水美はそんな俺達を見て、困惑したような表情を浮かべていた。ぐりぐりとその頭を撫でる。
「水美のお願いなら何でも聞くぞ。今まで、全くと言っていいぐらいわがままを言ってこなかったしな」
「ん……水美ちゃんが無理なお願いはしないって分かってるし」
俺と火凛でそう言うと、水美は少しぽかんとした表情をして……ほう、と息を吐いた。
「……ダメだよ、二人とも。そんな事言ったら、僕……もっと二人に甘えちゃうよ?」
「もっと甘えろ。水美は良い子過ぎるんだ。……俺も人の事は言えないんだが、兄にまで気を使う必要は無いんだぞ」
そう言うと、後ろから火凛がくすりと笑う声が聞こえた。
「本当に人の事言えないね。でも、水音の言う通りだよ。水美ちゃんも、私の事……お姉ちゃんだと思って甘えて良いんだよ」
水美は火凛の言葉を聞いて……笑った。嬉しそうに。
「……ごめんね、やっぱり二つじゃなくてもっと多くても良い?」
「ああ。十個でも二十個でも良いぞ」
「ん。水美ちゃんが言いたいだけ言って」
水美は、手を伸ばして火凛の手を握った。
「じゃあ……一つ目。火凛ちゃん。私の事は『水美』って呼び捨てにして欲しい。それで、私も火凛ちゃんの事……『姉さん』って呼びたい」
火凛はその言葉に目を見開く。……そして、優しく微笑んだ。
「良いよ、水美」
「……! 姉さん!」
水美は感極まったように目を潤ませた。
「……じゃあ、二つ目。兄さんと姉さんに……抱きついて良い?」
「ああ、もちろん」
「ん、おいで……水美」
水美は一度膝立ちになって、俺と火凛に割って入り、両腕で抱きしめた。
今までに無いほど強い力で。絶対に離さないと言いたげに。
「大好き。兄さんの事も、姉さんの事も大好きなんだ。もう、離れたくないぐらい」
俺と火凛の手が同時に水美を撫でた。
「……すまなかった。水美には本当に寂しい思いをさせてきた」
「……ん。ごめんね、水美ちゃん。水音の事ずっと借りちゃって」
「ううん、二人が謝る必要は無いよ。それに……今、ここに兄さんと姉さんが居るから良いんだ」
水美の頬から雫が伝った。
「……ありがとうな、水美。本音を言ってくれて」
「ん。ありがと。水音もそうだけど、私達に気を使ったらダメだからね」
「……ありがとう、兄さん……姉さん」
水美を火凛と共に抱きしめる。
「……三つ目のお願いなんたけどさ。明日ね。三人で、お買い物に行きたいんだ。お洋服とか買って、お昼を食べて」
涙声で、突っかかりながらも水美は言った。俺は出来るだけ優しく背中を摩る。
「夢……だったんだ。中学生になってからずっと。兄さんと……姉さん。三人で、仲良く……遊びに行くのが」
「分かった、行こう。……これからも色んな場所に連れて行くからな」
思わずそう口に出していた。
火凛も、水美に柔らかく微笑んだ。
「ん……行こう、三人で。いっぱい、色んな場所に」
しばらく、水美が落ち着くまではそうして抱きしめていた。数分ほどすると、やっと水美は腕の力を弱めた。
「……そのまま寝るか?」
そう聞くも、水美はふるふると首を振った。
「戻るよ……だけど、あと一つだけ…………お願いがあるんだ。ごめんね、図々しくて」
「図々しいなんてあるか。言ってみろ」
水美は、少し躊躇った様子を見せた後に口を開いた。
「……明日まで、泊まっていって欲しいんだ。そうすれば、僕もまた頑張れそうだから」
迷う必要すら無かった。
「ああ、分かった」「良いよ、もちろん」
水美の手がピクリと震えた。
「いい……の?」
「ああ。断る理由がない。良い機会だし、火凛の父さんも連れてこよう」
「ん……そうだね。着替えもあるし。……下着だけ取りに行かないといけないけどね。でも、それはお買い物の帰りに寄ればいいから」
水美は四つ足になって俺と火凛を見た。
「ありがとう、二人とも。……最後にもう一回だけ言わせて」
そして、水美は俺と火凛に顔を寄せた。
「大好きだよ」
頬に暖かく、柔らかいものが触れた。水美はそれを火凛にもして、俺の隣へと戻った。
「……それじゃおやすみ! 兄さん、姉さん!」
そして、顔を隠すように俺の腕へと抱きついた。反対へ向くなどをしないのは水美らしいが。
「ああ。おやすみ、水美」
「ふふ。おやすみ、水美」
そうしてしばらくすると、水美から寝息が聞こえてきた。やはり疲れていたようだ。
火凛は、一度ベッドから立ち上がった。
「電気、消しとくね」
火凛は、そう言ってから電気を消し、アルバムを机の上へと移動させてくれた。
「ああ、ありがとな」
「ん。どういたしまして」
そして、火凛はまたベッドへ入り……俺に抱きついてきた。水美と対になるように。
甘い匂いが鼻腔をくすぐった。それと同時に柔らかいものに腕を包まれる。
「……お前な」
「ふふ。生で触りたかった? ……おっきくなり始めてるけど」
火凛の手が内腿へと伸びる。慣れた手つきで摩り始めた。
俺は火凛の反応する場所を知り尽くしているが、逆もまた然り。
「……やめとけ、火凛。それ以上すると水美を起こす事になる」
「ん。でも水音、今日一回も出してないでしょ? 体に悪いよ……それに」
火凛はくすりと笑って、肥大化した俺のモノを撫でた。
「このままじゃ寝れないでしょ? ……一回、口でするだけだから」
火凛に耳元でそう囁かれる。心臓がバクバクと嫌な音を立て始めた。
「すぐ終わらせてあげるよ」
その反対で、水美はとても良い表情で眠っていた。
◆◆◆
「……んぅ」
小鳥の囀りで目が覚めた。部活をやっているお陰で、こうして早起きする習慣が身についたのだ。
軽く伸びをしようとしたら、隣に兄さんが眠っている事に気がついた。その奥では火凛ちゃん……ううん。姉さんも寝ている。
「……そっか。そうだったね」
昨日の事を思い出せば、自然と頬が緩んだ。
「えへへ……兄さん。姉さん」
思わず兄さんに抱きついてしまった。兄さんは眠りが深いから、こんな事をしても気づかれない。
ごりっ
「……へ?」
「うぐっ……」
その時、硬いものが膝に当たった。それと同時に兄さんから苦しげな声も聞こえた。
「……まさか」
そこへ手を伸ばす。それは……硬いような、しかし柔らかいような。不思議な感触をしていた。
「う、うそ……こんなにおっきいの?」
僕の腕ぐらいあるんじゃないか。そんな事まで考えてしまう。
生唾をごくりと飲み込んだ。心臓がうるさいし、呼吸も浅くなる。
見ると、その部分が異様なほどに盛り上がっていた。
ダメだ。やっちゃいけない。そんな事は分かってる。
でも、見るぐらいなら…………
ズボンに手を掛けた。
「ダメだよ、水美」
「おおう……んぐ」
思わずビクリとして、それを握ってしまった。……手のひらで包めないほど大き――
「水美?」
冷や汗が垂れた。ゆっくりと、僕の名前を呼んだ方向を見た。
姉さんが、ニコリと笑顔で僕を見ていた。




