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星割の明滅閃姫  作者: 零の深夜
後章:崩壊境界のスターブレイク編
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50:シャムの魔道具


 「ほらコレなんかキミに良いんじゃないかな?」


 棚に刻まれた説明文を読み上げたネメアは、魔道具の入ったカプセルを一つ取り出してクロへと放り投げる。


 「わ、ととっ! これ、一つ一つは滅茶苦茶高いでしょ!?」


 「そうだね。魔道具を作る際、魔法文字同士の干渉は永遠の課題なんだよ。それをほら、シャム爺は魔物の素材を練り込んで加工する事で上手く防いでいるんだ。とはいえ、今度はその素材と魔法文字の相性が悪い事もあるし、文字同士の干渉も完全には防げないから、相当組み合わせを試行錯誤したんだろうね。価格はそれを生み出す為の努力を反映しているからね。それ一つでエルンの一般的な家庭が一年は遊んで暮らせるだけの金額がつくんじゃないかな」


 「そんな物を貰えるなんて⋯⋯」


 改めてネメアの素性の凄まじさを実感したクロはごくり、と固唾を飲んで取り落としそうになった手の中のそれをマジマジと見つめる。


 小さな薄紅色のハートを模った魔石を保護するように、黒色の金属が周囲を網目状に覆っているペンダントで、首にかけるための金の鎖には、細かい魔法文字がびっしりと刻まれていた。


 「ほら、文字の隙間に黒い斑点があるだろう? これがシャム爺の努力の結晶さ。それにしても、よくここまで小型化できたものだ。素直に感心するよ」


 「ほっほ。姫様こそ、流石でございますな。その品はワタシが丹精込めて五年の歳月を費やして開発した魔道具。ワタシの腕も姫様からお褒めの言葉を頂ける程度には鈍っておらんという事ですな。その魔道具の効果は説明欄に記載しております通り⋯⋯あぁ、口頭の説明よりも実際にご覧いただいた方が早いでしょうか。どれお嬢さん。魔石の中にある魔力をゆっくりと鎖に動かしてみなさい」


 「え⋯⋯と」


 ネメアに目配せをすると、肩を竦めて首を横に振ったため、観念したクロは言われるがままに目を瞑り、自身の体内とは別の場所に操作できそうな魔力を感知した。


 「おお。ちゃんと動く⋯⋯もう少し⋯⋯「適当な服を思い浮かべるんだ」えっ?眩しッ!」


 ネメアの声が割り込まれ、魔石の中の魔力が金の鎖に触れた途端、びっしりと刻まれた魔法文字が煌めき、クロの身体は眩い桃色の閃光に包まれた。


 「え⋯⋯と、特に変わった場所は無いかな⋯⋯?」


 クロがその場で一回転をすると、フリルのあしらわれた黒色のスカートがふわりと舞う。


 「ん⋯⋯な、なにこれっ!?短ッ!」


 クロは咄嗟にスカートの裾を内股に隠してしゃがみ込み、涙を浮かべた瞳でネメアを睨みつける。


 「ふぅん。なるほどねぇ。若干予想はしていたけれど、こうもあの時から乖離していると、いよいよキミは⋯⋯いや、もう手遅れか」


 頬を赤らめて何かを伝えようと口をパクパクと動かすクロに、ネメアは首を横に振って諦観の意を全身で表現する。


 「その魔道具の名前は“物質変換器”。名前こそ大仰ではあるけれど、その効果はキミの考えている通りさ。ボクが名付けるとしたら“どこでもお着替えくん”と言ったところかな。それよりも、適当な服と言ったのに咄嗟に思い浮かぶのがソレとはね。すっかり身も心も乙女だね」


 「心までなんて、そ、そんなわけ⋯⋯」


 「おや。夜中に寝床を抜け出して一人ファッションショーを繰り広げているのにかい?」


 「なっ⋯⋯なんでそれ知ってッ!」


 「ん。クロ。かわいい」


 いつの間に開封して手に取っていたのか、イリスが板状のソレをクロに向けると、カシャカシャ!というシャッター音が店内に響いた。


 「イ、イリス? それは何?」


 「ほら。かわいい」


 そう言ってイリスが見ていた画面をずい、と鼻先に突きつけてクロに見せる。


 「ゔっ⋯⋯これ、私?」


 そこには、もはや見慣れた黒髪の美少女が、ファンシーな黒い衣装に包まれ、瞳を潤ませている姿が鮮明に映し出されていた。


 「それはかの勇者、イノリ殿がかつて使っていたとされる動画をワタシが再現したもので、名を「ああ、スマホ、と本人は呼んでいたね」⋯⋯スマホと言うらしいです」


 有無を言わさぬ視線に耐えきれず、シャムは肩と頭を垂れた。


 「へぇ。魔法文字だけでこれだけの再現度⋯⋯うん。よく作り込まれているね。特にこの多機能性と切り替えの速さ。そして省エネルギー化か。使い方によっては他国を凌駕する兵器にもなり得る代物だよ」


 イリスの手元にあるスマホ、と呼んだ魔道具を眺め、満足そうに頷いたネメアはシャムに詰め寄った。


 「これ、ボクも欲しいな〜」


 「ええ。コレは元来魔伝石に似た性質の物。相手がいなくては、と意気込んだ甲斐がありました」


 そう言ってシャムは棚の奥に手を伸ばすと、筒状の収納箱からイリスのそれと色違いの同じ物を取り出した。


 「さすがシャム爺だね。用意がいいじゃないか」


 「ええ。そして更に⋯⋯先程イリス殿が撮られた写真をスマホ同士で送信する事も可能なのですよ」


 ほう?と興味深げに眉尻を上げたネメアはシャムからの教えを受けると、手に持った板から音がした。


 「おお。本当にできた。コレは⋯⋯艦の皆も喜ぶね!」


 「そ、それは消してぇ!」


 シャムの魔道具店には、クロの悲痛な叫びが木霊するのだった。

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