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星割の明滅閃姫  作者: 零の深夜
後章:崩壊境界のスターブレイク編
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36:激戦の後


 「グ⋯⋯ア⋯⋯マダダ⋯⋯マダ、ボクハ⋯⋯!」


 既に虚瘴機兵を形作っていた瘴気はレミの歌によって浄化され、至る所に穴の空いた、メイメツと同じくらいの体長まで収縮した虚瘴機兵は吼える。


 身体中のいたる所にできた傷口から瘴気を吐き出しながらも、メイメツを睨みつけて左腕を伸ばす。


 空間に広がった瘴気をかき集め、最後の抵抗を見せたアルマに、クロが咄嗟に動く。


 『“来い(アクセス)”』


 クロが頭の中で思い描くのは、かつて勇者として活躍した“異世界からの救世主”イノリ・クルセの亡骸。


 「ちゃんと⋯⋯埋葬してあげなきゃね」


 暖かな光に包まれてアルマの身体から抜き出されたイノリの肉体は、空からゆっくりと降りてくる。


 『ヨホホまだその亡骸には利用価値がありますのでねぇ』


 瞬間。真っ黒な影が伸び、イノリを包む光の球を掴むと、一瞬にして消え去った。


 「マリス!」


 怒気の滲むクロの声をものともせず、マリスは土まみれの体を払い、自身の影に飛び込む。


 『この恨みは一生覚えておりますよぉ。特にそこのクソ親子供はなぁ!』


 突然語気を強めたマリスは捨て台詞と共に大量の瘴気を影から吐き残して消え去る。


 『これくらいの瘴気、レミの歌で⋯⋯レミ!?』


 竜を模した真紅の夢幻機兵から慌てたような声が響き、クロが魔力探知の網を広げると、その容体はすぐに把握できた。


 「レミの魔力が尽きそうだ! これ以上無理はさせられない!」


 「クロ!だめ!」


 腕が痛む程のイリスの制止も聞かず、クロは目の前に広がる赤黒いモヤへと視線を向ける。


 「座標指定(ロックオン)来い(アクセス)!」


 クロがそう唱えると眩い閃光が迸り、メイメツの目の前にあった瘴気は瞬く間に消え去った。


 「うっ⋯⋯ぐぅ⋯⋯」


 苦悶の表情を浮かべたクロは自身の左胸を押さえて倒れ込むと、そのまあま意識を手放すのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 アルマ、マリスとの激戦から丁度一週間が経ち、万全とは言い難いが、ある程度の回復が見込まれたクロは、清浄の姫園の面々と共に、イリスの父親でありガルドニアの国王、ファルガの座す謁見の間に招かれていた。


 「ん。えー。この度は貴公らの活躍により⋯⋯我が国の民に迫る脅威から⋯⋯え〜⋯⋯」


 感謝の意を述べるが、何処となく歯切れの悪いファルガに、イリスは冷たい視線を向ける。


 「クロ、居なかったら他の国と戦争」


 「くっ、し、しかし!やはり娘を獲られるのは!」


 ギラリ。鋭い眼光で睨みつけられたファルガは眉尻を下げて盛大にため息を吐いた。


 「⋯⋯薄らいだ意識の中、我は瘴気に蝕まれながらも懸命に空を舞う夢幻機兵の姿を見た⋯⋯確かに功労者たる貴公らを無碍にするわけにも⋯⋯」


 その後、数分に渡って頭を抱えて考え込んだファルガは、腹の底から響くような溜息を吐き出して目の前に並んだ清浄の姫園の面々を見据える。


 「⋯⋯⋯⋯イリス。お前の好きにしなさい。主の相手について、我からはもう口出しはせぬ」


 そう言い放つとファルガはすっくと立ち上がり、彼女達へと頭を下げる。


 「そんな!ファルガ様! 王が頭を下げるなど⋯⋯!」


 シャルがファルガを諌めるが、彼は姿勢を崩さぬまま言葉を紡ぐ。


 「今回の事で我は思うのだ⋯⋯いつまた奴らの魔の手が襲い来るかも分からぬ⋯⋯貴殿らの言う“獣幻粉”。それが使われれば、我らはなす術もなく奴らの傀儡となるであろう。なれば、事情を知っているアストラーダ王国と同盟を結び、抑止力となってもらう事が、最善ではないか、と」


 その言葉を受けたシフィは顔を綻ばせ、玉座の前の階段へと躍り出る。


 「これより我らは対等⋯⋯我らの為に尽力いただいた事、恩に着る。この恩には必ず見合うだけの力を貸すと約束しよう」


 階段をゆったりとした動作で降りたファルガはシフィの手を握り、優しく微笑んだ。


 「はい。こちらこそ、よろしくお願いいたしますわ」


 と、盟約の意思を取り交わし、シフィとネメア、メルナを残して解散となり、手持ち無沙汰になったクロはイリス、ネメアと共に城下町を闊歩していた。


 「クロ。人混み、平気?」


 ふと、柔らかく握られた感触にクロが尻尾を膨らませると、左手を握るイリスの姿を見る。


 「ん?あぁ。なんか平気みたい。前ほどの活気が戻ってないのかも」


 マリスの襲撃から一週間。半壊した建物を建て直す獣人達の姿がちらほらと散見される大通りを歩きつつ街の状況を観察していると、不意に掛けられた声にクロ達は振り向く。


 「クロ姉ぇにイリス姉ぇ! あの後、クロ姉ぇが倒れたって聞いて心配したの!」



 クロはやや考え込んだ後、腕をぐるぐると回してミリィを横抱きに抱えた。


 「ほらこの通り。もう大丈夫だよー。折角会えたんだし、一緒に何処か行く?」


 そんな提案をしてしまった後で、クロは足を踏まれる覚悟をしてキュッと目を瞑るが、意外なことにイリスを見ると、穏やかな笑みを浮かべていた。


 「ん。ミリィも大活躍。ご褒美」


 「ありがとなの!」


 手渡された手のひらに収まるほどの大きさの紙袋に手を突っ込み、中から溢れる程に鷲掴みにした飴玉を口一杯に頬張り、ミリィは満面の笑みを浮かべた。


 「あまあまなのぉ〜」


 イリスは目をキラキラと輝かせて頬を膨らませるミリィの頭を優しく撫でる。


 「ふふ。詰まるよ」


 クスリと嫋やかなな笑みを浮かべるイリスを眺め、クロはゆっくりと足に込めていた力を抜く。


 想いを伝えて良かったぁ。余裕が出来て蹴られなくなったか。と、少しだけ寂しさの混じる安堵の息を漏らすクロの心を見透かしたのか、イリスはジロリと冷ややかな視線を向ける。


 「浮気。ちょん切る」


 「ぅえ!? な、なんの事!?」


 二本立って左右に揺れる指の動きに顔を青ざめさせたクロは、サッと太ももの前で手を交差して守る。


 「()()


 「ミ゛ャッ!?」


 左右に揺れていた尻尾を掴み上げ、イリスの指がクロの臀部へとゆっくり上がっていく。


 「こ、こんな街中で⋯⋯ら、らめぇぇぇぇ!」


 クロの鳴き声とほぼ同時に、クロの真正面から高齢女性の叫び声が響く。


 「誰か!その鞄を取り返しておくれ!」


 足が悪いのか、叫び声を上げた女性は、震える足を懸命に動かして目の前を走る少年の姿を追いかける。


 反応が遅れてすれ違ってしまった男に、クロは手を翳して呟く。


 「これも同盟のためだ⋯⋯“来い(アクセス)”!」


 クロが手を伸ばし、遥か遠くに見える、帽子を被った小さな背中に照準を定め、練った魔力を解き放つ。


 「あ、あれ!? なんで!来い(アクセス)来い(アクセス)!」


 何度同じ動作をしても、あの青白い光が輝く事はなく、虚しい空気と共に少年の姿が遠くなっていく。


 「凍れ」


 いち早くクロの異変に気が付いたイリスがポツリと呟くと、少年の足元に氷のトラバサミが食いついた。


 「うぎゅ!」


 ドシャッ!と地面を擦る音と共に倒れ込んだ少年の腕から鞄を取り返したイリスは、クロが背負った女性に鞄を手渡す。


 「な、何すんだ! 街で魔法を使うのは重罪だろ!?」


 荒々しい口調の少年は、クロに睨みつけて吠えた。


 「⋯⋯確かに。ここはアストラーダじゃないから。わ、私は魔法使ってない⋯⋯というか使えなかったからね! 捕まるならイリスだけで!」


 クロは焦りを誤魔化すように精一杯の冗談へ変えると、くつくつとネメアが笑う。


 「王族が捕まるはずないだろう? それよりも、クロ君の身体、少し調べさせてもらうからね!」


 鼻息を荒くしたネメアはクロの手を引き、城下町の一角へと姿を消すのだった。

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