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星割の明滅閃姫  作者: 零の深夜
後章:崩壊境界のスターブレイク編
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16:村中の調査


 「いやはや、本当に申し訳ない! てっきり我々は獣人を奴隷のように扱う部族の襲来かと思いましてな!」


 武装解除を促され、ゲイト族、と名乗る彼らの村へと通されたクロ、イリス、そしてミリィが清浄の姫園の活動について語り終えると、彼は瑠璃色の鱗に覆われた頭部を押さえ、申し訳なさそうに頭を下げる。


 「ヴァンおじさんはいつもそうなの! ミリィの話を聞く前に殴りかかるの!」


 頬を膨らませ、憤慨した様子で腕を組み、ふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向いたミリィに、ヴァンと呼ばれた男は頭を垂れる。


 「そりゃあ、お前さんの機体だけがボロボロなら、どんな扱いを受けてきたのか容易に想像できるってもんよ!」


 爬虫類を彷彿とさせる縦に開いた瞳孔と、その鋭利さを見せつけるように、ギラリと牙が姿を顕にしていた。


 「ひぅ! ヴァンおじさん怖いなの!」


 「おっと? こりゃすまん」


 そんな気安い会話に、クロが目を見開いて見つめていると、イリスが彼女の手を握り、とんとん、と優しく叩く。


 「クロ。大丈夫。あの人たちは、争いを好まない。見た目は怖いけど」


 「おいおい。見た目が怖いは余計だろ! ま、言われ慣れてるけどな!」


 ズラリと並んだ牙を見せ、ガハハと笑うヴァンに釣られ、自然とクロも笑みを浮かべていた。


 「それで、なんだってこんな辺鄙な村に来たんだ? ハンスの奴はこの辺りは迂回するはずだろ?」


 そんな疑問を呈しながら首を傾げたヴァンに、クロが先陣を切って話す。


 「それは我々の依頼による物です」


 と、続けようとしたクロに、ヴァンがいやいや、と首を横に張る。


 「腹割って話す時にゃ堅苦しい言葉なんざいらねぇぜ、嬢ちゃん」


 胡座をかいて座るヴァンに真正面に座るよう促されたクロは更に続ける。


 「えーと⋯⋯うん。私たちはアストラーダ王国から派遣された部隊、清浄の姫園は、ここの辺りを通ったと思われるマリス、と言う男を追って⋯⋯」


 と、ハンスにした時と同じように、アストラーダ王国であった事件と、獣幻粉の説明を簡潔に説明した。


 「そんな奴が世間にはいるってのか!? 許せねえ⋯⋯」


 ギリリ、と牙を砕けそうな程食いしばったヴァンは、自身の傍にあったキノコの傘を無造作にむしると、鼻に近づけてすう、はあ、と深呼吸を繰り返す。


 「⋯⋯悪いな。取り乱した」


 「いや、そうなるのも当然だと思うけど⋯⋯それは?」


 彼の手元にあるキノコを指差しクロが尋ねると、その視線に気がついたのか、ヴァンは握りしめていたキノコを彼女に見せる。


 「ん?ああ、これはゲイト族に伝わる風習でな。傘が白いキノコの頭をむしり、その香りを嗅ぐと怒りや興奮が収まるってもんだ」


 クロは驚いたようにイリスに視線を向けると、彼女もまた、目を見開いてクロを見つめていた。


 「それ、少しだけ分けてもらえない?」


 「いや、それは構わん⋯⋯って言おうと思ったんだがな、すまん。実はこれが最後の一束だったんだ。これを取りに行くには、お貴族様の抱える農地か、危険なスライム地帯を抜けて取りに行かなきゃならん」


 はぁ、とため息を吐いたヴァンにクロは少し戸惑いつつ口を開いた。


 「えっと、それならそのお貴族様? に分けてもらったらいいんじゃ⋯⋯」


 クロの言葉に、ヴァンは首をブンブンと勢い良く横に振る。


 「あんないけすかねぇ奴に頭を下げるなんざまっぴらごめんだね!」


 「えぇ⋯⋯? それじゃあ、ここの村の人たちはどうやってそのキノコを手に入れてるの?」


 「そりゃあおめぇ、やっぱ最後にものを言うのは、ここだろう!」


 ヴァンは盛り上がった二の腕をパンパンと叩き、ニィ、と笑みを見せた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 『俺からはお前らの姿はよく見えてるが、お前らからはよく見えてないだろ?』


 『霧の中はまだ慣れてなくて⋯⋯』


 『あぁ、ここは微量の魔力を纏った霧が立ち込めてるからな』


 「ねぇイリス。もしかして、これ⋯⋯」


 「ん。多分、クロと同じこと、考えてる」


 蒼と黒の装甲を纏ったメイメツの中で頷きあったその時、クロの首元に付けたチョーカーが点滅を繰り返す。


 それにクロが触れ魔力を流し込むと、若干のノイズが走りながらもネメアの声が聞こえる。


 『あー、聞こえるかな? 今キミたちの目の前に広がる霧と、そしてこの、ずっと調べていたキノコの胞子の解析が終わったよ⋯⋯これはどうやら、魔力を纏った胞子を射出して、より遠くへと飛ばすよう進化した類の物だね。それが、ヒトの身に入ると突如の魔力飽和による幻覚や目眩、そして最終的には催眠状態に陥ってしまうんだ。くれぐれも、気をつけるんだよ』


 ブツっと音を立てて通信が切れると、クロはため息を吐きながら正面に広がり、真正面に広がる霧を見つめて呟く。


 「これは少し厄介⋯⋯かも?」


 一寸先すらも霞むような霧の中で、クロの声は簡単に吸い込まれてしまった。

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