17:霧中の再捜査
『ヴァンさん達はどうやってこの霧の中を分けて入ってるんだ?』
霧と木々に覆われた森林の中を先導し駆け抜けるウルグを見て、クロが疑問を口にする。
『ヴァンで良いぞ。俺たちゲイト族は元々熱源が視えるからな。⋯⋯速度を上げる。はぐれるんじゃないぞ』
それだけ言うと、ヴァンは手元の魔石に魔力を一杯に注ぎ込むと、ウルグの鈍色のボディに赤いラインが浮き出ると、それが残光となって霧の中を染め上げた。
『ヴァン!? ⋯⋯急にどうしたんだろ?』
クロが小首を傾げていると、人型になったステラが、青い装甲に包まれた指を彼女の背後に向けると、即座に身を翻して走り去る。
「げっ⋯⋯そう言う事!? ミリィ!」
高々と聳え立つ木々を見つめ、ぼうっとしていたミリィの乗るウルグを抱え、メイメツが勢い良く駆け出したのを見たスライム達が、ぷるぷると透き通った体を震わせた次の瞬間、その身は崩れて煌びやかな色を持つ槍となって木々の間をすり抜け襲いかかる。
『クロ。へーき?』
銃口から白煙を上げる長銃を片手に、ステラからイリスの声が響くと、メイメツの背後では氷漬けになったスライムが次々と積み重なり、鮨詰め状態となっていた。
ミシミシと軋む音を上げ、太い幹がしなる様子から、あまり持たないだろう、と判断を下したヴァンは、細い枝の上に飛び上がり、こっちだ!と大声を上げる。
『この数は尋常じゃない! ヴァン! 理由はわかる?』
銀色のウルグの近くにあった比較的太い枝の上に飛び乗り、
『あぁ?おおかた、夢幻機兵のコアに使われてる魔石の魔力に引き寄せられてきたんだろ。⋯⋯後で教えてやるから今は着いてこい!』
ヴァンのウルグが足に力を込めると、ギリギリと音を立ててしなった細枝の反発力を利用して勢いよく駆け出す。
『しつこいし、面倒だねぇっと!』
ステラの凍りつかせたスライムを足蹴に、メイメツも、また反発力を利用してヴァンの後ろに追従する。
『本体は倒したはずなんだけど⋯⋯』
『そんな簡単に撲滅できたら俺たちは二週間も悩んで⋯⋯いや、今のは忘れてくれ』
最後尾を走るステラが足元に流れる川を蹴り上げ、大きな水飛沫を作り出すと、瞬時に冷気の込められた弾丸を撃ち込む。
最後尾を走るステラの背後まで迫っていたスライム達はたちまちのうちに水分が凝結し、霜を全身に纏う氷像と化した。
『やるなぁ、ちっこいの!』
『ん。ちっこいの、違う。わたし、イリス』
段々と余裕が生まれてきたのか、先頭をひた走るウルグの顎門がかぱりと開かれると、その口腔に内蔵された銃口が顕となる。
『おぉそうかい。俺はゲイト族長のヴァン様だぁぁぁぁ!』
瞬間、ヴァンの咆哮に応えるようにクロ達の視界を埋め尽くすほどの紫電が放射され、目の前を塞いでいたスライム達を跡形もなく蒸発させた。
『道は切り拓いたぞ! 今のうちに!』
応!とクロ、イリスが返事を返すと、先程まで感じていた気配が一つ無くなっている事に気がついた。
『あれ、ミリィは!?』
クロが周囲を見渡すと、ぽっかりとその場所だけ何も感じない場所がある事に気がついた。
『捕まえた!』
『ぴっ! なんでわかったなの?』
『それは後で。』
声を震わせるミリィを乗せたウルグの手を引き、メイメツは数瞬のうちにヴァンのすぐ後ろまで追いつく。
鬱蒼とした森林を抜けた先、木々が人為的に切られ、視界の開けた場所に着いたその時の事だった。
『おう、もうすぐ着くぜ。⋯⋯お前達の終着点になぁ!』
先頭を走るウルグが身を翻し、そうヴァンが言い放った瞬間、無数の鋭利な槍先がメイメツに向かって放たれた。
「ほいほいほい、あ、ほいっと、ああ。これは返すわ」
瞬時に背中のクロガネを抜き放ち、全ての槍を叩き切ったメイメツは、そのうちの一本を強引に引きちぎり、銀色のウルグへと投げる。
『なにっ!?』
数瞬、反応の遅れたヴァンは魔力を練り上げることももまならず、ウルグの前足の膝から下がごっそりともげる。
魔導銀の剥き出しになった前足を視界に収めたヴァンは、牙を剥き出しにして吠える。
『なぜ⋯⋯なぜ分かった!? ここは魔力探知のできない森だ! この奇襲は絶対に⋯⋯』
その言葉を遮るように、メイメツがクロガネを振り下ろすと、操縦席に十字の傷が生まれ、内部のヴァンの姿が剥き出しとなった。
メイメツの操縦席を開け、クロは太ももに巻いたベルトから二本の短剣を抜き出し、水色のスカートをひらりと翻しながら飛び降り、ヴァンの首元にそれを突き付けた。
「えーと、あぁ、今度は立場が逆になったね。さぁ、これはどう言うことか、説明してもらおうか?」
「くっ⋯⋯」
収納していた爪を立て、クロを引き裂こうと背中から手を回し、襲いかかる。
「動くな!」
クロが足元の腕を踏み潰すと、ヴァンから短くも痛みに悶える呻き声が上がった。
クロの足に入れる力を段々と増していくに連れて、ヴァンの顔色は朱か、蒼へと変わっていく。
「わ、分かった!これ以上は止めてくれ! 腕が折れちまう!」
後で追いついたイリスが懐から手錠を取り出すと、彼の両腕に掛ける。
「⋯⋯俺はどうなっても構わねぇ。だから、村の連中には⋯⋯」
「まあ、話は後で聞かせてもらうから」
クロは彼の言い合える前にその体をひょいと抱き上げ、ウルグの操縦席から飛び降りると、彼の身体を地面に転がすのだった。




