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星割の明滅閃姫  作者: 零の深夜
前章:生還、性転換、英雄譚!編
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前章エピローグ:明滅閃姫の誕生


 グレンと虚竜の襲撃から数日が経った頃。


 皺だらけの体は丸みを帯びた愛らしい滑らかな肌と化し、すぅすぅと寝息を立てる幼女へと変貌したグレンを、医務室に並ぶベッドの側で見つめたクロは、はぁ、と息を吐いた。


 「あの威厳たっぷりだった爺さんが、こんな姿になるなんてねぇ⋯⋯」


 「ははは、それを言ったらキミだって、待機命令を無視して一人で突っ走って行くほど勇敢な騎士だったのに、今はこんなに可愛らしいお嬢さんになっているじゃないか。もうあれから三ヶ月も経つんだよ? そろそろ慣れて欲しいかな」


 やれやれ、と肩をすくめたネメアが笑みを浮かべ、ブカブカの白衣の袖から手鏡を取り出してクロに突きつける。


 鏡の中の少女は黒いドレスに身を包み、その生地と同色の髪を掻いて困り顔を浮かべていた。


 「あぁ、そっかぁ。まだ三ヶ月なんだ。⋯⋯私も他人の事言えなかったわ。はは⋯⋯って!? 元に戻る方法探してくれるんじゃなかったの!?」


 肩を揺すられ苦笑いを浮かべたネメアは、クロを見上げて視線を合わせると、ふるふると首を横に振って目を逸らした。


 「ネメア!?」


 「いやぁ、あれから色々考えたんだよ? 遺伝子配列をいじってみたり、体内の魔石を取り外す想定で演算をしてみたけれど⋯⋯どう頑張ってもキミの身体が破裂する結論にしか辿り着けなかったんだ。そもそもキミが生還している事自体が奇跡に近いからね」


 「そんな⋯⋯」


 「まあ、身体には不具合も無いんだろう? むしろ、マリアくんを救ったエルフの魔力探知、そして獣人の感覚器官を併せ持つキミと、その転移魔法は相性が良さそうに見えるけれどね」


 「そんなもんかなぁ?」


 「まあ、何はともあれまずはキミの叙勲式だ。犯罪者から一転、街の英雄に返り咲いてしまったね。おっと、わざわざ遠いところから駆けつけてくれた人も居るんだ。ここで駄弁っているよりも、先に挨拶を済ませておいた方が良いんじゃないかな? グレン君とマリア君の事はボクに任せておくれよ」


 ネメアにそう退室を促されたクロは小さく頷き返し、医務室を後にすると、真っ先に真正面の窓から見える景色に目を見開いた。


 「晴れてるねぇ⋯⋯」


 アストラーダ城の豪奢な造りの窓に手を触れ、城下町の様子を見れば、多少の建物への被害はあったものの、既に夢幻機兵を使った復興が街の至る所で行われていた。


 「マリス⋯⋯」


 グレンを裏切り、絶望をもたらした存在の名を口にして唇を噛み締め、クロは一つ頬を叩く。


 「ここにいても仕方ないか。さて、皆まだ街の中に居てくれてると良いけど⋯⋯」


 ポツリと呟いたクロは顎に手を添えて歩き出す。


 「まずはイリスに会いたかったけど⋯⋯今はダメか」


 道すがら、先程ネメアとの話の話題に上がった超感覚を使い、イリスの魔力の波長を探ってみるが、彼女の周囲には魔力の反応が複数あり、とても近づける状況ではないと判断したクロは、こめかみに手を当てる。


 「ん〜⋯⋯レミとメルナ、シフィ様は五王様に呼ばれてるし、リアは夢幻機兵の修理を邪魔するわけに行かないし、困ったなぁ」


 ふと、手に視線を向けると、薄らと錠の跡による痣が目に入った。


 「そうだ。幻影の杖も返したいし、丁度いいかも!」


 王城の地下牢へと感覚を向けてみれば、空色の魔力反応と、それと相対する薄紅色の魔力の持ち主が相対している。


 「ネフィルとラスティかな⋯⋯?」


 急ごう、と足を一歩踏み出したその時クロは、はたと気が付いた。


 「そっか。もう隠さなくていいんだった。⋯⋯じゃあ、時間もないし遠慮なく。転移!」


 「クロ⋯⋯」


 クロが青白い光に包まれ、消えた彼女の姿に想いを馳せ、ぎりりと奥歯を噛み締めるイリスの姿がそこにはあった。




 青白い光が徐々に収まり、目を開けたクロが次に目にしたのは、鉄格子を隔て会話するラスティとネフィルの姿だった。


 「あ、クロお姉ちゃん!」


 「おやぁ? 誰かと思えばいつぞやのぉ⋯⋯」


 ねっとりとした口調は相変わらずか、と胸を撫で下ろしたクロは二人へと更に一歩近付く。


 「ラスティ。今回はその、ありがとう。本当に助かったよ」


 「そんな! お姉ちゃんには助けてもらってばっかりで⋯⋯」


 「そんな事ない! ラスティが居なかったら私は今頃、処刑台の上で焼き殺されてたもん!」


 「お姉ちゃん⋯⋯それじゃあ、うん。どういたしまして!」


 にへら、と笑みを浮かべたラスティに、クロも自然と口角が上がる。


 「それでぇ、アナタはお礼のためだけに来たのですかぁ?」


 格子に遮られ、表情を読み取る事はかなわなかったが、その口調には少なからず思うところはあるのだろう。若干の不機嫌さを含んだ声に、クロは苦い笑みを浮かべた。


 「そのつもりだったんだけど、貴女が不満そうだからもう少し居座る事にした!」


 「なっ! 嫌がらせですかぁ!? 早く出てってくれませんかねぇ?」


 あまりの物言いにクロは、長い耳をピクピクと動かしてネフィルと視線を合わせて鼻を鳴らす。


 「ふん。そんな憎まれ口叩くなら意地でもどかないから!」


 ラスティの隣に腰をおろしたクロは、おもむろに手を伸ばすと、その手のひらが青白く発光する。


 「ラスティにこれ、返そうと思ってさ」


 クロの手に握られていたのは豪奢な装飾の施され黒い柄が特徴的な、幻影の杖だった。


 ラスティは差し出されたそれをしばらく見つめ、やがて目を閉じて小さく首を横に振る。


 「それはまだクロお姉ちゃんが持っててよ。私よりも、お姉ちゃんの方が使う場面がある気がするから⋯⋯それに」


 「それに?」


 「持っててくれればまた返しに来てくれるでしょ?」


 へへ、と悪戯っぽく笑うラスティに、クロは頭の後ろを掻いた。


 「わかった。それじゃあ、これは預かる事にするよ」


 「ぐぎぎ⋯⋯」


 歯をギシギシと鳴らし、忌々しげに顔を歪めたネフィルと目が合うと、クロは眉をひそめて耳を畳むと、すっくと立ち上がる。


 「居座ろうと思ったけど、これは不快だわ⋯⋯。ごめんラスティ」


 「ううん。気にしなくていいよ。それよりも、クロお姉ちゃん、もうすぐ式典だよね? それならここに居ないで準備しなくちゃ! あ、ドレス似合ってるよ! 髪の色と一緒にしたんだね!」


 真珠のあしらわれた豪華なドレスを翻し、クロはその場でポーズを取って見せた。


 「ふふ、ありがと。それじゃあ、行くね」


 「うん。また会いに行くから!」


 手を振るラスティに別れを告げたクロは、再び青白い光に包まれて姿を消す。


 「さてと、次は⋯⋯」


 王城の天辺に備え付けられた浄化石の前で、クロは額に手を当てて庇(ひさし)をつくり、眼下の街を眺めた。


 「あれ、ワイズとガリム、それにロクスまで! 冒険者ギルドに集まって何やってるんだろ?」


 好奇心の示すまま、クロは青白い光に包まれてその場を後にする。


 乾杯!とジョッキのぶつかり合う音が木造の屋内に響き、三人は中に注がれた金色の液体を一気に煽り飲み干した。


 「いやぁ。それにしても大変だったなぁ」


 ワイズが口元の髭を撫でつつ今回の事件に想いを馳せると、鼻の下に泡をつけたガリムが同意に小さく頷いた。


 「ほんとっすよ! クロの姐御が処刑されるってんで慌てて飛び込んできたら街の前に魔物がわんさか居たんすもん! ロクスのアニキが知らせに来てくれなかったらどうなっていた事か⋯⋯」


 「よせよせ、俺ぁアニキなんてガラじゃねえぞ。それに、おめぇのアニキはワイズだろ?」


 「それこそやめてくれ。ただの上司と部下だよ」


 二杯目に手をつけたワイズがちら、と正面を盗み見るように目を開けると、盛大に口の中にあった液体を噴き出した。


 「うわ、ばっちぃ! 何やってんすかワイズさん!」


 「ゲホッ⋯⋯いや、だってお前の後ろに⋯⋯」


 ワイズの指先を視線で追いかけ、ガリムが恐る恐ると振り向くと、片手にジョッキを持つクロが立ち尽くしていた。


 「あのさぁ。人をオバケみたいに扱うのやめてくれない?」


 「いやいや、気配もなく後ろに立ってたら怖いだろ!」


 「ああ、それもそっか。ごめんごめん、それより、アルコールも程々にしておきなよ? 三人とも受勲式に出るんでしょ?」


 「姐さんも飲みに来たんすよね!」


 「いや、私は三人が丁度視えたから寄っただけで⋯⋯これジュースだし」


 「酒場に来て飲まないなんて勿体ないっすよ!⋯⋯もがッ!」


 ジョッキを片手にクロへ詰め寄るガリムの口を、ワイズが手で塞ぐ。


 「クロは未成年だっつの! 騎士が捕まったら笑い話じゃ済まねえぞ」


 「ギ⋯⋯ギブゥ⋯⋯」


 頸動脈を締め付けられ、顔を赤くしたガリムが彼の丸太のように太い腕をタップする。


 「おっと、すまん。つい締め落とすところだったぜ」


 カッカと笑うワイズを、ガリムが恨めしそうに睨みつける。


 「それよりクロ、良いのか?」


 「ん? 良いって、何が?」


 口内に広がるリンゴの爽やかな風味に舌鼓を打っていたクロが首を傾げると、ワイズが顎髭を撫でる。


 「そりゃおめぇ、叙勲式はもうすぐだろ? もう時間だぜ」


 鼻歌交じりに喉を潤すワイズの言葉に、クロ鞄の中にしまっていた時計と、街の中央に置かれた時計塔の針を見比べてクロの顔はみるみるうちに青く染まる。


 「うぇ、私の時計壊れてる!? なんで三人ともそんな余裕なの?」


 「俺らはパスしたからな。あんな堅苦しい式なんざゴメンだね」


 それに、とワイズは懐からズダ袋を取り出して机の上に置いた。


 「報酬なら、たんまり貰っちまったからな。ネメアさんに聞いたら山分けしても良いってよ」


 ちら、と中身を見れば薄紫色の魔石がぎっしりと詰まっていたため、その話は真実味を帯び、クロの顔色はみるみるうちに青く染まる。


 「ご、ごめん、私行かなくちゃ!」


 「お、おう。大変だなぁ。あ、そうそう。そのジュース代は気にすんなよ。コイツら持ちだからな」


 「えぇっ? そりゃ無いっすよワイズさん!」


 からからと笑うワイズを尻目に踵を返したクロは、ふと再び彼らに向き直る。


 「その⋯⋯色々とありがとね。皆が居なかったらオヤジと戦うどころじゃなかったから」


 それじゃ、と口にして黒いドレスの裾を翻し、青白い光を放って消え去ったクロがいた場所を見つめ、ガリムが額に手を当てる。


 「やっぱクロの姐さん良いっすねぇ。強くて綺麗で、時折可愛い⋯⋯」


 「まあ、こんな昼間から飲んだくれてる騎士かぶれじゃ手は届かんわな」


 どこか鎮痛な雰囲気を生み出した三人は、小さくジョッキを鳴らし合うのだった。



 再び王城へと足を踏み入れたクロは、深く息を吸い込み、五芒星を象った模様の描かれた扉の前で敬礼をとる。


 扉の奥から聞こえる怒声がクロの耳をつんざいた。


 「なぁ、本当に授与するのか?」


 「ガラク! まだそんなこと言ってんのか! 夢幻機兵の動けない中、勇敢に戦った者は讃えられてしかるへまきだろう」


 「し、しかし⋯⋯!」


 「アイツが犯罪者だって? 馬鹿を言うな!理不尽な待機命令を無視して果敢に飛び出した勇ましき者だろうが! あの待機命令が不当なものだったと判明した今、アイツにはその罪は無くなっただろうが!」


 「ぐ、ぐぅ⋯⋯」


 怯んだガラクに畳み掛けるようにファズの声は更に勢いを増す。


 「今回の事件に真っ先に動いたのもアイツだ! 破れかぶれの部分もあったかもしれないが、正直、夢幻機兵の全魔力を吸われてた時点で俺らになす術は無かったんだ!」


 しかも、とファズは声のトーンを落としてガラクに詰め寄る。


 「虚竜の導入をを勧めてたのはお前だな。アレは瘴気への耐性は高いかもしれないが、詰まるところ許容量を越えれば凶暴化する欠点が見つかったわけだ。この責任はどう取るつもりだ?」


 「ぐっ⋯⋯ぬぬぅ⋯⋯論点をすり替えないで頂きたい! 今はあのガキ、クロ何某の処遇をどうするかでしょう!」


 「論点のすり替え? あぁ。ならアイツの処遇について戻るか? 正直言えば、俺はアイツを敵に回したくない。理由が分かるか?」


 「あの黒い夢幻機兵、メイメツを所持しているからでしょう! それなら、あのガキから取り上げれば⋯⋯」


 「ところがどっこい。そうも行かねぇのよ。あの機体には魔力の波長登録なんて鍵をかける機能が付いてる。俺には分かるぜ。ありゃあ金持ちの仕業だな」


 「そんなもの、命令を出せばどうとでもなりましょう!」


 「魔力登録は一回こっきりなんだとさ」


 それだけじゃねえ、とファズは唇を尖らせて唸る。


 「今回アイツの援護に来た紫の夢幻機兵、ジャルクの建造は相当のコストが掛かってんだ。アレだけでなんとディピス六機分だとよ。まあ、魔物に大破させられたディピスの寄せ集めらしいから、実際の費用はそんなに掛かってねえらしいけど」


 それと、と更にファズは続ける。


 「水の街、ファウンティから来たあのちっこいのだが⋯⋯アレはマズい。あそことの取引でそっぽ向かれると、やっと入ってきた水に関する製品が全部パーになっちまう。あそこの化粧水はうちのカミさんも愛用しててな⋯⋯あー、これはまあ良いか。とにかく、あのちっこいのは敵に回しちゃダメだ」


 「正直な話、あれだけの戦力に残りの国守の五将(ペンタグラム)三人と幾つかの量産機で勝てると思うか?」


 三人?とガラクが聞き返すと、ファズは大きく頷く。


 「あぁ。何をどうしたのか、“竜姫”メルナもアイツの処刑には反対なんだとさ。さっき直談判しに来たわ」


 「ぐ⋯⋯それでは!」


 「そ。アイツがフューリーに乗り込んで清浄の姫園(クリア・ガーデン)として活動してた時点でもう選択肢なんざねえのさ」


 「それこそ、国家反逆の罪で捕らえれば⋯⋯」


 「んー⋯⋯アイツ自身は素直に捕まってくれそうなんだけどなぁ。後が怖い怖い。しかも自分の事に無頓着な所がまた怖いな。アイツ多分今の話聞いても「あれ? 私そんなつもりなかったのなぁ」とか言うぜ、きっと」


 ヒラヒラと手を振ったファズはおどけた様子で話を進める。


 「それで、称号なんだが⋯⋯やっぱメイメツに乗ってるし、そのまま“明滅”でいいか?」


 「えっと、あの、“閃姫”って名前はどうでしょう? 実際に“彼”だった頃は戦鬼って呼ばれていたみたいですし⋯⋯」


 今までずっと発言をしていなかったタルシャがおずおずと手を上げて発言をした。


 「ふぅん。閃姫か⋯⋯あ、不味い。時間がねぇ! もういいや、混ぜちまおう!」


 扉の前で立ち尽くしていたクロは思わず言葉と溜息が口を裂いて出る。


 「⋯⋯なんか、皆に助けられすぎてるね、私」


 そう今回集まった面々へと思いを馳せていると、扉が魔力によって開かれた。


 「クロ・リュミナーレ! 入場を許可する」


 入場を促されたクロが足を踏み出す度、その目は驚愕に見開かれていく。


 以前のような暗い雰囲気の五王の間とは打って代わり、謁見の間と呼ばれるこの部屋は、アストラーダ王国のあらゆる力を象徴するかのように豪華な作りになっていた。


 「本議決を持って、貴公の罪は無罪放免とし、実績を鑑みて国守の五将(ペンタグラム)への昇進を言い渡す! そして、称号として“明滅閃姫”の名を与える!」


 ファズが手元の紙を読み上げると、周囲にいた騎士一同とネメア、リア、レミ、シフィが盛大に拍手喝采を巻き起こした。


 「ついては、貴公に最初の命令を下す。隣国、ガルドニアに赴き、国交を結んで来るがよい! 以上!」


 以降は清浄の姫園のメンバーの名前が読み上げられ、幾許かの褒美とクロの任務へと同行を促す旨が伝えられ、叙勲式はつつがなく終了し、その場は解散となった。


 正門が開かれ、集まっていた者たちがゾロゾロと退室する中、クロは周囲を見渡すイリスの姿を見かけ、声をかけた。


 「イリス。良かった。実は⋯⋯」


 「クロ。あとでフューリー、へや、きて」


 「わ、分かった」


 イリスのいつもと同じあまり変わらない表情と、漏れ出した冷気にゴクリと喉を鳴らし、クロはゆっくりと歩き出す。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 クロは街の時計塔で少し時間を潰した後、王城に停泊していたフューリーに備えられた、イリスとの二人部屋の扉をゆっくりと押し開ける。


 「あの、イリス⋯⋯いる?」


 「やっときた⋯⋯」


 「えっと、まずはその魔力を抑えよ? やり方教えたのは何年前だったかな」


 「やっぱり、たいちょー⋯⋯なの?」


 「す、すみませんでした!」


 クロは素早く床に四肢を着けて、ベッドの上に腰掛けるイリスへ頭を垂れる。


 「まず、すわって」


 イリスがベッドの上から僅かにズレ、一人分の空間が空く。


 「え、でも⋯⋯」


 「すわれ」


 はいっ!と思わず敬礼を返したクロはイリスの隣へと飛び乗る。


 「えっと、ここからどうすれば⋯⋯」


 「手、だして」


 はい、と答えたクロは両手を前に突き出して次の指示を待つ。


 「目、とじて」


 言われるがまま、クロは両目を閉じて待つ。


 次の瞬間、カシャンと軽い音を立ててクロは両手の自由が無くなった事に違和感を覚える。


 「ん? ⋯⋯あれ、私もうコレ嫌なんだけど!?」


 慌てて目を開けてみれば、アストラーダ城の地下で掛けられた物と同様の手錠がクロの手には掛けられていた。


 「クロ。うるさい」


 「んぶっ!?」


 イリスは暴れるクロを押し倒し、その口を己の口で塞ぐ。


 「ぜったい、はなさないから」


 その後、クロの叫び声にも似た声は、三日三晩続いたとフューリーの点検に訪れたリアは語るのだった。

〜前章:生還、性転換、英雄譚! 編 完〜

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