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「案外、あっけないものね……」
プリメラ草の件を父がすべて引き受けると約束してくれて、私が抱えている仕事は何もなくなった。そしてちょうどその間にセシルは意図的に長期任務で隣国へと行かされている。そのタイミングで、私は眠り姫によって急逝したこととなった。
「アイリーン様……」
「レイラ、私ね」
周囲がバタついている間に王都の郊外にある王家所有の離宮に移り住んで、これからは過ごすことになった。今日はその出立のためにいつもの自室ではなく違う部屋で待機していた。一緒に待っていたレイラに自由になったら、やりたいことがあるの。そう言おうとしたとき、慟哭が響いた。
『おひいさんが、死んだ……? そんなわけないだろう!? あのお方は俺を置いて逝ったりしない!!』
『セシル、現実を受け入れるんだ。俺だっていまだに信じられないけど、もうアイリーン王女はここにはいない』
『なん、で……、あ、ああああああぁぁぁぁああっ!!』
心が引き裂かれるような気持ちになるほどの叫び。セシルに言わなかったことを後悔していた。でも、もう遅い。私は、セシルを愛した私は死んだのだ。
『セシル、もう一度だけ言う。姫殿下は、ここにはいない。俺の言いたいことはわかるな?』
セシルの叫び声が、ふと、止んだ。そしてやけにルイスのその言葉ははっきりと聞こえた。ルイスは、もう私がこの場にいないことを再度通告していて。生きているということを隠している、その事実に胸が痛んだ。
そのあとに交わされた言葉に私は気づかなかった。ルイスと父が共謀していたことに。
アイゼリア王国第一王女、アイリーン・レインヴェルクが奇病である眠り姫によって急逝したと、国内国外に向けて正式に情報発信された。
亡骸に会えるのは王族のみであるが、第二王女と第一王子はまだ幼いということで実際に会えたのは父である国王だけだった。棺は少し細工をして重さを演出し、国葬された。
そして私はアイリーン・レインヴェルクという名を捨てて、セレスティアという名を、父より与えられた。父によって新たな身分を与えられた私は、表向きはアイリーン・レインヴェルクとして死に、セレスティアという病弱な貴族の娘として療養していることになった。
「セレスティア様、一週間後に来客ありますよ~」
「来客? お父さまかしら?」
「うん、だね」
「わかったわ」
ルイスに世話を焼かれながら、次の予定を知らされる。なんだかんだと、王女ではなくなったものの、父一人では王宮内の仕事を回すのは大変なので、父と談笑するというお仕事をもらった。それ仕事なのか、と首を傾げたけれどあとで騎士団長のロイドさんに息抜きのためのお仕事だと言われて納得した。
レイラは今、買い出しに行っているのでここにはいない。ルイスは笑顔で話をしているものの、どこか門扉の方へ意識を持って行っているのがよくわかる。
「ルイス、今日……、誰か来るの?」
「あ、あー……。その、ええ、まぁ。あっ、レイラさん帰ってきたみたいなんで俺、ちょっと行ってきまーす」
「あ、ちょっ」
気になるので、ルイスを問い詰めると明らかに彼は逃げ出した。でも警戒しているという感じではないので、大丈夫か、と納得するあたり、私もなかなかではある。
庭先でゆっくりと椅子に座って日向ぼっこをしていると、後ろで足音がした。ルイスかレイラが戻ってきたのかな、なんて思って振り向こうとして所だった。
「お、ひい、さっ」
「え?」
私の耳に、恋焦がれて諦めた人の声が、したんだ。




