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『お前の大切な人のために、これからの人生を生きなさい。よって、対外的にはお前を病死扱いとする。生存を知るのは私と、宰相、近衛騎士団長ロイド、第一王女専属侍女レイラ、お前の側付き兼護衛の密偵、ルイスのみとする』
『お、とうさま……、セシルには知らせないのですか……?』
『お前は、セシルには知られたくないようだったからな』
父との会話を思い出す。父は何でも私のことなどお見通しだった。この調子では私がセシルを愛していることも気づいているのだろう。気づいていての婚約関連についての発言だと、私は思う。
たしかに、父の言う通り私はセシルに知られたくない。大切な人のために人生を生きなさいと、自由を約束してくれたけれど、矛盾していることはわかっている。父は私が身分に囚われない、自由な人生を生きろと言ってくれた。それなのに私はセシルに知られたくない。
自分が、セシルを置いて逝ってしまう可能性があることを、知られたくはない。まさか、という気持ちは、大きい。まさか自分が、伝承レベルとは言わずともめったに見かけない病に罹患するとは思っていなかったから。
もしかしなくとも、あの古書店の店主であろうおじいさんも、眠り姫に罹患しているのだろう。一人ではない、そのことが今の私の支えでもあった。そもそも絶対数が少ない未来視という異能、数少ない同じ異能を持つ人に出会えただけでも、奇跡というものだ。
『私はね、アイリーン。お前の幸せを、一番に願っているのだ。もちろん、ルドルフやアンジェリーナの幸せも。お前の選択した意思を、私は尊重する』
意思を尊重すると言ってくれた父の姿を思い出す。父は少し淋しそうな表情を浮かべていたのが、印象的だった。
「お父さま、ありがとうございます」
私は、お父さまの娘であれて、幸せだと思う。未来視があるとわかった娘を、政治の道具にすることも利用することもなく、ただ自分の人生を歩みなさい、と応援してくれる。本当に素敵な国王陛下だ。
私はこの国を治める一族の一人ではあるが、その前に一国民でもある。父の治める国で、その政治の一端だけでも担わせてもらったことは、誇りだ。
「失礼いたします、アイリーン様」
「レイラ、どうかしたの?」
「アイリーン様宛に、お見舞いの品が届いております。現在、近衛とともに検品しておりますが、どうなさいますか?」
「ああ……、面倒くさい作業をありがとう。検品し終わったら、すべて私の部屋にお願いします。返礼返送くらいは、自分でしますから」
「かしこまりました、そのように手配します」
「ええ、お願いね」
明日からは、また学院に通いながら公務をしなければならない。さらにお見舞い品へのお礼状などの動きも含めると、また忙しくなる。シルヴェスター教授にもいろいろと報告しないといけないこともある。
「まあ、大丈夫よね、まだ」
自分に残された時間がどこまであるのかは、わからない。だからこそ、怖いのだ。これから先、自分が何をするべきなのかを迷う日が来るだろう。それでも、私は前を向く。




