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ティアートロリアの謎  作者: えりせすと
第二章
84/139

あいつ、何か殺しにかかって来てない? 

 目の前から襲い来る炎の矢を、素早く振るった剣の風圧で薙ぎ払う。


 何時もの愛剣ならば斬撃に寄って斬り払う事も可能だが、今回手にしたのは普通の短剣だ。

 一般的なものよりも僅かに刀身が長いのみで、特殊な素材などは一切使われていない。

 それでも、鍛え上げた鍛冶屋の腕が良いからか、一般的に出回っている物よりも硬度も切れ味も全く段違いだ。


 此方が矢を防いだのが解ったのだろう、フィアナが新しく術式を展開しようとしている。

 開始前に結んでいた手はとうに解き左手は胸元の紋章を掴んでいる、ようだった。


 右手を優雅にくるりと回しながら何かを呟いたのが見える。

 合わせて彼女の周りに今度は風が巻き起こった。

 それを視覚するなり、ジークルトは大きく後ろへ飛びずさる。

 鼻先を風が凪ぐのを感じてから、後ろ足を強く蹴り前へ疾駆する。


(流石に大きな術式は使ってこない、か)


 今回ジークルトが何時もの愛剣を使用しなかったのには、二つの理由がある。

 先ず一つ目、あの剣はこういった場では使わない様にしていた。

 鞘に収めている分には問題ないが、余り人前に露出するなという風にイヴェニルに言われている。

 彼にも使われている素材は皆目検討も付かないくらいには、特殊なものらしい。

 悪戯っぽく笑いながら、あの剣を鍛えて持ち帰ったあの女の顔が脳裏に浮かぶ。


 絶対感謝なんてしてやらない、あいつが勝手にやった気紛れだ。

 そう考えるものの、愛剣には何度も危機を乗り越えるだけの突破口を与えてもらって来た。

 本心から突っぱねることが出来ないのがまた、堪らなくしてやられた気分になる。


 目前に迫ってきたジークルトに笑みすら浮かべて、フィアナは跳躍する。

 風が、そして重力が彼女の体を支え上げて高く高く跳び上がる。

 空中でくるりと反転してから、彼女は両腕を地面に立つジークルトへ突き出して、また何かを唱えた。


 上から的確に彼の頭上に落ちる落雷を前へ出る事でかわしてから、空中の彼女の様子を伺う。


 今日は足に絡みつくような長いタイトなスカートだ。

 初めて会った時と同じような、黒のシックな色合い。

 上半身は体にぴたりと沿うような白の生地に乳白色のフリルが幾重にも重なっていた。

 くるりと空中で回転しても、その滑らかな動きすらも目で追える程には布の遊びが少ない。


「相変わらず意識しない奴だなぁ」


 思わずぽつりと感想を漏らしてしまう。

 まぁ本人が気にしないならば、ジークルトが何かを言う必要もないだろうな。


 次に二つ目、フィアナがレオンハルトに学ばせたいと思ったのが術式師対騎士戦だからだ。

 あの剣で片っ端から術式を切り捨てながら悠々と彼女の傍まで近寄り、術式を妨害してしまう訳にはいかない。

 当然彼女も此方を近寄らせないだけの戦術は取ってくるだろうが、そもそも『術式を斬り捨てる騎士』との戦闘を見せた所で、少年の学びには繋がらない。

 故郷からこの偏狭の街に辿り着くまでに様々な出会いがあったが、生憎と同じやり方で術式を斬り捨てる騎士や戦士は終ぞお目に掛かった事が無かった。


 余程、あそこには化け物しか居なかったんだろうな。


 とは言え愛剣がない場合でも剣は扱い一つで様々な事が出来る。

 矢程度の大きさの炎ならば、風圧などで薙ぎ払う位なら可能だ、と彼は考えている。

 その思考自体も一介の騎士はそう持ち得ないものではあるのだが。


『想いの篭った斬撃は、火を斬り水を裂き風を抑え雷を返す』

 師の言葉を思い出しつつ懐かしみたい所だが、そうも言ってられない。


 そのままゆっくりと落ちてくる訳ではなくて、フィアナは重力を以って落下の勢いを制御したらしい。

 跳躍した高さにしては早く、彼女の姿が降りてくる。


 懐に割り入るには好機だろう。

 術式が展開されない事を確認しつつ、短剣を握り直した。

 流石に彼女を切りつける訳にはいかない、ならばどのように試合を終了へ運ぶかどうか。

 その後の試合運びを考えつつ、手にした短剣の向きを調整しその刀身を降り注ぐ光に翳す。


 空から降りていたフィアナへ刀身が反射した光が当たり、眩しそうに目を細め手を前へ翳すフィアナ。

 術式を使って風と重力によって本来の二倍か三倍程度の高さへ跳躍していた彼女だったが、既に今はもうジークルトの跳躍でも手が届くような位置にいる。

 彼女が目を瞑った瞬間にジークルトも跳躍し、フィアナの細い腕を掴み――


「無防備だわ、ジークルト」


 既に地に降り立っていたフィアナが、下から声を掛けて来ていた。

 紅色の唇を笑みの形に引き結んで


「イース・ブローラ・ハーヌ・スペアール・セィマ」


 彼女の周りに青い氷の槍が四本出現し、此方へ向かってくる。

 空中では身動きが取れない、本来ならかわすこともできない、のだが。


「チッ――」


 体を捩るようにして空中で捻りつつ、身に纏っていた外套を広げて投げる。

 恐らくは彼女の方からは、ジークルトの姿は見えなくなった筈だ――


 ブスッと鋭い音が四度。

 投げ放った外套が四つの槍に貫かれるのを確認して、思わず冷や汗が流れる。


(あれ、これって試合じゃないの?

 あいつ、何か殺しにかかって来てない? 気のせい??)


 ひらひらと舞う惨めにもずたぼろにされてしまった外套よりも早く地面に着地すると、その足で地を踏み抜くようにフィアナの傍へ駆け寄る。

 背後から彼女の腕を取り、ぐいっと高く上へ掲げた。


 この距離で、術式を放ってくるような真似はしないだろう、と思ったのだが。

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