そんな高貴な方っぽいの
昨日といい、今日といい。
周りの心なしか冷たい目線が、辛い。
まぁ気持ちは解らんでもない、理解しようと努力してやらんでもない。
自分のような冴えない普通の男が。
幼いけれど白銀の髪と紅玉の瞳が美しい少女と個室で食事していたり、漆黒の髪と瞳を持って優美に微笑む女性と街中を歩いていたら、勿論見る……そう、とても無遠慮に。
……でも俺の時は止めて欲しい。
切実に胸中で訴えながらも、もうどうしようもないので諦めた。
と言うか、あれだ。
人目のある街中を歩いているから、と言う理由以外にも、明らかに注目を浴びている。
理由は明白だ。
「頼む、頼むから」
何度目かの懇願を口に上らせる。
「腕組んだ上必要以上にくっついてしかも周りに笑顔振り撒くの止めてくれないか」
勿論聞き入れられはしないのは、承知の上だ。
「あら、何かご不満かしら?
折角素敵な男性にエスコートして頂くのですもの、きちんとしなければなりませんでしょう?」
嗚呼、また此れだよ。
彼女の生家であるドラシィル家は昔からの名家だ。
今でこそ術式師の最高峰が誕生したと言われているが、そもそもは商人の家系の筈。
常に新しい道具を産み出し、三代ほど掛けて巨大な財を築いたという。
そしてそこに王族と縁の有る貴族が、大恋愛の末に嫁いだとか……そんな、話が……。
嫌な予感がした。
「なぁ、ちょっと聞いて良いか?」
左腕に腕を絡ませながら、隣を歩くフィアナへ問う。
胸を押し付けてくるのは何でなのですかねぇ……わ、悪くは無いが。
でも好みは歳上、歳上のお姉様の色香ほど素晴らしいものはない……あまり出会わないけど。
「何かしら?」
「もしかしてお前の曾祖母って、家柄は」
「おばあ様は王家筋よ。
あの美しい白金の髪は、貴族以上にしか有り得ないわ」
確定してしまったよ。
つまりは王家筋の末裔かよ、こいつも。
やだなぁそんな高貴な方っぽいのと歩いているなんて、また何を言われるか解ったものじゃない。
基本的には、世の中は血統だ。
貴族の髪の色は金、純度が高いほど血が濃い。
……勿論出自が良ければ良い程、髪の色も澄んでいて美しい。
貴族は基本的に金だが、王家の血筋であればとても美しい白金となる。
それ以外はあまり色で判別は不可能だが、平民の髪色は茶色を基本として何色も混じりがある。
因みに自分の髪色は黒に近い焦げ茶、瞳は鳶色だ。
髪の色は血統であるが、瞳の色は実は良く解らない。
貴族であれば蒼や碧や翠が多く、種族が異なれば赤やそれこそ金眼だって存在する。
そして術式師も、血統が関係する。
詳しくは知らないが術式を使うことの出来ない人間も存在している様だ。
つまり世の中の大半は生まれた時に全て決まっているという事にも近い。
平民が貴族にはそうなれないし、術式が使えない人間は術式師にほぼなれないという事だ。
……まぁ世の中、さまざまな抜け道も存在しているとは言うが……残念ながら興味が無いので、知らない。
研究職などに聞けば解明されているのかもしれないが、飯の種にもなりそうもないし知らなくて良い事なのだろうと思う。
「と言う事は、曲がりなりにも王族って事か」
「些細な事ね。
私は魔女を目指す術式師。
それ以上でもそれ以下でもないわ」
言い切られた。
魔術師と魔女がどう違うのか解らないが、彼女なりのこだわりの部分の様だし、華麗にスルーするのが大人と言う物だろう。
「何か物申したいようね?」
ばればれでした。
「魔女とは?」
さらりと問う、と。
……ものすげぇ顔された。
美人がこんな顔して良いのだろうか、と言いたくなる。
「あのね、あの……もしもーし?」
「信じられないわ。
そんな事を知らない人が存在しているなんて」
「えっと……フィアナさーん?」
「多少なり学があれば、知らない筈はないのだけど……」
「それを言われるとちょっと辛いけど、いやでもさー」
「解ったわ。
これが無教養の野蛮人という奴なのね」
「……流石に其処まで言われると傷付くし、しかもこんな街中で威張って言われる言葉でもないし……」
辺りの視線に僅かばかりだが、険呑なものが混じる。
僅かに冷や汗をかきながら辺りへ気を配る。
「冗談よ。
有名な言葉ではあるけれど、術式師以外ではそう聞くことも無いでしょう」
それなら最初からそう言ってくれれば……と思わないでもない。
こちらの胸中など想像も出来ないとでも言いた気な表情で、フィアナは続けた。
「簡単に言うと、術式師での最高の称号に近いわね。
全ての学を修め全てを知り全てに通ずる、最高の称号よ。
ただ、少し特殊でね……固有称号になるの」
そこで少し言葉を濁す。
「昨日は少し取り乱してしまったから……。
出来れば、忘れて」
そう言い捨てた。
……気にならないと言えば嘘になるのだが、無理矢理聞き出す事へのメリットも感じられない。
大仰に肩を竦めて見せてから、答えた。
「お嬢様がそう仰るなら仕方ない。
聞かなかった事にしておくかな」
「……ありがとう」
ぽつりと、礼を言われた。
それすらも聞かない振りをして、辺りを見渡す。
連れて行って欲しい場所がある、と言われていた場所へ到着した。
「着いたぞ」
声を掛けてやる。
フィアナはきょろきょろと周りを確認してから、ジークルトの腕を開放した。
やれやれ、と首をこきこき鳴らしてから、彼女へ声を掛けた。
「しかし一体、どうしてこんな場所へ?」
彼女が指定したのは、少し入り組んだ場所にある教会裏手の修道院。
問い掛けてみるが答えは得られなかった。
代わりに、素気無く言われる。
「ありがとう、助かったわ。
ここ、男子禁制だし……とっとと去った方が良いわよ」
見惚れる様な笑顔でそう言い残し、フィアナは単身その修道院へと向かって歩き出した。




