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ティアートロリアの謎  作者: えりせすと
第二章
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この小芝居はまだまだ続くようだ

「わたくしは一切存じ上げておりません」


 そう言い切る彼女は眉一つ動かさない。

 身動ぎ一つせずにもしかしたら瞬きすらしないのではないかと思われる程に――あ、瞬いた。


「既に彼女は当リーヴスラシル家の御当主様に対して、暇を頂戴しております。

 彼女と個人的(プライベート)な繋がりがあるものも殆どおりませんので、フィノリアーナ嬢のご質問にお答えできる者はいないと思われます」

「そうは言うけれど」

「それよりもレオンハルト様がお待ちでいらっしゃいますよ。

 先日のあの立会いより、思う所があったようで日々書庫に入り浸っておられます」

「彼が何かを感じてくれたのなら、それは何よりね」

「幼少の頃より好奇心が旺盛でいらっしゃいますし、意欲も志も高くて素晴らしい事でございます」


 始まったよ、この館従業員一同の圧倒的なお坊ちゃま褒め殺しが。

 女の子に見紛う程の愛らしく可愛らしいその容姿。

 無垢なままに育ち我が儘も言うもののきちんと気遣いも出来て決して周りを不快にさせない。

 侍女であっても兵士であっても例えば生誕日などは覚えていて当日には庭の薔薇園から手折った棘の抜いた薔薇をプレゼントする。


 満面の笑顔で『いつもありがとう』なんて言われながら花を渡されて、落ちない女や顔がにやけない男はいないとか何とか。

 かといって際限無く甘やかされている訳ではなく、主には勉学に関する事のみ。

 怠惰や堕落へ向かう物事に関しては厳しく躾られているものの、勉学に関わる事であれば大抵が認められ許容され実施される。

 術式に関してもそういった理由から、態々外部へ講師の手配なども行ったと言える。


 にこにこと言葉を紡ぐ彼女に対して、げんなりとした声音で言葉を掛ける。


「シャルロッテ」


 笑顔のままで、口を噤む様子に確信した。


「此方の要求を解っていて、更に誤魔化している事が解る様なその言動は頂けないわ」

「流石フィノリアーナ嬢、でございます。

 確かにわたくしはお伝えする事が非常に難しい問題を抱え込んでおりまして、安易にお伝えして良いものかも悩んでおりました」


 ……どうやらこの小芝居はまだまだ続くようだ。


 何か伝えようとすることはあるものの、その内容を彼女が自ら口に上らせる訳にはいかないのだろう。

 だから敢えてフィアナが気付いた、そして問い詰めたという体を取って体裁を保ちたいのだと思う。

 彼女程の人間が、そう易々と此方に取って利となる情報を漏らす訳もないのだが……それが彼女の希望ならば当然、不用意な発言と取れる言葉も口に上る。


 結局再び、先月訪れたドラシィル家の前まで来てしまった。

 少し門外で待っているとシャルロッテがにこやかな笑みを湛えながら出迎えてくれた。

 館への立ち入りを促されたものの、ロイジウスやレオンハルトと出会いたくなかったためにフィアナは其れを拒否、門より少し離れた場所にて簡単に質問を投げかけた。


 つまり、『ナタリーは今現在何をしているのか?』という問いだ。


 一月前にリーヴスラシル家に雇われ、レオンハルトに対して術式を教えていた冒険者の彼女。

 フィアナが負傷して目を覚まさないジークルトに付きっ切りでいた間に、彼女はリーヴスラシル家での仕事を退職していた。

 眼が開いた事により元々の目標であった、彼女の兄の様な術式具現師になると決め、兄のいる故郷に戻った……と聞いている。


 そんな彼女がたった一ヶ月でまた再びこの街へ、戻ってくる筈がない。

 ……恐らくは別人だ、そう確認したい、確証が欲しい。

 ただそれだけの想いを胸に、フィアナはこの場所へ答えを探しに来たのだった。


 ――ジークルトの革袋(サイフ)を奪い取ったのが、ナタリーではないと思いたかった。


 ある人物に目標を定めその後ろを追跡し挙句は所有物を強奪するなんて。

 そんな事をするような人間ではなかったと、そう思いたいだけなのかもしれない。

 金銭に不自由のした事がないフィアナからすれば、他人の金品に意識を向ける存在と言うだけで違和感を感じる。

 更に奪い取っていくなんて、もう正に青天の霹靂と言っても良い位には驚く事だ。


 勿論、世の中には生きる為にそういった生業に付いている人間がいるとも知っている。

 しかし……裕福ではないかも知れないが、彼女は消して貧困という訳ではない。

 レオンハルトに対して術式の講師を行っていたように、彼女は何か収入を得る術を身に着けていた。

 術式師として活動ができなかったとしても、冒険者として日々の貨幣を稼ぐ事は可能なのだ。

 何せジークルトにも出来ている事を、彼よりも需要があるだろう彼女が出来ない訳がない。


 ……出来ないわけがないのだ、ならばもしアレが彼女だった場合、何のために?


「フィノリアーナ嬢」


 思考の渦に囚われ掛けていた彼女に対して、シャルロッテは相変わらずの微笑みを浮かべて言った。


「己の中で既に答えが出ている事柄を、他者へしつこく問うのは残念ながら淑女らしくございません」


 息を呑む。

 それから……、大きく溜息を吐く。

 シャルロッテが呆れ返る程にまで大きく吐いた溜息は、結局その空気をフィアナが吸い込む事で決着する。


「私の思考を肯定してくれているのかしら?」

「物事に対する思考は例え空論だと思えたとしても、実際は更に突飛なものだそうですよ」

「そうね、確かにその通りのようだわ」


 この相手はかなり性質が悪い。

 流石ロイジウスに使える侍女だと思ってしまう。


「アレは、ナタリーなのね」

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