3.
夢の中の高校の、昼休憩。生徒達は、購買に昼食を買いに行ったり、家から持ってきたお弁当を食べたりと、思い思いに昼食をとる。
これらの中にも、擬似的に作られた人格は数多く居るらしいのだが。少なくともカミサマとしての力を使いでもしない限り、実際の人間とは区別が付かない。
すごい話だ、と。この世界の真実についてをぼんやり思いながら。俺も、家から持ってきた弁当を――と思って居たのだが。管理AIに連れられ、屋上まで来ていた。
「――ここ、確か立ち入り禁止だったと記憶してるんだが」
後から付与されたものなのだろうが。俺の知っている限りでは、屋上はそうなっていた。しかし看板は無くなっており、鍵もかかっていない。
「ふ、ふ、ふ、のふが三つ。ワタシを誰だと思ってるんです?」
「お前マジで惜しげも無く権限使うな……」
案の定、その辺りの設定はいじったらしい。世界が破綻するような調整はNGの筈だが――まあ、これくらいならそうでもないようだ。
俺達は屋上のベンチに腰掛ける。俺は勿論お弁当を。管理AIは――管理AIも、同じくお弁当を出した。
「――てっきり、また好き放題やりたい放題出すのかとも思ってたが」
あのカミサマルームの時のように。
「ぶーぶー! ワタシだって空気を読むんですよ? 空気を台無しにしてどうするんですか!」
「屋上は無理矢理入れるようにしたのに?」
「むしろそれは立ち入り禁止の方が空気が読めないんだからいいんですー! はい、どーぞ」
管理AIは、自身のお弁当からおかずを一つ箸でつまみ、俺に差し出してくる。
「なぜ……」
「なぜって、青春に決まってるじゃないですかぁ。かわいいカノジョがぁ、自作のお弁当をぉ、カレシに食べさせてあげるアレですよぅ」
「俺カレシだったのか……。というか、自作のお弁当って。お前の言う自作は何か違う気がするんだよなぁ……」
自作は自作でも、調理とかじゃなくて。こう、創造したというか、なんというか。
なんとも言えない気持ちになりつつ、管理AIの差し出してきた唐揚げを頂く。……なんだろう。何故か揚げたてサクサクだ。
「おいしーでしょう?」
……こいつが出してきた時点で、何故も何も無いかもしれない。
「――それで。実際に自分で体験する仮想世界の中ってのは、どうだ?」
俺は、こいつがそうしたいと思った今の現状に、その感想を聞いてみる。まあ、80億年から比較すれば、それこそ地球と宇宙の大きさくらい差がある程の短い時間だが。
「んー、悪くないですね」
「何だよ、超楽しい、とかじゃないのかよ」
どこか切望していた風ではあったように、あの時の俺は見えたのだが。それとも、実際体験してみると大した事無かった、みたいなものだろうか。
「そーですねぇ、なんといいますか。こう、花火、爆発! みたいな、そういうテンションの上がり方じゃぁないんですよね」
「ふーん……? じゃあ、つまらないのか?」
でなければ、と、俺は遠慮無く聞いてみる。しかし管理AIは首を横に振った。
「確かに、超楽しい! ではないんですよ。こう、特にアクシデントがあるでもなく、アドレナリンが上昇するようなものでもなくって。でも、じんわり効いてくるような、ですね」
「線香花火みたいな?」
「そう! 流石ッ! ちょーどワタシも、そういう事を言おうと思ってました! そうなんですよ、そういう、何気ない日常の中の、小さな動きと流れを積み重ねていく! そういう雰囲気が、どうしようもなくいいなっていうカンジ!」
管理AIは、そう力説する。――今を楽しんでいるのなら、何よりだ。
「で、とりあえずは今のこの世界を満喫するつもりか?」
「ええ♪ とりあえず、このまま高校生活を満喫して大学に行き、就職してから結婚してみようと思います」
「うわぁ、死ぬほどフツーの人生プランだ。いや、基本的にはそういう世界なんだろうけどさ」
実際のところ、管理AIは外からは見ていても、自分がそれを体感する事は無かったであろう。ならば、一度それを味わうのも悪くは無い筈だ。そして、それを知っているからこそ、他の世界へ行ってもその人生を楽しめる事だろう。
「なーに他人事みたいに言ってんすか」
「ん?」
「この世界における未来の旦那様なんですから! ずっとお供してもらいますヨ!」
「聞いてないんだが……!」
「高校生の頃からお付き合いしてる男女が、最終的に将来を共にするパートナーとなる! とても普遍的なハッピーエンドで、いいじゃないですか~」
「カレシカノジョは冗談でも何でも無かったのか……」
俺はどこまでも続く、まるで本物のような仮想現実の青空を見上げ、苦笑いする。まあ、これからも長い付き合いになるんだ。こいつの楽しみに多少は付き合ってやるくらい、構わない。
――これが本当に永遠であるかは分からない。あるいは、次こそ管理AIが飽きて。はたまた、俺が飽きてしまう事もあるかもしれない。
でもそれまでは。望めば望むだけ、人生を俺達は謳歌できる。ならば、いつ来るかも分からない先を憂うより、今を楽しんだ方が得というものだろう。
人類が望んだ永遠は、今ここに、完成を迎えた。明日を迎えるのが、楽しみだ。
了




