6 破壊工作 その1
「これって意味あるのかな?」
ポリプレン子爵が所有するダンジョン隣接の科学工場で、プラスチック爆弾を鬼気として製造していると、シュパルが面倒そうに呟いた。
ダンジョンの魔物や敵軍に使用するため、銃や爆弾などの軍需製品に関する物は国で製造が管理されている。
貴族が製造に関わるときは、作成物の種類・個数や必要物資、金額、納期の内訳書を、毎月定期的に報告する必要はあるが、許可証の発行はそれほど厳しくなかった。
国の財政が圧迫し始め税金が徐々に上がり、国で重火器を製造してもコストが増すため、貴族家に委託し税を上乗せする方法が用いられるようになったためである。
資金が潤沢で家の軍備力が強い、侯爵・公爵・伯爵などは反旗を翻す可能性もあり制限が加えられるが、資金力も乏しいポリプレン子爵家が製造する分には、脅威と思われず比較的自由な活動ができていた。
つまり管理がゆるかったのである。
材料も人材もぎりぎりで(申告しており)、高税率で儲けもそれほどでない零細産業に人(管理者)を多数割くのも無駄だと思われていたのだから。
そこが盲点である。こちらで欲しいのは許可証のみだ。
ステナの資金力と人的コネクションで材料は集められるので、場所さえあれば何でも作り放題だ。
何なら地下も拡げようと、科学工場を地下5階まで拡張してみた。勿論、夜間にこっそり作ったので、仲間以外には内緒だ。
ステナチームの開業室は地下3階だ。今いるのはここである。
勿論、換気・洗浄はスキルもちがいるので、設置は完璧である。部分的には地上の工場より上等な場所もある。
地下1階:逃走経路
地下2階:工場
地下3階:開発室
地下4階:ステナ側研究者仮部屋
地下5階:ステナ・シュパル仮部屋
地下1階:何かあればここに集まり、地上に開通している隠し通路へ移動。
当たり前のことだが、この工場では国からの仕事を請け負っている。
余計な詮索が入らないように、本当の従業員には別伝票で1/10の量を製造させ休んでもらい、残りはステナ側で火薬の量を減らしたり使用できない所謂不良品の作成を地下工場で行う予定だ。
サンプルは本当の製品を検品させ、審査する役人に賄賂でも握らせておけば余計なことはまずされないだろう。
ステナ:「意味大有りよ。敵に油断させるためのエサだもの。明後日は誕生会。仕掛けるなら今夜ね」
?:「お任せ下さい。ステナさん。必ず設置いたします」
そう言って前に出たのが、ドリップとコレーだ。
2人は兄妹だ。タンドリー公爵家の次男の妾の子達だ。
平民の母は商家の美貌の娘であったが、次男に望まれ泣く泣く妾となった。その後、次男は伯爵家に婿入りする。
婿入り後も商家に便宜を図っていたが、妻に美貌の妾の存在が発覚したことで激怒され、商家に経済的な圧迫をかけ廃業を余儀なくさせた。
商業主の父は王都を離れ立て直しを図ることになる。
真冬の吹雪の道中、娘と孫達を連れ出すことにするが失敗。移動途中娘の馬車が離れてしまったのだ。
娘に執着していた次男は、常に妾である娘を付き人に監視させていた。
次男の妻はそれを知り、付き人を金で買収し情報を得て刺客を御者として放ち、王都からの移動中娘を殺害。
その際に子供の息の根も止めるつもりであったが、刺客が大声で「ウガアアァー」と大声でナイフをふり下ろした瞬間に、子供達の能力が発動。
2人の能力。
それは兄はバリアー『障壁・防護壁』、妹は防音『遮音:音を跳ね返して反射し音を通さない+吸音:音を吸収して小さくする』ものだ。
防護壁を作り、遮音で刺客を吹き飛ばした。刺客は何があったかわからなかったが、不測の事態のため撤退。
魔法が突然発動し、力を使い果たした2人はその場で気を失った。
目覚めた時2人は宿屋のベットに寝ていた。やや凍傷はあるが軽症だ。
ここはステナの住む拠点の町。帰路についていた際に、刺客を吹き飛ばす2人に遭遇したのだ。
2人の母の遺体を丁重に扱い、同室に安置した。
2人は反応のない母を受け入れられず、茫然としていた。
2人の祖父には何とか連絡が取れ、本妻からの差しがねであることが予想できた。
祖父は娘の亡骸を抱いて号泣した。
「私に力があれば、こんなひどいことにならずに済んだ。私のせいだ。ごめんな、ごめんな」
人目も憚らず泣いた。その背中にすがり付き、ドリップとコレーも大泣きした。
涙が枯れるまで泣いて、少し落ち着いたようだ。
正妻の執念深さに祖父は不安を抱いた。
このままでは孫の命も、再び危険に晒されると。
祖父は2人が魔法を使えることを知らないようだったが、そのまま伏せておくことにした。
知ったことで充分に扱えない状態ならば、余計な心配が増すだけだろうから。
必要ならば後日、本人達から話すだろう。
同じような境遇の子らを放っておけず、この町で預かることになった。
信用できるように自らと仲間の境遇も当たり障りなく伝え、いつか王族らに復讐の機会があれば手を貸してくれれば充分と伝えた。
「私の方こそ、是非ともお願いします」と、祖父は深く礼をした。
隣国での商業が早期に軌道に乗るようにと、多額の資金を貸し付け、隣国の王妃様コネクションの商家も紹介した。
もともと商才があるようなので、すぐ孫達を迎える力を持つはずだ。
それまで2人の魔法をコントロールできるようにすれば、刺客くらい返り討ちにできるだろう。と、思っていたのが3年前の話だ。
現在髪と瞳の色を魔法で変え、ポリプレン子爵領地のダンジョンの冒険者ギルド受付として2人に勤務してもらっている。
ドリップは16歳ながら、祖父の帳簿管理を手伝っていただけあり、経理業務に長けていた。
コレーは14歳ながら、大人びた風貌で20歳前後と言っても納得する落ち着きを持っていた。
気のおけない仲ならいつもニコニコだが、仕事中は一切の感情を捨てた受付嬢となっていた。またいつか外国を旅したいという夢のため6か国語が堪能で、周辺地域の言語なら聴書可能でさらに他国の言語も学習中である。
2人とも魔法で髪と瞳を茶色に変化させているが、母譲りの甘い美形は隠しきれず、目下伊達眼鏡で応戦中だ。
ちなみに冒険者ギルド長は私だ。剣の腕で勝ち取ったさ。見よ、腕の筋肉。魔法はあくまでも秘密だからね。
本来なら既に隣国の大商人となったこの子らの祖父クレッセントの、クレッセント商会に戻っても良いはずなのだがここに居座っている。
2人のことは好きだが、直接の復讐に付き合わせるつもりはないのだ。
だからいつも2人に「面倒なことにならないうちに、お祖父さんとこに戻んなよ。今なら髪を本来の銀髪に、瞳を菫色に戻して正体ばれたって、正妻の刺客なんかぶっちぎれるから。あんた達最強だから」と言って、サムズアップする。
2人は笑って最強なのは、何度もステナさんが言うので知ってますと言う。
ここに居たいからいると。
そして正体がばれてないのは、復讐時に都合が良いとも。
あの時2人を殺し損なった刺客はおそらく正妻に情報を伝えているだろう。ならばこのままで過ごすことで、油断を誘えると考えますと。
2人には国がどうなったら良くなるかとか、王族貴族が居なくなったらどんな風になるかのシミュレーションを、預かった時から食卓で夢物語のように聞かせていた。
私とシュパルのテロが成功したら、どんな世の中にしたいか考えて欲しかったから。まぁ、成功したらのことなんですが。
なのに2人はすっかりメンバー入りを決めているみたいで困った。
こっそりすれば大丈夫と思って、シュパルと練っていた計画もいつの間にか漏れていた。
シュパルは仕込みだけ手を貸してもらえば、納得するんじゃないと軽い。
まぁフェイクの爆弾設置なら、捕まらなければ良いかなぁ。
あれ、流されてる気がする。ヤバイヤバイ(汗)。




