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お母様はイケメンで失敗しましたが(笑)、最後に笑うのは誰?  作者: ねこまんまときみどりのことり


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グウェン(グラジラス)は真実を知る

 王宮では正式に王太子と任命された、リンディアスの婚約者選抜が忙しくなっていた。


 アガサ・マグダーリン公爵令嬢は、魔法師団副師団長、グウェン・ポルトコル(昔の名前はグラジラス・サクレット)の力を借りて、魔術の試験を乗り切っていた。


 本来の彼女の魔法は小さな火球を浮かすくらいなのだが、試験の時だけはまるで激流のような勢いになっていた。まあ、インチキである。


 礼儀作法や学力的な物は、やや他の候補者より上回っていた。多国語は交易のある3か国をマスターし、歴史も網羅する優秀さだ。


 王太子と血が近い(アガサは従妹にあたる)面以外は、十分に素質があると判断されていた。

 ただダンスや王太子との会話にぎこちなさがあるのは、及第点とされている。周囲には内緒にしているが、圧倒的に異性との会話やダンスの機会がなかったこともその一因だった。


 初対面でグウェン(グラジラス)から、「閨房術の勉強もしなきゃね」と言われただけで赤面していたほどだ。

(まあ、言う方も言う方だが)


 いくらこの国の成人年齢が16歳だと言っても、彼女の家庭教師は流す程度でしか教えておらず、彼女の両親も婚約者だったエキュー・サンガストンが、女性の扱い方を知っていると思い、そのくらいの教育で良いと許容していた。


 だがそのエキュー(サンガストン伯爵も含め)は伯爵家であるも、自領の鉱山から魔石が出たことで利権が膨らみ、ただの公爵令嬢であるアガサとの婚約にうまみがなくなった。そのせいもあるのか浮気を返し、彼女の方から婚約を辞めたいと、言わせる気だったのかもしれない。


 矜持が傷付けられたアガサは、それが理由で王太子妃を目指すことになった次第だ。

 

 当初の約束上、婚約解消・破棄時は、言い出した方に多額の慰謝料が発生することになっていたが、婚約解消をしたかったエキュー側はこれ幸いとばかりに、少額で解消の要求に応じた。

 公爵家は、サンガストン伯爵家の宝石鉱山から出る宝石加工の商売も行っていたが、これを機に手を引き別の領地から取り引きをすることになった。



 多額の資産を手にしたサンガストン伯爵家は、今後より条件の良い娘を探すことだろう。何しろ鉱山での売り上げの上昇で多額の税金を納め、近日中に侯爵に陞爵するらしい。


 幼い時からの許嫁同士で、さんざん公爵家を利用して商売をして来た伯爵家は恩を仇で返したのだ。


 

 婚約者に酷い扱いを受けたアガサが結婚に夢を抱くはずもなく、リンディアスのことは完全に権力目当てで婚約を狙っている。


 他の令嬢のような、「王子様格好良い~。お素敵です♡」とかの感情は、微塵もなかった。


 そんな彼女が最も関わっている男性は、最近になりこっそり毎夜会っているグウェン(グラジラス)である。

 こちらも恋愛感情はなく、彼はアガサを王妃にして、ポリフェノール家を潰そうと計画していたのだった。


 会っているのは、城で仕入れてきた有力情報や試験内容を伝える為である。


「ああもう、時間が全然足らないわ。グラジラスはそこに座ってお菓子でも食べててよ。キリの良いところで学習を終えるから」


「別に焦らなくて良い。勝手にやってるから」


 夜間に窓から訪れた彼に、脇目もふらず勉強をするアガサは緊張の欠片もなかった。入浴後で化粧も落とし、スッピンだって気にしていない。


 グウェン(グラジラス)もティーポットに茶葉を入れて、魔術でお湯を注いで勝手に飲んで待っている。その後は持ち込んだ魔法書を読んで寛いでいた。



 そんな生活を続けていたのだった。




◇◇◇

 けれどある日。

 

 いつもグラジラス(グウェン)を案じていた、魔法師団長マードック・ガルメシアは引退することになった。


 後任の魔法師団長は、実力で選らばれたグウェン・ポルトコルが就任することになった。


「重要な役職ですが、謹んでお受けしたいと思います」


 優秀なだけあり、実績と魔法の能力が優れている彼に不満を言う者はいなかった。


 以前は口数少なく不機嫌そうだった彼は、最近は雰囲気も明るくなり他者のミスも助けることがあったからだ。


 本人からすれば魔法の才のないアガサに教育することで、魔法師団の者の実力の高さを再認識でき、アガサとくだらないことを話していると、ストレスも減っていたからである。


(俺が師団長になれば、アマンダとの接触も増えるだろう。必ずポリフェノール伯爵家を潰してやる!)



 そんな彼の思いが勘違いであることを、彼を支えて来た前魔法師団長であるマードック・ガルメシアは気付いていた。


 魔法の誓約の為に、師団長を退いても業務秘密は漏らせない。けれど王に忠誠を誓う仲間であれば、内容の共有はある程度可能である。


 だからこそマードックは、王であるアセスからマズル・サクレットについて、話をして貰うことにしたのだ。


 ダラントス大公の罪と、彼の父であるマズル・サクレットのことを。




◇◇◇

 翌日グウェン(グラジラス)はアセス(王)の執務室に呼ばれた。


 その場にはいないが、扉の前にはアマンダが、天井にはダージリンが潜んでいる。


「我が国の太陽よ。グウェン・ポルトコル、御用命により参上いたしました」


「ああ、ご苦労。座ってくれ、マードックも」



 そのには既に執務室にいたマードックがソファーに腰かけていた。

「おう、グウェン。俺の隣に座れよ」

「師団長! お疲れ様です」


「何だよ。今はお前が師団長だろ。良いから座れよ」

「……はい」


 3にんがけの黒革のソファーが部屋の中央に置かれ、その一つに彼らが座り、その向かいにアセスが腰を下ろした。



「グウェン。引き継ぎが忙しい時にすまないね。でも今日は、どうしても聞いて欲しいことがあるんだ」


「はい。特に急ぐ案件もありませんので、是非お聞かせ下さい」


 頭を下げて聞く姿勢を取ったグウェンに、ポツリポツリと彼の過去に繋がる話を切り出した。



 マードックがポットから淹れたお茶の湯気が、静かに天井に昇っていく。





◇◇◇

 アセスが語ったのは、罪を犯した貴族家の断罪の裏の真実である。


「22年前の疫病で、町を壊滅させたと言われる事件。ダークエルフの呪いの件だが、あの断罪には表に出てないことがあってね。

 ある役職以外には秘匿されていることだったのだが、師団長になった今だから君に話そう」


 それは………………。


「22年前、実際にはもっと前からだろう。君の父であるマズル・サクレットは密輸や脱税、薬物の販売などに関わっていた。

 

 きっと代々続く家業だったのだろう。

 君の父も跡取りして逃げることも出来ず、それを引き継いだのだと思う。手口が巧妙で、ずっと尻尾が掴めなかったんだ。

 大公が無茶な要求をし、ダークエルフから報復を受けた街が壊滅したところまでは知っているね」

 

「はい……存じております」


 グウェン(グラジラス)は暗い顔をして俯いた。

 彼にとっては今も忘れていない出来事だ。

 



「君の父上は家業の危険性を知っていたが、取り引き相手には大物貴族も多いし、闇ルートの取り引き相手も秘密の漏洩を嫌うから、続けざるを得なかったんだと思う。

 たぶん無理矢理やめて他国に渡っても、殺されていただろう。それくらい危険な仕事だったんだ」


「そう、ですか」


 言葉を遮ることも出来ず、テーブルの上で指を強く組んで言葉を待つ。


 マードックも心配そうに、グウェン(グラジラス)の横顔を見ている。


「マズルは前国王に、嘆願した。自分は違法な商売に関わっていたから今さら減刑は望まないが、妻と子は許して欲しいとね。実際に彼は奥方には何も話していなかったようだ。

 けれど夫を愛していた奥方は、一緒に断罪を希望した」


「っ…………」

(父上はそんなことを……。そして母上は、父と逝くことを選んだ、のか?)


 

 マードックは混乱するグウェン(グラジラス)に、静かに声をかけた。

「思えばマズルは、学生の時からいろいろと悩んでいたよ。家業のことや、家業に懸命なお兄さんが亡くなったこととかを。勿論俺は、裏家業のことは知らなかったけどな。

 自棄になってた時期もあったけれど、家族が出来てからは真面目に生きてた。でもどこかで怯えていたのかもしれない。

 罪が確定した後は、俺に家族を頼むと言っていたんだ。あいつは罪を犯したけど、良い奴だった」


 マズルとマードックは親友だった。

 だからこそ、幼い時から知るグウェン(グラジラス)のことを、息子のように気にかけてきたのだから。


「それじゃあ……ポリフェノール伯爵家は、どうしていつも前面に出て来るんだ。まるで執行人のように、勝手に罪状を告げて裁いて……。嘆願さえ無視して!」


 アセスがそれ答える。

「それがポリフェノール伯爵家の家業だからだ。長く戦争もない世の中で、国王直属の影でさえ危機感が欠如している。

 罪人を逃がさない、もう一つの影がポリフェノール伯爵家だ。国王直属でない為、失敗は当主の責任になる。

 王族の血で守られる国王直属の影とは、根本が違うのだ。

 普段ポリフェノール伯爵家当主が顔を出すのは、王の護衛程度だろう。だが見えないところで、様々な案件を解決して貰っている。


 その一つが、罪人達に恨まれることだ。

 緊急の際、当主には全権を渡しているからな。


 だがダークエルフの件は、王と宰相、騎士団長と魔法師団長で相談の上だった。他の者に話が漏れぬように、極秘な会議の中で。


 だからあれは、ポリフェノール伯爵の独断ではない」


「そ、そんな……じゃあ八つ当たりで、ずっと……今まで、俺は……あぁ」

 頭を抱え苦痛に顔を歪ませるグウェン(グラジラス)は、息をするのも苦しくなった。



 悩む彼にアセスは追い討ちをかける。

「ダラントス大公だが、しっかり裁かされるぞ。あの時に大公やその側近で見逃せない罪を犯した者は、みな死罪となった。

 今のダラントス大公達は、前ポリフェノール伯爵が連れて来た偽物だ。大公家はほぼ全員が入れ替わっている」

 


 グウェン(グラジラス)はもう、何も考えられなくなり、呻き声をあげ出した。

「ああぁ、俺はもう、師団長にはなれません。罪を犯しました…………」



「もしかして、殺し屋のことか?」

「!!! 何故、そのことを」


 驚愕の表情を続けるグウェン(グラジラス)に、マードックとアセスは顔を見合わせる。


「別にアマンダは気にしてないぞ。あれくらい訓練にもならないと言っていた」


「そうだぞ。グウェン(グラジラス)はもう魔法師団長になったんだから、頑張って仕事をしてくれれば良いのだ」


「だって、罪を!」


「だから、良いんだって」

「そうだぞ。俺の代わりを任せられるのは、お前しかいないんだから! 悪いと思うなら、その分働いて返せば良い」


 笑いながら本気を感じるその言葉に、グウェン(グラジラス)は逆らうことは出来なかった。


 そしてひっそりと、復讐の火は消えたのだった。




◇◇◇

 そして、もう一つの断罪についても語り出すアセス。


 それは元王妃ソフィアの生家、イノディオン公爵家の断罪の裏情報だった。






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