01
王都ベーメン。出火元は、その郊外にある工房だった。
主人の名はバルサラ。人の好い錬金術師として評判は良かったものの、別段有名人というわけではない。まあ要するに普通の男だ。
そう。恨みを買って殺されるような男では、決してなかった。
弟子のメドウスは、夜が明けたら一番に工房に入り、遺言通りに師の遺体を探した。
火元となったであろう近辺を中心に、酸っぱい臭いのするがれきをいくつ取り除いただろうか、ついに老いた錬金術師の無惨な遺体が姿を現した。
ああ、なんてことだ。天を仰ぎ、ススだらけの両手で顔を覆い、――そして、油断なく周囲を見渡した。
周囲に人影はない。それだけ確認すると、次に彼は師の遺体を大切に抱きしめるふりをしながら、丹念に、そして素早く外傷を探した。
こみ上げる吐き気を必死で抑えながら、耐火性の服の裾から指を滑り込ませる。
あった。腹部に、何か太いもので貫かれたような跡が一つ。
師は、自身が予言した通り、殺されたのだ。
彼は持ってきた白い布に遺体を乗せると、丹念にくるんだ。跪き、両手を胸の前で合わせ、今度は心から師のために祈りを捧げた。