表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/41

39 うつろふ季節

桜が終わると季節の変わり目を感じることが増えてきますね。

そんなお話しです。

 4月ももう半ば…‥

 桜の枝に鮮やかな緑色が目立つようになった。

 日々の気温は10度から20度の間でジェットコースターのような上昇と下降を繰り返している。

 気が付けば、ヘルメットを手にとる前に空を眺めていることが多くなった。

 天気が変わりやすいのだ。

 朝晴れていたかと思えば、午後には雲が広がって雨が降り出す。

 天気や気温と同じように、季節もまた変わろうとしているのだろう。

 私は東の空に昇ったばかりの太陽に目をやり、その光に染まって輝くオレンジ色の雲を睨みつけた。

 このところ意地悪をするかのように、バイクに乗る時間になると雨を降らせてくれる。

「今日は気持ち良く乗らせてくれよ」

 呟いていつもの装備を手にとった。

 ブーツに足を突っ込み、駐輪場からライムグリーンの車体を引っ張り出す。

 つい先日エンジンオイルを交換したばかりで、相棒も私も走りたくてウズウズしている。

 路肩までバイクを押して移動した。

 キーを捻り、チョークも引かずにスタートボタンを押し込む。

 キュキュッとセルモーターが身震いし、バンッ、ババババババとエンジンが目を覚ました。

 オイル交換をしたての相棒はすこぶる元気が良い。

 暖機運転をし、ヘルメットをかぶってグローブをはめた。

 シートを跨ぐ。

 このシートも先週、張り替えたばかりだ。

 ディンプル加工がされた真新しい皮はしっとりと柔らかく、それでいてグッと私の体をつかまえるように支えてくれる。

 クラッチレバーを握り込んだ。

 左のつま先でチェンジペダルを踏む。

 コッと柔らかな音とともにギアが入った。

 ゆっくりとクラッチを繋ぎ、アクセルをジンワリと開く。

 スムーズにエンジンの鼓動が高まり、スルスルと車体が前に進み始める。

 動き出した感覚を確認しながらヘルメットの頭で一つ頷き、アクセルを大きく開けた。

 ダララララッ!と250ccのエンジンが両足の間で軽やかに声を上げ、グッと体に加速Gがかかる。

 ヘルメットの向こう側で空気が風に変わり、世界が後方に向かって流れ始めた。

 エンジンという心臓にオイルという新しい血液を満たした相棒は、気持ちよく加速を続ける。

 ふと、シールドの端で勢い良く後方に消える景色の色合いが変わったことに気が付く。

 桜の枝だけではない。

 土手の上で風に揺れる柳の枝も、公園の片隅に立つ大きな欅の梢も、陽の光を浴びて鮮やかな黄緑色の若芽を広げつつある。

 視線を移せば、路面に敷きつめられた花びらの絨毯に、相棒のタイヤが刻む轍が延びていくのがミラーの中に見える。

 柔らかな色合いの季節が幕を下ろし、鮮やかに輝く季節が徐々にその幕を上げようとしていた。

 土手の斜面には両者の間を橋渡しするかのように、菜の花が黄色の帯を広げている。

 黄色い橋を渡って夏がやってくるのだ。

 少しずつ足音が聞こえ始めた初夏の影が、淡い色の季節の下から顔を覗かせている。

 アクセルを開け、風の中で世界の加速度を上げた。

 その加速の向こう側で、ゆっくりと歩くようなスピードで季節が移り変わろうとしている。

 ジャケット越しにライダーの肌を焼き、道の向こうに陽炎を揺らす熱い夏が、風の向こうでスタートを切る準備を始めている。

菜の花の鮮やかな黄色を残して桜の花が散っていき、若々しい黄緑色が枝を飾り始めました。

次の季節はもうすぐですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ