表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/41

33 強風

風の強い日のお話しです。

軽量なのが長所のスーパーシェルパですが、横風には弱いです。

仕方がないことですが。

 バイクは周囲の空気を風に変えることが出来る。

 風を(まと)いながら走るといってもいい。

 しかし同時に、自然に吹く風の影響も著しく受けるのがバイクだ。

 クルマと違って屋根や壁を持たず、2本のタイヤだけで走るその乗り物は、風だけでなく、雨や日差し、寒さなどの自然現象をダイレクトに受け止めてしまう。

 ライダー達は夏の暑さの中ではオーバーヒートの心配をし、冬の寒さの中ではエンジンの始動で悩み、雨の中を走っては滑る路面にヒヤリとする。

 季節は3月。

 日毎(ひごと)に冷たい空気と暖かい陽射しが一進一退の攻防を繰り返し、梅の花が咲き、桃の花の(つぼみ) が膨らみ始める頃。

 この時期の関東地方は強い風が吹く日が多い。

 春の嵐といったところだろうか。

 冷たい雨が降ったかと思うと、翌日にはカラリと晴れてビュービューと強い風が吹く。

 スギ花粉の舞うこの時期に強風が吹くものだから、花粉症の私はヘルメットの中で鼻水を(すす)っていなければならない。

 今日もそんな一日だった。

 朝、自宅を出る時はそれほどでもなかった。

 昨日までの2日間の雨も上がり、東の空に昇る朝陽と朝焼けがキレイだった。

 雨上がりの湿った空気が少し冷たいが、陽射しは濃いオレンジ色をしている。

 バイク日和になりそうだな。

 いつも通り駐輪場からバイクを引き出し、路肩に移動して燃料コックを捻り、キャブレターにガソリンを送る。

 行き先が職場でなければもっと楽しいだろうな…‥と小さく溜息をつきながらチョークノブを引き、セルボタンを押してエンジンをかけた。

 2日間乗らなかった程度ではエンジンの調子は変わらない。

 簡単に一発で始動し、ババババと単気筒の鼓動音をあげる。

 跨って走り出す。

 溜息をついた時の気分はすぐにどこかに消えてしまった。

 難しい理由なんてない。

 たとえ目的地が職場で、短い通勤の時間であろうと、バイクを走らせること自体が楽しい。

 少し風はあるものの、その風が雲を吹き飛ばし、空の色がキレイだった。

 通勤路は30分もかからずに終わり、バイクから降りる。

『また帰りにな』

 声には出さず、シートをポンと軽く叩いた。

 いつもと変わらない朝の風景。

 私は事務所に入り、鼻をかんで仕事の準備にとりかかった。

 …日中の業務もいつもと何も変わらなかった。

 夕方までデスクワークをこなし、片付けをしてジャケットとヘルメットをつかむ。

 ブーツに履き替えて事務所を出た。

「うわ…」 

 表に出るなり、突風に横っ面を(あお)られた。

 西の空は赤くキレイな夕焼けだが、風の強さが朝の数倍になっている。

 風を受けた駐輪場の屋根がギーギーと辛そうな音を出しながら揺れていた。

 アレルギー薬を服用し、マスクをつけているにもかかわらず、鼻がムズムズとして透明な鼻水がツーと垂れそうになる。

 鼻を啜って自分のバイクのところに急いだ。

 凄い風だ、

 片側に壁が無かったらバイクも倒れていたかもしれない。

 手早く始動準備の手順をこなし、エンジンをかける。

 250cc程度のエンジン音では、あまりに大きな風の音にかき消されそうだ。

 バイクを駐輪場から出す。

 壁が切れる手前で跨り、チェンジペダルを踏み込んでクラッチを繋ぐ。

 慎重にバイクを発進させた。

 壁が切れる。

「おおっと」

 強烈な一撃がきた。

 左からの強い横風が私とバイクをグウッと押す。

 咄嗟(とっさ)に重心をズラして耐えたが、30cmほど右にスライドしたように感じた。

 ヘルメットが横からの風に煽られ、首が右を向きそうになる。

 首を(かし)げるようにして視線を正面に戻し、少し前屈み気味に姿勢を変えて風に耐えた。

 道路に出ても風の強さは変わらなかった。

 むしろ田んぼ道に入ったせいか強くなっている。

 前を走っている軽自動車の進路がユラユラと左右に揺れていた。

 私は顎をグッと引いたままミラーに目をやり、後続車がいないのを確認して、車間を広めにとる。

 ヘルメットのシールドの向こうで、風がゴウゴウと(うな)っていた。

 どうしても肩に力が入ってしまう。

 力み過ぎだ。

 踏み切りで前のクルマが止まる。

 私もその後ろについた。

 …少し、油断をしていた。

 停車するためにクラッチを切った瞬間、またも見えないハンマーがゴーッと音を立てて飛んで来た。

 前に進む力を失うとどうしてもバイクは不安定になる。

 咄嗟に両足をアスファルトに踏ん張って、どうにかこらえた。

 大きく息を吐く。

 左からの風で助かった。

 右脚だったから、かろうじて支えられたのだ。

 もしこれが左脚だったら倒れていたかもしれない。

 ホッとはしたが、気を抜かず、まだ吹き続ける風にバイクごとユラユラと揺すられながら電車の通過を待つ。

 風と同じゴッという音を立てて東武線の電車が通り過ぎ、カンカンという音と赤いライトの点滅が終った。

 遮断機が上がる。

 ようやく硬直した肩の力を緩め、そっとクラッチを繋いだ。

 シェルパは横から体当たりをしかけてくる突風から身をかわすかのように、スイッと前に出る。

 そのまま加速した。

 スーパーシェルパは軽い。

 横風を受けると簡単に吹き飛ばされてしまう。

 でもそれなら、風のタックルを身軽にかわして走れば良い。

 力まず、周りをよく観察し、バイクの姿勢と風向きを感じとり、楽しんで走ろう。

 スーパーシェルパよ、強風と…‥風と遊べ。

 もうすぐ春一番が吹く頃だ。

風の強い日は油断大敵ですね。

特に信号待ちは要注意。

高速道路は走らないのであまり考えていませんが、絶対コワいですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ