19 バイク乗りのセンサー
バイクに乗っていると怖い思いをすることってありますよね。
今回はそんなお話しです。
バイクは搭乗者が剥き出しの乗り物で、転倒や事故は即ケガにつながる……というのは以前にも記したと思う。
クルマもバイクもぶつけてキズが付けば、ガックリとくる精神的なダメージは同じだが、搭乗者が身体的に負うダメージは明らかに違う。
時速30km以下の速度。
急に前方になにかが飛び出し、急制動をかけつつ、回避。
飛び出したなにかは避けられたが、車体をガードレールに擦りながら停止。
クルマなら修理代は痛いものの、身体的なダメージはおそらく無いだろう。
では、バイクなら?
たかだか時速30kmにも満たない速度とはいえ、急制動をかけたとしても重量100kgを超える物体が移動をおこなっていたエネルギー量は、いきなりゼロにはならない。
車体へのダメージもさることながら、ガードレールに挟まれるカタチになった左腕や左足、さらに転倒するようなことになれば、ライダー自身へのダメージは決して何事も無いでは済まないだろう。
バイクは楽しい。
風を直接感じ、世界とつながったまま加速できる。
でもそれは箱で守られていないバイクだからこそで、バイク乗りが操作を誤ったり、トラブルを予測できなければ、危険も直接バイク乗りに牙を剥く。
だからこそ、我々バイク乗りには特別なセンサーが必要なのだ。
それは、色々な要素で作られている。
一瞬先には突然変わるかもしれない路面状況を読み取る『眼』。
遮蔽物の陰から急になにかが飛び出してくるかもしれないという『予測』。
周囲を走るクルマやバイクの流れを観察し、いちはやく危険を察知する『広い視野』。
そして危険な状況を目にする度に積み重ねられていく『経験』など。
そんな色々なものを組み合わせ、バイク乗り達はライダーという部品としてセンサーを働かせながら、バイクを走らせていく。
原付きスクーターを始めバイクに乗る人達は、隣りを走るクルマがウィンカーも出さずに、もしくはウィンカーを点灯すると同時に、急左折してくる場面に遭遇したことが、一度くらいはあるのではないだろうか。
センサーを持たないにわかライダーや、まだセンサーが上手く働いていない初心者は、これに巻き込まれることが多い。
しかし、経験を積んで鋭敏なセンサーを働かせられるようになったバイク乗りは、これを回避または遭遇すらしなくなるようにできる。
それまでのクルマの動きを観察し、危険が発生しないだけの距離がとれるようになったり、曲がろうとする相手の視界に見える様な位置取りが出来るようになったりする。
バイク乗りはバイクに乗ることで体だけが加速をしている訳ではない。
常に観察し、予測し、行動が出来るように備え、頭の中で意識も一緒に加速をしている。
バイクが開いてくれた鮮やかな世界を意識の表側だとするなら、頭の中で常に危険に備えてフル回転しているバイク乗りのセンサーは意識の裏側と言えるだろう。
経験を積んだバイク乗りは私のような未熟者と違い、わざわざ考えなくともセンサーが自動的に動く。
私はクルマを運転してきた期間のおかげで、ある程度経験を途中から始めることが出来たが、まだまだ意識してセンサーを動かし、経験値を上げていかなければならない未熟者だ。
このセンサーはどんな便利な機械よりも高性能で、鋭敏で、汎用性に富んだモノにすることが出来る。
あと数年、いや数十年かかるかもしれないが、このセンサーが一級品になった頃、私も1人のバイク乗りとして胸をはれるようになるだろう。
ポケットからキーを取り出して、シリンダーに挿した。
チョークノブを引いてセルボタンを押し、エンジンをかける。
相棒の背に跨り、クラッチレバーを握って、左足でチェンジペダルを踏み込む。1速。
クラッチレバーを徐々に開放していくと、緩やかにバイクが進み始めた。
私はアクセルを開き、鮮やかさを増していく世界の中を加速する。
頭の中で、バイク乗りのセンサーを起動させながら。
バイクの運転は予測が重要ですね。
意識しなくとも自然に気を配れるようになれれば一人前でしょうか。
まだまだ経験値を上げていかないといけませんね。




