↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
34/34

第三十四話 カイル、帝国兵と戦う

村の周囲で起き始めた異変を調べるため、少年カイルは故郷を旅立つ。

長老が「終末の兆し」と呼んだその現象を追う途中、彼は村の近くに露出した古代遺跡で、遺跡に異様な情熱を注ぐ旅人の少女ローラと出会う。

不用意に遺跡を刺激して危機に陥ったカイルを救った彼女は、どう見ても変わり者。けれど遺跡の知識だけは本物だった。


終末を調べる旅のはずが、なぜか遺跡オタクの少女と遺跡巡りが始まる。


この作品は生成AIを利用しています。

毎週月曜日18:00更新予定です。

「誰だ」


 声が鋭く変わった。


 その瞬間、カイルの身体が強ばる。剣の柄にかけた手が、抜くのを躊躇った。


 先に動いたのはシリルだった。


「やるよ」


 低い声だった。


 フィオナがすぐに灯りを少し持ち上げる。暗がりの奥にいた見回りの輪郭が、そのぶんだけ浮いた。三人。先頭が灯りを持ち、後ろの二人が通路の幅に合わせて並びかけている。


 先頭の兵が息を吸う。


 その前に、シリルの剣が走った。


 短く一歩。踏み込みは浅い。狭い通路で振りかぶらず、喉元だけを切る。兵は声を出せないまま、灯りを手から離して後ろへ崩れた。


 転がった灯りが石床で跳ねる。光が揺れた。


 その一拍で、カイルの手が腰へ走る。


 投げナイフが二人目の顔へ飛んだ。喉ではない。だが目のすぐ下を裂き、兵の頭が後ろへ跳ねる。悲鳴にはならず、息の潰れた音だけが漏れた。


 三人目が剣を抜きかける。


 ローラが横から滑り込んだ。壁際の出っ張りを足場にして、相手の脇へ回る。ショートソードが脇腹の隙間へ深く入る。兵の剣が半ばまでしか抜けず、そのまま膝から落ちた。


 二人目はまだ倒れきらない。


 カイルはロングソードを抜きざま詰めた。兵の短剣が上がる。その前に、柄頭をこめかみに叩き込む。鈍い音と一緒に、相手の身体が壁に打ちつけられて崩れた。


 一瞬、静かになる。


 先頭は動かない。ローラが刺した三人目も石床の上で痙攣しているだけだ。カイルの前に崩れた兵も、起き上がる気配がない。


 シリルが息を殺したまま言う。


「離れよう」


 その直後だった。


 奥の通路から、別の足音が返る。ひとつではない。遠いが、揃っている。金具の触れ合う乾いた音も混じる。


 フィオナが顔を上げる。


「来ます」


 カイルの喉が鳴った。


 今度こそ迷う暇はなかった。


 一行は暗い通路を走り出した。


 どこへ向かっているのかは分からない。でも、止まれば捕まるだけだ。


 通路は何度も折れ、途中で広がり、また狭くなる。床石の継ぎ目は揃っているのに、全体の構造が頭に入らない。部屋らしい開口が横へ過ぎる。高い天井が一瞬だけ頭上へ抜け、すぐまた低くなる。


 フィオナの灯りが前だけを拾う。


 ローラが先頭へ出ていた。曲がり角ごとに足を緩め、次の通路を選ぶ。シリルがその少し後ろで周囲を見ている。レオニスまで、今は口を挟まず走っていた。


 背後の足音は消えない。


 その途中で、カイルの口から言葉がこぼれた。


「……変じゃないか」


 シリルが振り向かずに返す。


「何が」


「第一文明なんだろ、ここ」


 息が上ずる。


「なのに、何もしてこない」


 ローラが少し前で言った。


「壊れてるのかも」


「逆かもしれん」


 後ろからレオニスの声が飛ぶ。


 シリルが目だけをそちらへ向ける。


「逆ですか?」


 レオニスは短く答えた。


「壊れていたから攻撃してきた。そうは考えられないか」


 フィオナがすぐに言い返す。


「先生、今はそんなことを言っている場合では」


「分かっている」


 それで話は終わった。


 追われている最中に、これ以上掘り下げる余裕はない。


 通路はさらに二度、三度と折れた。途中で小部屋らしい空間が覗く。壁際に低い台、細い窪み、揃いすぎた床石。どこもかしこも用途が分からないまま、妙に整っている。


 ローラが急に右へ折れた。


「こっち!」


 シリルが迷わず続く。カイルもその背中を追った。


 次の角を抜けた瞬間、前が急に広がった。


 ローラが止まる。シリルも止まる。カイルはその背へ半分ぶつかるようにして、ようやく足を止めた。


 広かった。


 今までの通路や部屋とは比べものにならない。天井は高く、途中から闇へ溶けている。床は広く平らで、継ぎ目がきっちり噛んだ大きな石が並んでいた。壁際には太い支持柱が何本も立ち、その内側、広い床の中央寄りに低い台座が四つ据えられていた。その上には、通路で見たものよりずっと大きい、細長い構造物が載っている。砲身のようにも見えるが、カイルにはそうと断じる材料がない。


 そして、それらに守られるように、それはあった。


 他より一回りどころではない。長く、太く、台座ごと床へ食い込むように据えられている。滑らかな外殻が、周囲の石造と異質だった。柱でも、建物でもない。何か巨大なものを横たえたまま、そこだけ時間が止まっているみたいだった。


 カイルにはそれが何なのか分からなかった。


 ただ、遺跡の中にあるにはおかしすぎる、としか思えない。


「……何だ、あれ」


 声が勝手に漏れた。


 ローラもすぐには答えない。シリルは一歩だけ前へ出て、壁際の台座と中央の巨大なもの、その位置関係を見ていた。フィオナの灯りが、その輪郭の一部だけを淡く拾う。


 背後の通路から、まだ追う足音が近づいてくる。


 その時だった。


 壁際の台座のひとつ、その砲身めいたものの根元で、青白い火花が走った。


 ほんの一瞬、継ぎ目を這うように光る。


 遅れて、乾いた音が来る。


 バチ、バチバチ、と。


 全員の目がそちらへ向いた。台座の周囲で、何かが噛み合うような低い駆動音が唸る。砲身めいた筒が、わずかに角度を変えた。


 カイルには何が起きているのか分からなかった。


 分からないまま、眩い光が視界を覆った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。