第三十四話 カイル、帝国兵と戦う
村の周囲で起き始めた異変を調べるため、少年カイルは故郷を旅立つ。
長老が「終末の兆し」と呼んだその現象を追う途中、彼は村の近くに露出した古代遺跡で、遺跡に異様な情熱を注ぐ旅人の少女ローラと出会う。
不用意に遺跡を刺激して危機に陥ったカイルを救った彼女は、どう見ても変わり者。けれど遺跡の知識だけは本物だった。
終末を調べる旅のはずが、なぜか遺跡オタクの少女と遺跡巡りが始まる。
この作品は生成AIを利用しています。
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「誰だ」
声が鋭く変わった。
その瞬間、カイルの身体が強ばる。剣の柄にかけた手が、抜くのを躊躇った。
先に動いたのはシリルだった。
「やるよ」
低い声だった。
フィオナがすぐに灯りを少し持ち上げる。暗がりの奥にいた見回りの輪郭が、そのぶんだけ浮いた。三人。先頭が灯りを持ち、後ろの二人が通路の幅に合わせて並びかけている。
先頭の兵が息を吸う。
その前に、シリルの剣が走った。
短く一歩。踏み込みは浅い。狭い通路で振りかぶらず、喉元だけを切る。兵は声を出せないまま、灯りを手から離して後ろへ崩れた。
転がった灯りが石床で跳ねる。光が揺れた。
その一拍で、カイルの手が腰へ走る。
投げナイフが二人目の顔へ飛んだ。喉ではない。だが目のすぐ下を裂き、兵の頭が後ろへ跳ねる。悲鳴にはならず、息の潰れた音だけが漏れた。
三人目が剣を抜きかける。
ローラが横から滑り込んだ。壁際の出っ張りを足場にして、相手の脇へ回る。ショートソードが脇腹の隙間へ深く入る。兵の剣が半ばまでしか抜けず、そのまま膝から落ちた。
二人目はまだ倒れきらない。
カイルはロングソードを抜きざま詰めた。兵の短剣が上がる。その前に、柄頭をこめかみに叩き込む。鈍い音と一緒に、相手の身体が壁に打ちつけられて崩れた。
一瞬、静かになる。
先頭は動かない。ローラが刺した三人目も石床の上で痙攣しているだけだ。カイルの前に崩れた兵も、起き上がる気配がない。
シリルが息を殺したまま言う。
「離れよう」
その直後だった。
奥の通路から、別の足音が返る。ひとつではない。遠いが、揃っている。金具の触れ合う乾いた音も混じる。
フィオナが顔を上げる。
「来ます」
カイルの喉が鳴った。
今度こそ迷う暇はなかった。
一行は暗い通路を走り出した。
どこへ向かっているのかは分からない。でも、止まれば捕まるだけだ。
通路は何度も折れ、途中で広がり、また狭くなる。床石の継ぎ目は揃っているのに、全体の構造が頭に入らない。部屋らしい開口が横へ過ぎる。高い天井が一瞬だけ頭上へ抜け、すぐまた低くなる。
フィオナの灯りが前だけを拾う。
ローラが先頭へ出ていた。曲がり角ごとに足を緩め、次の通路を選ぶ。シリルがその少し後ろで周囲を見ている。レオニスまで、今は口を挟まず走っていた。
背後の足音は消えない。
その途中で、カイルの口から言葉がこぼれた。
「……変じゃないか」
シリルが振り向かずに返す。
「何が」
「第一文明なんだろ、ここ」
息が上ずる。
「なのに、何もしてこない」
ローラが少し前で言った。
「壊れてるのかも」
「逆かもしれん」
後ろからレオニスの声が飛ぶ。
シリルが目だけをそちらへ向ける。
「逆ですか?」
レオニスは短く答えた。
「壊れていたから攻撃してきた。そうは考えられないか」
フィオナがすぐに言い返す。
「先生、今はそんなことを言っている場合では」
「分かっている」
それで話は終わった。
追われている最中に、これ以上掘り下げる余裕はない。
通路はさらに二度、三度と折れた。途中で小部屋らしい空間が覗く。壁際に低い台、細い窪み、揃いすぎた床石。どこもかしこも用途が分からないまま、妙に整っている。
ローラが急に右へ折れた。
「こっち!」
シリルが迷わず続く。カイルもその背中を追った。
次の角を抜けた瞬間、前が急に広がった。
ローラが止まる。シリルも止まる。カイルはその背へ半分ぶつかるようにして、ようやく足を止めた。
広かった。
今までの通路や部屋とは比べものにならない。天井は高く、途中から闇へ溶けている。床は広く平らで、継ぎ目がきっちり噛んだ大きな石が並んでいた。壁際には太い支持柱が何本も立ち、その内側、広い床の中央寄りに低い台座が四つ据えられていた。その上には、通路で見たものよりずっと大きい、細長い構造物が載っている。砲身のようにも見えるが、カイルにはそうと断じる材料がない。
そして、それらに守られるように、それはあった。
他より一回りどころではない。長く、太く、台座ごと床へ食い込むように据えられている。滑らかな外殻が、周囲の石造と異質だった。柱でも、建物でもない。何か巨大なものを横たえたまま、そこだけ時間が止まっているみたいだった。
カイルにはそれが何なのか分からなかった。
ただ、遺跡の中にあるにはおかしすぎる、としか思えない。
「……何だ、あれ」
声が勝手に漏れた。
ローラもすぐには答えない。シリルは一歩だけ前へ出て、壁際の台座と中央の巨大なもの、その位置関係を見ていた。フィオナの灯りが、その輪郭の一部だけを淡く拾う。
背後の通路から、まだ追う足音が近づいてくる。
その時だった。
壁際の台座のひとつ、その砲身めいたものの根元で、青白い火花が走った。
ほんの一瞬、継ぎ目を這うように光る。
遅れて、乾いた音が来る。
バチ、バチバチ、と。
全員の目がそちらへ向いた。台座の周囲で、何かが噛み合うような低い駆動音が唸る。砲身めいた筒が、わずかに角度を変えた。
カイルには何が起きているのか分からなかった。
分からないまま、眩い光が視界を覆った。




