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インセクタム  作者: 初来月
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138 ランディとソフィア

 オーバーホールされた皆の機体が戻ってくる中……まだ俺の休みは続く――



 だが、休み慣れしてない事もあり、俺は朝から暇を大いに持て余す。


「ふう、身体を休めるというのも大変だな……」


<そんな台詞、言う人いるのね……あ、カラオケしにいく?>


 兎に角、筋トレとジョグばかりでは飽きてしまうので、暇潰しにシミュレーター訓練でもしようと考える。だが、そんな俺の耳に驚くべき報告がなされる。


<あ、アスカちゃんからだ……ふむふむ、お! 新型機が到着だって……!>


 一緒になって暇していたアリス……モニターの中、ジャージ姿でゴロゴロしていたアリスからから突如として告げられた、この言葉に俺は思わず色めき立つ。


「し、新型機っ……!?」


 深く座り込んでいたソファから立ち上がらんばかりに起き上がってしまう。そんな俺の姿を横目にププッと小さく笑ったアリスがそのまま言葉を続ける。


<ふんふん、へー、あ、やっぱ、金田さんの機体……だねぇ>


「なんだ……そうか……金田の……機体……か……」


 もしかしたらという想いが自身の中に少しばかり……いや、思った以上に有ったようだ。次の瞬間、誰が見ても分かるほどに俺は反動で意気消沈してしまう。


 溜息交じり、またソファへと身体を深く沈めた俺……だが、すぐに好奇心の方が上回ってしまったようだ。その気持ちを抑えきれず、またもやと立ち上がる。


「まあ良い! 早速、見に行こうじゃないか……!」


<ん? やっぱ、行くんだ? うふふ、そうよねぇ! あ、ねえねえ、それよりさあ……さっき、少しだけ、もしかしたら自分の機体かなって思った?>


「そんな事は……じ、事前に……金田の機体が最初だと……」


<ふーん、そう……期待しちゃったかと……私の勘違いだったみたいね>


 ニヤニヤしたアリスの視線を無視して俺は部屋を急ぎ後にする。





<ん? 呼び出しだ……ええと、私と誠二で格納庫へ来いって……新機体の所で良いみたいだけど……ってか、署名欄……ランディ? 誰だろう?>


「初めて聞く名だが……在日米軍の関係者か? まあ、丁度良いな」


 さて、格納庫へと到着した我々は搬入口側のメンテナンスハンガーへと急ぐ。そんな中、俺は遂に見えてきた新型の姿に思わず感嘆の息を漏らしてしまう。


「膝をついている……もう乗り込んでいるのか? ん? 俺の見た資料の機体と少し形状が違う? む、バックパックのサイズが上方向に大きい気が……?」


<ホントだ……大きい……なんだろ? バックパックのアタッチメントに何か付けてる? あれじゃあ、肩部のアクティブキャノンが装備できないよね?>


「ま、まさか……金田機の専用装備? い、急ごう!」


 この機体の姿に慌てて足を更に速めてしまう俺……そんな俺の足音、または気配に気付いたのか、金田がコックピットハッチから何だ何だと顔を覗かせてくる。


「お、やっぱり、来たか……早いな」


<金田さぁん! 二日ぶりぃ!>


「おう、嬢ちゃんも元気そうだな!」


<ん? レイは?>


「機体とリンク中だ!」


 きちんと正しく挨拶を交わしたアリスと金田……だが、俺の方はもう、自分で言うのも何だが、それどころでは無くなってしまったようだ。ニヤリと誇らしげに口角の片端を上げた金田……の姿は程々、俺は彼の機体を端から端へと目をやる。



 ……だけでなく、一応、答えも返しておく――



「ああ、俺も元気……だ……」

<それ、ちょっと前に私に言ってくれた言葉だよ!>


 やはり、ワクワクとした想いは一ミリも隠せなかったようだ。俺はアリスと金田そっちのけで機体の節々までジロジロと嘗め回すように更に眺めてしまう。


「外部へのアクセスがない代物……武器の類ではないという事か……?」


「おい、少しくらい、こっちを見たらどうだ?」

「そっちは別に……価……なんでもない」


「ちょっと……酷くないか?」

<そうよ! 価値が無いのは分かるけど、ちょっと酷いよ!>

「おん!? 嬢ちゃんも中々に酷くないか?」

<そう?>

「いいか? 世の中にはな、言わなくてもよい言葉ってのがあるんだぞ?」

<難しいね!>

「嘘つけっ!」


 二人が仲良く言い合う中でも俺は機体を凝視し続ける。


 だが、そんな周りが一切合切、見えなくなった俺でも流石に見知らぬ気配には辛うじて気付いたようだ。視界の端に捉えた二人の男女の姿へと素早く目をやる。


 一人は眼鏡を掛けたプロレスラーといった金髪巨躯の男……短髪の髭面で少々、生え際が後退しているが、身体の存在感が圧倒的である。ともあれ、白衣を着ているのだからメンテナンス員ではないだろうが、何者なのかは想像がつかない。


 もう一人は如何にもな、アメリカンでスタイル抜群なブロンド美女……少しウェーブ掛かったロングでボリューム満点な髪もあって横顔も余り見えないが、こちらも白衣を纏っているようで、機械弄りが仕事とは到底思えない姿のようだ。


 男の手に持った書類の上で顔を突き合わせ、何か言い合う二人……


 さて、そんな中々にエネルギッシュといった二人だが、その顔にはしっかりとした皺が幾つも刻まれている事に気付く。よくよく見れば、どちらも年の頃はどちらも六十近くか、それを超えるくらいの年齢という事になるだろうか……


 そんな風に咄嗟に二人を値踏みした俺にここで金田が改めてと声を掛けてくる。


「在日米軍のAI研究チームのトップの二人……レイの育ての親だ」


 この彼の短い言葉を受けた俺は彼らへと歩み寄り、今度は姿勢を正す。


「失礼しました……自分は『橘 誠二』一等陸尉です」


 言葉が通じるだろうかという疑問が一瞬だけ浮かぶ。


 だが、敬礼をする以上は流石に非礼な行為とは思われないだろう……何よりも眼前の彼らはそんな事を気にしないだろうという俺の考えは正しかったようだ。

 ゆっくりと反転した男が、こちらを視認するや否や、両の手を広げて明らかに歓迎の意を示してくる。同時に中々に流暢な日本語で俺へと語りかけてくる。


「HAHAHA! キミが……セイジか!」


 この男の大きな声でようやく気付いたようで女性の方も振り向いてくる。


「OH……セイジ? まあ、会えて嬉しいワ!」


 かなりアメリカンに応じた二人が満面の笑みで一気に距離を詰め、そのまま交互に力強くハグしてくる。男の方は二メートル近く、女性も俺に近い身長という事もあり、その強めな圧にやや引いてしまった俺だが、何とか必死に言葉を吐き出す。


「あ、あなた達は……その……お名前は?」


 この何とも言えない俺の反応に目を大きく見開いた二人がまた笑顔となる。


「HAHAHA! 自己紹介を忘れていたネ! 私はマイキーとアビーとレイのパパ、『ランディ・ブレイブ・ダグラス』……見ての通り、博士だヨ! HAHAHA!」


 気軽にランディと呼んでくれと言った彼に続き、女性の自己紹介もなされる。


「ワタクシは『ソフィア・グレイス・ダグラス』、あの子たちのママさんよ!」


 さて、力強くサムズアップしたランディ、挨拶の追加で投げキスをしてきたソフィア……そんな陽気な二人の反応だが、残念な事に俺はただ困惑する事となる。


「ま、マイキー? その……ご両親ともに……ご存命だった……のですね?」


 そう、俺とマイキーとアビーとの関係はそれなりに長いのだが、それにも関わらず、彼らからそんな話は一切合切、全く、何も聞いてなかったのだ。


「……知りませんでした」


 この少しの寂しさを含めた困惑した表情……それに気付いた二人が顔を見合わせるなり、HAHAHAと笑い合う。そして少しだけ申し訳なさそうに口を開く。


「存命だとも! 存命だったが、我々は……あれだ! 機密扱いだったんだヨ」


「ホントなの! 真面目な話ヨ! AIに関わる技術・人材共にトップシークレットだったの! あの子たちですら、さっき聞いたんじゃないかしら?」


 知ってたのは『アスカ』くらいじゃないかと口にしたソフィアが首を傾げると、あの子たちにも怒られちゃうなと二人がHAHAHAと楽しそうに笑い合う。



 そして……そんな所に……件の二人、マイキーとアビーが現れたようだ――



 どこから聞きつけたのか、息を切らして走り込んできた二人……傍にいた俺の存在に全く気付きもしなかった……そんな二人が改めて大きく目を見開く。

 そして一人は珍しく子供のようにムスッとした表情、もう一人は哀しさと少しの怒りが混ざったような複雑な表情へと変わり、今度は順に小さく口を開く。


「ダディ……こっちに何年もいたなんて……酷いじゃないか……」


 握った拳を小さく震わせたマイキーに続き、アビーも声を震わせる。


「マ、マミー……ワタシ……二人……もう……」


 このマイキーとアビーの感極まった言葉を受けてランディとソフィアが、驚いたとばかりに顔を見合わせる。その次の瞬間、これでもかといった優しい表情……父と母といった表情となった二人が、ゆっくりと立ち尽くす二人へと歩を進める。


「ソーリー、二人とも……本当に……ごめんなさいネ」


 そう言ったソフィアの謝罪に続き、ランディも優しく口を開く。


「マイキー、アビー、本当に済まなかった」


 ランディがマイキーの肩へと優しく手を掛け、もう片方で静かにソフィアを抱き寄せる。ソフィアは空いている逆の手でアビーをゆっくりと抱き寄せる。


「ダディ……本当に良かった……それにしても……」

「うん……二人……日本語、上手ネ……」


 四人が肩を寄せ合うように抱き合う姿を俺はただ黙って眺める。





「しかし、在日米軍・研究チームのトップである二人か……詳しい事情は分からんが、その存在をもう隠す必要がなくなった……という事なのか……?」


<余裕がなくなった……かも?>

「嫌な事を言うな……」


 ともあれ、先ほどの彼らの機密という言葉は真実であったようだ。


 冷静さを戻したマイキー、そんな彼の何故、生きている事を教えてくれなかったんだという抗議を受けたアスカが、モニターの中から断言する様に答える。


<日本への到着が間に合わず、行方不明……限りなく生存の可能性が低い……とされ、その後は最重要の秘匿扱いとなっていたのだから仕方がありません>


「いつから知っていたんだ?」


<私が生まれた瞬間からですね>


 私だって心苦しかったんですと口にして目を拭ったアスカ……そんな雰囲気は一ミリも窺えないが、そのまま隠れ、つらつらと新たな情報を開示してくる。


「これは……我々も見てよいのか?」


<ええ、もう問題ありません>


 さて、二人の生存情報を知っていたのは在日米軍の上層部の数名……簡単に言うと、早い段階でマザーを怪しんでいたランディとソフィアの提案により、様々な技術・情報を彼らの存在も含めて日本国から秘匿される事となったのだそうだ。


<確信を持てない状況、その方が圧倒的に都合が良かったという事でしょう>


 そう言ったアスカの言葉に続き、今度はランディが真剣な表情で口を開く。


「その通り、在日米軍研究チームを担うトップ二人が死んでしまったから、あらゆる技術がそれほど進まなかった……と油断して欲しかったという事だネ」


 俺は以前のマイキーの言葉、初めてアスカを紹介された時の事を思い出す。


「そうか……アメリカ本土のコンピューターがハッキングされた件……あれで……それ以来、お二人もマザーを怪しんでいたと……そういう事ですか?」


 この俺の言葉にランディとソフィアが少し驚いた顔をしてみせる。そして次の瞬間、息子と娘であるマイキーとアビーへとチラリと交互に視線を送る。だが、夫婦共にすぐに気を取り直したのか、何事もなかったかのように言葉を続ける。


「軍人が簡単に情報を漏らすなんてナンセンス……と言いたい所だが、マイキーも不安だったんだろう……ノープロブレム! お小言はずっと先まで後回しだ!」


「まあ、ナニワトモアレ、私たちは日本のマザーを疑い、警戒した。そして……その小さな疑念は結果として、とても正しかったという事になるかしら?」


 そんな中、コックピットの上から黙って話を聞いていた金田が口を開く。


「彼女は……その対策の一つか……」


 この僅かに憤ったような彼の言葉を受け、ランディが言葉を詰まらす。だが、小さく一つ溜息を吐くと同時に冷静さを戻し、すぐにゆっくりと口を開く。


「そう、相手は世界最高峰のスパコン群……通信のままならない戦場ですら、何をしてくるか……そして……やはり、その対策は必要になったという事だ」


「必要になった……?」


 だが、この不安しかない俺の疑問の言葉はソフィアによって止められる。


「セイジさん、落ち着いて……もう二人、来るから……一旦、待ちましょう」


 そんな彼女の言葉に応じるようにランディも頷きながら口を開く。


「うんうん、次の作戦に必要な……大切な二人だからネ」


「そう……ですか……」





 まあ、何はともあれ、その二人を待つ時間は一分も無かったようだ。


 先ほど、我々が抜けてきた廊下と格納庫を隔離するエアロック……その室内側の大きな自動扉がスッと開く気配に視線を向けると俺は覚えのある姿に気付く。


「ん? あれは……田沼と大崎か……?」

<ん……そうだね。声、掛けてくるね!>


 そう言ったアリス、止める間もなく、早速と声を掛けたようで向こうの二人が笑顔となり、緩く駆け出す。そんな二人の姿に慌てた俺は必死に声を上げる。


「いやいや、二人とも、走らんでいいっ! アリスっ!」

<もう、スピーカーの範囲外だね……音量上げていい?>

「いや、それは……! どうだろうか……」


 結局、いつもより、息を切らした二人が我々の元へと辿り着いてしまう。そして二人共に改めて小さく笑顔を見せ、未だ心配顔の俺へと声を掛けてくる。


「隊長、今日から復帰を許可されました」


「自分もです! いやぁ、思ったよりも体力なくなってましたね?」


 この大崎の続く言葉を合図に二人が顔を見合わせて笑い合う。そんな二人の嬉しそうといってよい姿に俺もアリスも思わず、小さく笑みを零してしまう。



 そんな我々にランディとソフィアが改めてと声を掛けてくる――

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