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第86話『邪魔』

それから、一旦会議は中断され、ウリエルが泣き止んだ頃に再び再開した。今度はウリエルもちゃんと会議メンバーに加えた状態で。

ベルゼの膝の上でニコニコと機嫌よく笑うウリエルに緊張した様子はなく、いつも通りだった。普段と違うところと言えば、少し目の周りが腫れていることくらい····。泣き止んだばかりなのだから、目の周りが腫れるのは仕方ない。

これからは泣かせないようにしねぇーとな。ウリエルには泣き顔より、笑顔が似合う。

俺は紫檀色の長髪幼女から一度目を離すと、銀髪赤眼の美丈夫に視線を戻した。血にも似た深紅の瞳はやけに穏やかだ。


「さてと····無事、ウリエルの戦争参加も決まったことだし、話を先に進めようか」


「ああ。是非そうしてくれ」


作戦会議なんて、ちゃちゃっと終わらせて戦争の準備に取り掛かりたいんでね。早く話を先に進めて欲しい。

ウリエルも戦争に参加するなら、今まで以上に力をつける必要がある。ウリエルを相棒と称したからには俺もそれ相応の力を身に付けなくては····。せめて、ウリエルと肩を並べて歩けるくらいには強くならないと駄目だ。

思いを新たにする俺を他所にルシファーはゆるりと口角を上げ、どこか楽しそうに話し出した。


「では、次に何故少数精鋭で今回の戦に挑むのか説明しよう。結論から言うと──────────味方が邪魔だからだ」


「····はっ?邪魔?」


「ああ、邪魔だ」


いや、何故二回言う!?一回言われれば分かるわ!

つーか、邪魔って何だよ!?ルシファーのことだから、悪意はないんだろうがもう少し言い方を考えてやれ!味方に失礼だろーが!!

ルシファーは内心大混乱に陥る俺を見透かしたようにクスリと笑みを零す。


「味方を邪魔と称したのには理由がある。次にその結論に至った経緯を説明しよう。マモン、説明を」


「はーい。あのね、オトハ。ルシファーも含めた僕ら幹部メンバーは戦の際、味方に気を使って本気を出していないんだ。強力な攻撃魔法を使える僕らが本気を出せば、一万の軍隊でも一瞬で無力化することが出来る。何故だか分かる?僕らは広範囲に渡る攻撃魔法が使えるからだよ。でも、敵と味方がごちゃ混ぜになった戦場で無闇に範囲攻撃を使うことは出来ない····。だから、ルシファーは味方を『邪魔』と言ったんだよ」


「なるほど····」


言われてみれば、マモン達は戦場で範囲攻撃を使っていなかったな。まあ、極一名ほど味方への被害も顧みず火炎魔法をぶっぱなしてたけど····。

でも、あの大爆発も今考えてみれば加減されていたような気がする。味方に被害が出たのは事実だが、命に関わるようは怪我じゃなかったし····。

そうか。マモンたち幹部メンバーはいつも味方に気を使って、本気を出せていなかったんだ。


「正直言うと、味方が邪魔でしょうがないんだよね。味方が近くに居るだけで色々力が制限されちゃうし、何かあれば守らなきゃいけない。それが一人や二人ならまだ良いけど、戦では数十人単位になるからさ。守りながら戦うのって結構キツイんだよ」


「要するにお荷物って言いたいんだろ?」


「ま、そうだねー。部下たちの実力は認めてるけど、僕らの足を引っ張っているのは事実だからね。今までは殺された家族や恋人の憎しみを少しでも晴らしてやろうと思って戦争の参加を許してきたけど、今回はそうもいかない。今回は絶対に負けられない戦いだから····もう復讐とか、そういうのに気を配っている場合じゃないんだ。この戦いは復讐じゃなくて、未来を守るためのものだから····雑魚は必要ない」


マモンはいつになく真剣な表情でそう言い切った。赤にも似たマゼンダの瞳は凛としており、それだけでマモンがどれだけ真剣なのか伝わってくる。

確かにマモンの言う通りだ。これはもう復讐とか、そんな次元の戦いじゃねぇ····。この世界を守るための未来をかけた戦いだ。失敗すれば、待っているのは死のみ。絶対に負けられない戦いであることは言わずとも分かった。

正直魔王軍が束になっても、本気になったルシファー達の実力には敵わない。それは俺が一番よく分かっていた。

だって、俺は一番近くでこいつらの実力を見てきたから。何度もこいつらと戦ってきた俺だから、分かる。

本気になったルシファー達よりも、魔王軍の方が弱いことを·····。

特にルシファーなんて、実力の底が見えないからな。手合わせで一度も勝てたことねぇーし。ルシファーの実力に関しては過剰戦力と言うしか無かった。


「少数精鋭の意味はよく理解した。納得もした。反対する気はねぇ···。次に各々の役割と詳しい作戦内容を教えてくれ」


魔王軍の隊員達には悪いが、俺はこの作戦に反対する気はない。ルシファー達と同じく、俺も少数精鋭で挑むのが最善だと思っているから。幾ら数が多くても、実力がなければ意味は無い。ルシファー達と並ぶ実力が無いのなら、戦に連れていく意味はなかった。

厳しいようだが、これが現実だ。

世界の存続をかけた戦いに私情など挟んでいられない。

ルシファーは俺の質問に一つ頷くと、その薄い唇を開く。


「作戦内容は至ってシンプル。私も含める幹部メンバーが敵を引き付けている間にウリエルとオトハくんが依代が置かれている部屋に向かい、依代を破壊する。ウリエルは君の護衛のようなものだ」


「護衛って····一応俺らは相棒同士なんだけど····」


「護衛っていうのは役割上の話だ。ウリエルをどう扱うかは君の自由だよ」


「そーかよ」


まあ、俺は依代を破壊する上で絶対に欠かせない人物だし、ウリエルが護衛と呼ばれるのは無理ないか。なんだか少し複雑な気分だが、まあ····我慢しよう。


「出来るだけ、敵の注意を引きつけるよう努力するが、依代を破壊する上で戦闘は避けられないと思ってくれ。我々魔族が城に来た時点で、人族は依代周辺の警護を強化している筈だ。だから、どうしても戦闘は起きる」


「分かってるよ。魔族が人族の城に現れる理由なんて、依代しかねぇーからな。警備体制が厳しくなるのは避けられないだろうさ」


肩を竦める俺に対し、ルシファーは心配そうに顔を歪めている。柘榴の瞳が不安げに揺れていた。

恐らく、俺がさっき人殺しに抵抗があると言ったからだろう。背負う覚悟が出来たとは言ったが、全く辛くない訳じゃない。人殺しに対する恐怖や罪悪感は変わらなかった。

ルシファーはそれを知っているからこそ、心配そうにこちらを見つめているのだ。

本当、お前は優しいよな。


「──────────大丈夫だよ、ルシファー」


心優しき王様に俺はそれだけ告げると、僅かに頬を緩める。

ルシファーにはその一言だけで十分だった。

正直言うと、人殺しは平和ボケした日本人の俺にはかなりキツい。出来れば、やりたくないと言うのが本音だ。でも、多少無理してでもやる価値があると俺が(・・)判断したんだ。人殺しは褒められた行為ではないが、人の血肉によって得られるものがある。なら、やらない訳にはいかないだろう?それに俺にはお前らが居る。一人じゃないと思うだけで俺は頑張れた。

だから、ルシファー──────────自分を責めないでくれ。

これは俺が選んだ道なんだ。その道を示したのは確かにお前たちだが、選んだのは俺だ。お前が気に病む必要はない。

銀髪の美丈夫は深紅の瞳を僅かに見開くと、フッと口元を緩めた。


「辛くなったら、言ってくれ────────必ず支える」


「おう。そんときは頼むぜ」


「ああ」


俺は正面に座るルシファーにニッと歯を見せて笑うと、ルシファーは穏やかに微笑んだ。

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