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第70話『決着』

今でも時々思う。

何故ベルフェゴールではなく、私が生きているのかと····。私が死ねば良かったと何度思ったか分からない。

でも·····ベルフェゴールに救われた命だから····あいつが私に『俺の分まで生きろ』と言ったから·····私は汚くても惨めでも!!生き続けると決めたんだ!!

この戦いは──────────そのケジメだ!!

私はベルフェゴールの体に憑依したロイドの鉄拳を躱し、腹目掛けて剣先を突き出す。が、ロイドに剣身を掴まれ、刺し殺すことは出来なかった。

っ····!!なんて力だ····!!

物凄い力で私の剣身を握るロイドは手の平が切れようと、決してその手を離そうとしない。ポタポタと流れる血は剣を赤く染めた。


「くっ····!!」


押しても引いてもびくともしない!!やはり、単純な力勝負ではベルフェゴールには勝てぬか····。

憑依の最大のメリットは憑依した相手の体力・身体能力・攻撃力を自分のステータスに上乗せ出来ることだ。つまり、ロイドの今のステータスはベルフェゴールの力を上乗せしたもの····。馬鹿みたいに鍛え上げたベルフェゴールの力には敵わない。

結局一度も腕相撲でベルフェゴールに勝てなかったからな····。そんな私がベルフェゴールのステータスが上乗せされたロイドに力勝負で勝てる筈がない。

仕方ない····剣は一旦諦めるか。

私は剣の柄から手を離し、ロイドから一歩距離を取る。


「ほう?剣を捨てるか····悪くない判断だ」


「貴様に褒められても嬉しくない」


「本当つれない女だな」


ロイドは私の返答に軽く肩を竦めると、手にした剣を後ろに投げ捨てた。カランと床に剣が音を立てて落ちる。

あの剣を拾いに行ける余裕はない。予備の剣は一応亜空間に収納してあるが、それを取り出す隙など与えてくれぬだろう。

そうなると、私の武器は───────────魔法だけとなる。

体術を使う手もあるが、力勝負で敵わぬ相手に体術での勝負を挑むのは分が悪い。


「《ウィンドカッター》」


手を横に払うことで発生した風を魔法で強化し、それを目の前の敵に打ち込む。近距離戦での魔法戦闘は少し不利だが、問題は無い。

ロイドの操る死体(手足)は徹底的に潰した。今や、あいつに残った力はベルフェゴールの体とステータスだけ。死霊使い(ネクロマンサー)の能力はあくまで魂や死体を操るもの。直接的な攻撃魔法は使えない!!

至近距離で放たれた風の刃をロイドは難なく躱すと、反撃に移る。固く握った拳を勢いよく突き出してきた。


「っ·····!!」


「ほう?これを避けるか····」


ロイドの繰り出したパンチを間一髪のところで避け、急いで距離を取る。怪我はなかったものの、攻撃の余波で髪が少し切れてしまった。ハラハラと落ちる黒髪を一瞥し、懐かしい銀の瞳を見つめ返す。

身体強化なしでこれだけのスピードと攻撃力を出せるなんて····さすがはベルフェゴールの()だ。並外れた身体能力と攻撃力は200年経った今でも変わらないか····。

接近戦に持っていかれるのはこちらが不利だ。ある程度距離を取って、仕留めたいところ····。

策を練る私の前でロイドは挑発するようにニヤリと笑い、拳を構えた。心優しいベルフェゴールが絶対しなかった表情(かお)を奴はしている。


「来ないのか?魔王軍幹部ともあろうお方が死霊使い(ネクロマンサー)ごときに恐れをなすとは····魔族の恥だな」


「なんとでも言え。私は安っぽい挑発に乗る気はない」


「開き直りか?まあ、良い·····。そちらから来ないなら、こちらから行かせてもらう!」


ロイドは強く床を踏み締めると····一気に駆け出した。体勢を低くし、猪の突進のように真っ直ぐこちらに突っ込んでくる。風を切り裂くような爆走にこちらも慌てて風魔法を使った。


「《フライ》!」


風属性の初期魔法である『フライ』はその名の通り、物や体を宙に浮かせる魔法だ。空中に逃げることで、ロイドの猛烈な突進を回避した私は『ふぅ····』と息を吐き出す───────────が、安心している暇などなかった。


「空中戦か····面白い。受けて立つ!」


「なっ····!?」


こちらが体制を立て直す隙を──────────奴は与えてくれなかった。

ロイドは床が凹むほど、強く床を蹴り上げ、私と同じ目線まで高く飛んだ。助走無しの跳躍でこれである。きっと本気を出せばもっと高く飛べることだろう。

こいつ·····!!軽いジャンプでこんなところまで····!だが、空中戦ならこちらが有利!そのまま床に叩き落としてくれる!

私は目の前まで飛んで来たロイドを容赦なく蹴り落とした。空中で自由に動くことが出来ない無防備なロイドは強烈な踵落としを防ぐ事は出来ない。


「いっ·····!?」


私の強烈な踵落としをもろに食らったロイドは為す術なく、落下して行った。ガゴンッ!と床を壊さんばかりの勢いで落下したロイドは強打した背中を押さえている。さすがのロイドもこの攻撃には堪えたらしい。

今の攻撃は頑丈なベルフェゴールの体でも相当堪える筈だ。

出来れば今の一撃で倒れて欲しかったが····そう簡単に行く訳が無いか。ダメージが入っただけでも良しとしよう。


「さすがに今の一撃は効いたな····。この()でなければ即死だった」


「そうか。では、次で決めさせてもらおう」


「───────────いや、そうはさせない」


そう言うや否や、ロイドは再び華麗なジャンプを決めた。さっきと何一つ変わらないジャンプに危機感を煽られる。

何故同じ手を二度も····?しかも、これは一度失敗したものだ。二度使う意味が分からない。

叩き落とすのは簡単だが、何故か私の体が危険信号を発している。

失敗した手を二度も使うロイドに不信感を抱く私に奴は手を伸ばした。


「な、にを····」


「捕まえた───────────これで終わりだ!」


私の首を引っ掴んだロイドは重力の力も借りて、私のバランスを崩した。

『フライ』は足に風を纏う魔法だ。つまり、風を纏う足に気を配らなければならない。この魔法はバランスが大事なのだ。例えば、誰かに首を掴まれて前に重心が傾いたりしたら──────────魔法は解け、落下を始める。

や、ばい·····!!


「ははははっ!!これでお前を瀕死状態に出来る!!生きた魔王幹部の体に憑依すれば·····ふははははっ!!」


そうか····こいつの狙いは私の体。

自分よりレベルの高い相手の体に憑依するには瀕死状態にする必要がある。そうすることで、少しでも抵抗力を削ぐのだ。

そういえば、こいつ····最初の方に『生きた器なら、今目の前にあるからな』とか言っていたな。それはこういう意味だったのか。

私を下敷きにするよう、上に跨り首を片手で押さえ付けたロイドはニタァと気持ち悪い笑みを浮かべる。

くそっ···!魔法を使おうにも、もう時間が····!

ただ落ちるだけなら問題ないが、首を押さえ付けられた状態で落ちれば私もタダでは済まない。瀕死状態になるのは確実だ。

一体、どうすれば·····!!この状況を打破する方法なんて何も·····!!

───────────いや、この状況を打破する方法はある。

ただ私がそれを使いたくないだけだ。

だって、それを使ったら····ベルフェゴールの死体は灰と化してしまう····。大切な仲間の死体を灰になんかしたくないっ·····!!呪われた力を仲間に行使するくらいなら、いっそ·····いっそ!!私が死んでしまえば·····。


『その力が悪い訳では無い。誰がどんな風に使うかが問題なんだ』


『ベルゼ───────────俺の分まで生きろ』


『師匠の力は呪われてなんかない!師匠の力は皆を守る力だよ!!』


魔王様の助言を····友の願いを····弟子の暖かい言葉を····それらを聞いても尚、私はまだ力を使わぬのか?

──────────いつまで甘い戯れ言を吐いておる。立ち上がれ!!


「──────────許せ、ベルフェゴール」


必ず一粒も残さず持ち帰る。

だから─────────────この力の使用を許して欲しい。

私はスゥーと大きく息を吸い込むと、それを体内で炎に変換し────────────解き放った。


「なっ·····!?」


ドラゴン族は皆、詠唱や魔法陣なしに炎を吹くことが出来る。ドラゴンの吐くブレスは圧倒的攻撃力を持ち、敵を全て殲滅する。その中でも特異な炎が私が使う黒炎。これは以前にも言った通り、触れたもの全てを灰と化す死の炎。

ロイドやベルフェゴールの体も例外じゃない。


「な、お前····!!自分が何をしたのか分かっているのか!?仲間の体を·····!!」


「分かっている。分かっていて、やったんだ」


「チッ····!!このクソが!!」


事実を淡々と述べる私にロイドはグニャリと顔を歪める。まさか、私が仲間の体にブレスを放つとは思わなかったらしい。大きく外れた読みにロイドは完全に焦っていた。

私だって、最初は使う気なんてなかったさ。使わずに済んだなら、どれほど良かっただろうな····。

私はパラパラと灰に変わっていくベルフェゴールの体をじっと見つめ、目に焼きつける。どんな事情があろうと、友の体を壊したのは私だ。最期まで見届けるのが義務だろう。


「ロイド・サイラス。それは魂をも焼き払う炎だ。助かる術はない───────────死に晒せ!」


「っ······!!クソが、クソが、クソが、クソが、クソがぁぁぁぁああ!!」


ロイドは悔しさからか、絶叫しながらベルフェゴールの体と共に消えていった。桜が舞うようにヒラヒラ、フラフラと灰が落ちていく。私の腕には何も残っていなかった。

ロイド・サイラス。お前は私が出会った敵の中で一番汚い奴だったよ。

私は床へと落ちていく体を捻り、体勢を整えるとストンと綺麗に着地する。胸の中にぽっかりと空いた穴は私に勝利を告げると共にどうしようもない虚無感を与えた。

────────ベルフェゴール、これでやっとお前を魔王様の元へ帰してやれる。長い間、迎えに行けなくて悪かった。

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