第71話『積み重ねで得た強さ』
べ、ベルゼが勝った·····?あの状況下でベルゼは勝ったんだ!!
ロイドに首を掴まれたときはどうなる事かと思ったが、心配する必要は無かったらしい。
それにしても····ベルゼがベルフェゴールの体を焼き払うとは思ってもみなかったな····。別にベルゼを責めている訳じゃない。あの状況下でブレスという奥の手を使うな、と言う方が無理だ。
俺が心配····と言うか、気にかけているのはベルゼの心。
仕方なかったとは言え、元同僚の体を焼き払うのは覚悟と勇気がいるだろう。そのベルフェゴールという男を大切に思えば思うほど、ベルゼの心の傷は深くなる。
ああ見えて、ベルゼは意外と繊細だからな。あまり思い詰めないと良いが····。
人一倍責任感の強いベルゼだからこそ、彼女の心が壊れてしまわないか、心配だった。
ベルフェゴールの体が黒炎に焼かれ灰となって、この場に舞い落ちる中、ベルゼはただ上を向いている。茶色がかった瞳には何の感情も浮かんでいなかった。ただただ宙を舞う同胞の灰を眺めている。
寂寥感漂う横顔はここではない、どこか遠くを見つめていた。
「ベルゼ、ケジメは····付けられたの?」
誰もが固く口を閉ざす中、一番最初にベルゼに歩み寄ったのはアスモだった。扇情的なミニドレスに身を包む美女はピンクベージュの長髪をサラリと揺らす。翠玉の瞳はただ真っ直ぐにベルゼを見据えていた。
ベルフェゴールの体が全て灰となり、ロイドが死に至ったその瞬間からベルゼの聖戦は終わっている。倒し方はどうあれ、ベルゼの聖戦は終わったんだ。それがどんな結果であろうとも、な。
ベルゼは心配を滲ませたアスモの目を見返し、ゆっくりと目を閉じる。まるで、涙を拒絶するみたいに····ベルゼは固く目を閉じした。
「ああ、ケジメはついた。少し思うところはあるがな····だが、それも全て背負って生きていく
──────────私はベルフェゴールの分まで生きねばならんからな」
誓いを立てるように····ベルゼはそう宣言した。
その声は少し掠れていたが、ベルゼの決意と覚悟の強さが窺える力強いものだ。
そうか····。ベルゼはきっと俺なんかより、ずっと強い奴なんだ。いや、ベルゼだけじゃない····アスモも、マモンも、ルシファーも····。たくさん傷ついて、泣いて、後悔して····そうやって、時を重ねて得た彼らの強さ。
「敵わない訳だ····」
「ん?オトハ、なんか言ったー?」
「いいや、何でも」
たくさんの積み重ねで出来た彼らの強さに16歳の俺が敵う訳ない。
俺は後ろで作業を行うマモンを振り返り、うっすらと笑みを浮かべた。
「それより、結界陣の解析はどうなんだ?進んでるのか?」
「うん、進んでるよー!あともう少しで解析が終わるとこ」
「じゃあ、その後は解除陣の作成か」
「そうだねー!でも、それはすぐに終わると思う〜。結界陣の解析さえ出来れば、あとは楽勝だからー!」
それは頼もしい。
ロイドを含める敵兵を粗方片付けたとは言え、まだ油断は出来ないからな。残党とか居るかもしれないし。出来れば早くここを立ち去りたい。
そんな俺の願いが聞こえたのか、マモンは作業の手を早めた。ルビーの瞳は結界陣を睨むように見つめている。
集中してるみたいだし、邪魔したい方が良いな。
「ベルゼ、私達も手伝うわ。一人じゃ大変でしょう?」
「いや、良い。気持ちは嬉しいが、私一人で拾いたいんだ。アスモは魔王軍の指揮を頼む。もうそろそろ広間に置いてきた奴等がここに到着する頃だ」
「·····分かったわ。でも、無理はしないでちょうだいね。戦ったあとで疲労が激しいんだから」
「ああ、分かってる。ありがとう、アスモ」
アスモは少し複雑そうな表情で、灰を拾い集めるベルゼに背を向けた。喉元まで出かかった言葉を呑み込むようにゴクリと喉を鳴らす。
頼って欲しいのに頼って貰えない····それがアスモには歯痒く感じるのだろう。受け止める覚悟が出来ているのに頼って貰えない虚しさ····俺には理解し難い感情だが、何故だか少し····泣きたくなった。
責任感の強いベルゼの気持ちも分かるから、余計辛いんだよなぁ····。気持ちのすれ違いとまではいかなくても、多少の認識違いはあると思う。
ベルゼもアスモも絶望的に言葉が足りないからなぁ。長い年月を一緒に過ごして来たからこそ、互いに『言わなくても相手に伝わっている』と勘違いしてしまう。そんな筈ないのに····。
例え、どんなに長い時を共にしようとも相手の気持ちを100%理解するなんて·····不可能だ。
16歳の餓鬼が何を言う!と思うかもしれないが、良い意味でも悪い意味でも多くの感情に関わってきた俺だからこそ断言出来る。神様でもない限り、相手の気持ちを完全に理解することは不可能だ。
人も魔族も皆、分からないから考える。相手の気持ちを理解するために思考を回す。心理学を学ぶ。相手の癖や感情の揺れを覚える。
相手の気持ちを100%理解出来ないのは不便だけど、俺はこれでいいと思っている。
だって───────────“全部分かる”のは詰まらないだろう?
「オトハー!解除陣完成したよー!早速試してみて!」
「了解」
俺は宙に浮く出来たてホカホカの魔法陣にそっと触れる。相変わらず、何が書いてあるのかサッパリ分からないが····とりあえず試してみるか。何事もやってみなきゃ分からない。
マモンの髪色と同じ青く輝く魔法陣に目を細め、俺はゆっくりと息を吸い込んだ。
ビアンカ、転職を頼む。言わなくても分かっていると思うが、選択職業は聖女な?
『やっと、私の出番ですか』
やっと、ってお前なぁ····。マモンが頑張って解除陣を使ってくれたのにその言い方は····。
『はいはい、そんなことは分かっていますよ。それより、早速始めましょうか』
お前、俺の話適当に流してんじゃねぇーよ····。
『職業“無職”の特殊能力発動──────職業を“聖女”に変更しました。封印・結界などの聖魔法を取得。全てを封印する杖の召喚権利を獲得しました。職業──────聖女の定義に乗っ取り、“性別”を一時的に♂から♀に“変更”致しました』
また俺の話をスルーして、転職を····って、待て!!今、なんつった!?性別が変更って······うわっ!?
内心大混乱に陥る俺を置いて、無情にも職業能力は発動してしまう····。いつも通り淡い光が俺を包み込み····『あっ!』と思った時にはもう遅かった。何もかもが····。
「お、オトハ····一応聞くけど、その胸どうしたの?」
「·····ノーコメントだ」
見事性別を♂から♀に変更された俺の体は····見事なクビレと巨乳を手に入れていた。まな板のベルゼに分けてやりたいほど、胸がデカい。ついでにクビレも凄い。あと股間が·····って、これは言わない方が良いか。
いやな?男の俺が『聖女』になれるのかな?とは思ってたんだよ····。『性別が異なるため出来ません』みたいなオチかと思ってたら····これかよ!?
おい、聞いてねぇーぞ!?デーモンエンジェル!!俺は別にTSとか望んじゃいねぇーんだよ!!
『はぁ····ギャーギャーうるさいですよ?音羽。大体何も聞いて来なかった音羽が悪いんじゃないですか。それに───────────女体化した音羽が見たかったんですよ、私は』
おい!こら!クソ天使!今すぐ下界に降りてこいや!片手で捻り潰してやる!!
天使とは到底思えない欲望丸出しのビアンカに俺の頭は噴火寸前であった。




