5-5
どのぐらい泣いてただろうか。むくりと起き上がる。カラカラ様にしがみついて震えていた肩に、いつの間にか大きな手が触れていた。
「カラカラ様……」
「……どのくらい寝てた?」
低くて、いつもより少ししゃがれた声が呟いた。目が半開きで、いつもより少しだけまぬけな顔。少しおかしくて、くすりと笑ってしまう。
「……んだよ」
「い、いえ、な、なんでも」
それより、目覚めてくれたことがうれしくて、頬が緩んでしまった。寝たままの身体に抱き寄せられて、冷たい手に背中をなぞられる。
「……う、」
「何があった?」
そして、肌を切り裂いてしまいそうな爪は、次に瞳の下に触れた。そっと涙のあとをなぞる。
「まーた泣いてたな」
「……はい」
「お前には涙がよく似合う」
そう言って、ほんとにきれいに微笑むのだ。ずるいよ、カラカラ様。抱き寄せられた耳元に口づけて、わたしは小さく真実を吐いた。
「クレナイが、しんじゃったって」
「……ハァ?」
露骨に温度を下げた声色に聞き返されて、びくっとしてしまう。
「死んだ?」
「……ころされた」
あの凄惨を思い出して、また手を震えさせてしまう。その手に、急に手を重ねられて身体がぼう、と熱くなった。
「きゅ、きゅうになんですか」
「……怯えてんじゃねェよ」
黄金色に、瞳を奪われてしまう。
「俺様以外に、恐怖するな」
「そ、そんな無茶ありますか」
フッと冷たい唇は嗤う。
「……まァいい。クレナイが死んだのは別に構わねえよ」
カラカラ様は驚くほど冷淡な声でわたしに告げた。
「え、」
「……何だ、その顔は」
心を、冷たい刃のような虚無感に貫かれたような――
よほど酷い顔をしていたんだろう。カラカラ様は顔を覗き込んだ。
「嬉しくねェのか」
「な、なんで」
「邪魔だっただろう、あの女が……」
ニタァ、と口の端を吊り上がらせたおぞましい笑みに、「そ、そんなこ、と」と狼狽えてしまった。思わず起き上らせた半身を、また腕の中に引きずり込まれる。
「じゃまなんかじゃ」
戦慄がやまない。このひとは、自分が慕っていた人が死んでも何も思わないんだ。なのに、狡猾で最悪なわたしは反対に胸を高鳴らせてしてしまう。
「どうなんだ」
「……うれしいわけ、ないじゃないですか」
「本当は、どっちなんだ」
絡み取られる。その淫靡な声に。わたしは沈黙を選んだ。何も言いたくなかった。嫌な子だって思われるのも、自分が嫌な子だって自覚するのもいやだった。なんてずるい子なんだろう。
「……悪い子だ」
「うぅ」
心を読まれているような、見透かされているような視線は、嫌らしい笑みを浮かべた。
「たまり、俺様はまだ動けるほどには回復していない。わかるな」
「はい」
寝台から這い出るように降りたわたしは、膝まづいて見上げた。見下ろされた冷たい表情に、ぞくぞくと背筋から悦びがなぞりあげていく。
「カラカラさま、だいすき」
どきどきしながら、口にしてみた言葉は、冷笑のみで返されてしまった。