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闇堕ちのナミダ(ムーンに移動します)  作者: からふるろく
1 寝返った"使えない"魔法少女
1/1

5-5


 どのぐらい泣いてただろうか。むくりと起き上がる。カラカラ様にしがみついて震えていた肩に、いつの間にか大きな手が触れていた。


「カラカラ様……」

「……どのくらい寝てた?」


 低くて、いつもより少ししゃがれた声が呟いた。目が半開きで、いつもより少しだけまぬけな顔。少しおかしくて、くすりと笑ってしまう。


「……んだよ」

「い、いえ、な、なんでも」


 それより、目覚めてくれたことがうれしくて、頬が緩んでしまった。寝たままの身体に抱き寄せられて、冷たい手に背中をなぞられる。


「……う、」

「何があった?」


 そして、肌を切り裂いてしまいそうな爪は、次に瞳の下に触れた。そっと涙のあとをなぞる。


「まーた泣いてたな」

「……はい」

「お前には涙がよく似合う」


 そう言って、ほんとにきれいに微笑むのだ。ずるいよ、カラカラ様。抱き寄せられた耳元に口づけて、わたしは小さく真実を吐いた。


「クレナイが、しんじゃったって」

「……ハァ?」


 露骨に温度を下げた声色に聞き返されて、びくっとしてしまう。


「死んだ?」

「……ころされた」

 あの凄惨を思い出して、また手を震えさせてしまう。その手に、急に手を重ねられて身体がぼう、と熱くなった。


「きゅ、きゅうになんですか」

「……怯えてんじゃねェよ」


 黄金色に、瞳を奪われてしまう。


「俺様以外に、恐怖するな」

「そ、そんな無茶ありますか」


 フッと冷たい唇は嗤う。


「……まァいい。クレナイが死んだのは別に構わねえよ」


 カラカラ様は驚くほど冷淡な声でわたしに告げた。


「え、」

「……何だ、その顔は」


 心を、冷たい刃のような虚無感に貫かれたような――

 よほど酷い顔をしていたんだろう。カラカラ様は顔を覗き込んだ。


「嬉しくねェのか」

「な、なんで」

「邪魔だっただろう、あの女が……」


 ニタァ、と口の端を吊り上がらせたおぞましい笑みに、「そ、そんなこ、と」と狼狽えてしまった。思わず起き上らせた半身を、また腕の中に引きずり込まれる。


「じゃまなんかじゃ」


 戦慄がやまない。このひとは、自分が慕っていた人が死んでも何も思わないんだ。なのに、狡猾で最悪なわたしは反対に胸を高鳴らせてしてしまう。


「どうなんだ」

「……うれしいわけ、ないじゃないですか」

「本当は、どっちなんだ」


 絡み取られる。その淫靡な声に。わたしは沈黙を選んだ。何も言いたくなかった。嫌な子だって思われるのも、自分が嫌な子だって自覚するのもいやだった。なんてずるい子なんだろう。


「……悪い子だ」

「うぅ」


 心を読まれているような、見透かされているような視線は、嫌らしい笑みを浮かべた。


「たまり、俺様はまだ動けるほどには回復していない。わかるな」

「はい」


 寝台から這い出るように降りたわたしは、膝まづいて見上げた。見下ろされた冷たい表情に、ぞくぞくと背筋から悦びがなぞりあげていく。



「カラカラさま、だいすき」



 どきどきしながら、口にしてみた言葉は、冷笑のみで返されてしまった。


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