「ハロー。」
ニューヨーク郊外の公園に
地方回りのサーカス団がやって来た。
「フレデリック。」
「オリーブかい。」
「見に行かない?」
「何の事だい。」
「大変な人気よ。」
「一体どうしたと云うんだい。」
「サーカス。」
「はっはっは。」
彼女は部屋を出ようとした。
「ごめんよ。最近何処へも行って無かったね。」
「あなたはいつだって…」
「涙を拭いて…」
「行こう。」
二人は車に乗ると
サーカス会場へと向かった。
カーステレオからセレナーデが流れたが、
二人は無言だった。
「昔、僕の先祖シヨバンはね、
ピアノのレッスンに夢中でね…。」
「…。」
「聞いてるかい。」
「…。」
「二晩弾き続けたそうだ。」
「…。」
「自分の結婚式も忘れて鍵盤を枕に多鼾…。」
「ふふふっ。」
「はっはっは。」
「そして…」
「嫁さんに、こってりと、搾られたそうだ。」
「ふふふっ。」
「我が家のDNAなんだよ。」
「それってシヨバンをダシに使った言い訳?」
「勘弁してくれよ。」
「ふふふっ。」
すると、
「何だ、あれは。」
サーカス会場が騒然として居た。
「観客の皆さん。象が興奮しています。
係員の指示に従って…あっ、危ない。」
フレデリックは危険を察知すると、
人混みを避けつつ車を会場から遠ざけた。
遠目にサーカスの象が狂奔するのが
車窓から見え隠れした。
「フレデリック、あれは…。」
フレデリックは気がつくと
車のトランクからθ波発射装置を取出した。
電源スイッチをオンにして起動を待った。
狂い立った象か゛近づいて来るのが無気味だった。
「逃げよう。」
二人は車を乗り捨てると近くのビルに逃げ込んだ。
非常階段から象の巨大な頭が見え隠れした。
「いまだ。」
フレデリックは発射装置のボタンを
「美しく青きドナウ」
にセット、オンにした。
「良いぞ。」
突然狂奔する象の脳髄の中で
ヨハン・シュトラウスの名曲が奏でられ始めた。
象は突如ピクリと動きを止めた。
一頭の巨象の回りを数百人の人間が、
恐る恐る遠巻きにした。
すると象の二、三メートル間近に接近した象使いが驚いた。
「何が始まったんだ。」
「音楽が聞こえる。」
「何だって。」
「音楽さ。」
先程迄暴れ狂って居た象は
嘘の様に静まり帰ってしまった。
研究室の電話が鳴った。
「ハロー。」
「ニュースプラネットですが、取材のアポを…。」
フレデリックは電話を切った。
新聞社からの取材要請だった。
「もう十五件だよ…。」
「あの事ね。」
「θ波の事さ。」
フレデリックの研究に関してマスコミは、
様々な憶測で調べ始めた。
「キャンパスの奇人」
「天才音楽家の末裔コンクール落選」
「キャンパスの怪人θ波で奇行」
「止めてくれ~。僕が一体何をしたと云うんだ。」
「フレデリック、貴方は何にも悪く無いわ。」
「有難う。」
「今日は帰りましょう。」




