第十三話
スズちゃんの長い話が終わった。
すぐに話は終わるものと思っていたのに、結局授業の合間の休み時間、お昼休み、放課後までたっぷり掛かってしまった。
教室にはもう私たち以外の姿はない。
「え、え、ミヤッピ、どしたの?!」
「ちょ、おい美夜日、なんで泣いてんの!」
「は?」
スズちゃんに言われて頬に触れた。いつの間にか私は涙を流していた。過去の二人の物語に聞き入り、自分でも驚くほど感情移入してしまっていた。
「ご、ごめん。なんか泣けてきちゃって」
「泣く要素あったか」
「なかったよね」
『まったくな』
刀のハクにまで脳内でツッコまれる。
ハンカチを取り出して目元に宛がう。
『ったく、メソメソしやがって。情けねぇ』
うっさいなぁ。なんかいいじゃん。最初仲違いしてた二人が理解し合って、障害を乗り越え、友情を深め合うって。青春じゃんか。
『男子五人ぶっ殺して深まる友情がお前の言う青春かよ。そっちに目覚めたんなら、今度から俺様たちもその路線でいこうぜ。刀としては願ったりだ』
そこはそれ。置いといて。
『置いとくな。ったく、この世界の認識を都合いい部分だけ自分勝手に解釈しやがって』
聞こえませーん。
「ねぇ、そろそろ帰ろうよ」
「そだな」
「あ、どっか寄ってく?」
ガタガタと席から立ち上がり、荷物を持つ。
「そーいや、ミヤッピは高校からの外部入学だけど、なんで士峰館を受けたの?」
「あ、それあーしも気になってた。無眼縦横無尽流って剣術もどこで誰に習ったのよ」
あ、まずい方向に話が。ハク、どうしよ。
『さぁな。てめぇの人間関係を刀の俺様に相談すんなよ』
普段はどうでもいいとこにうるさく口出ししてくるくせに。
「十剣鬼を倒せるほどの腕があるんだから、入学してくるのは分かるんだけど、それなら遅くとも帯刀が許される中等部くらいには入って来ると思うんだけど」
「え、え~っと。それは……」
追求の手を休めないゆっこ。助けを求めるようにスズちゃんを見る。
「あーしらも話したんだから、今度は美夜日の番だね。な、ゆっこ」
「ズーランの言う通り。なに、言えないような事情でもあんの」
実は滅茶苦茶あるんです。
「ほら、白状しろ」
ニヤニヤ顔のスズちゃんとゆっこが迫る。
「う……、そのぉ……」
私は覚悟を決めて口を開いた。
「……友達が欲しかったから」
きょとんと二人の顔からニヤニヤが消えた。
「スズちゃんやゆっこみたいな友達が。たくさん」
嘘じゃなかった。でもそれはこの学園で、ではなくカトリアーデで、だったが。
「ちっ」
盛大な舌打ちが聞こえたと思った直後、スズちゃんの強烈な平手が私の背中を見舞った。
「どわっ!」
突然のことに踏ん張れず、近くの机と椅子に突っ込んでひっくり返る。
「痛い! ちょっと、何すんの!」
「うるせー。先行くよ」
鞄を担ぎ、さっさと教室を出て行くスズちゃん。
「あーあー、ズーランの奴照れちゃって」
笑いながらゆっこが私を助け起こしてくれた。机と椅子を代わりに元に戻してくれる。
「照れてる?」
「そう。アホでしょ」
なんていうか、分かりにくいよ。
「なにやってんの、早くしなよー!」
廊下からスズちゃんの大きな声が聞こえた。
「行こ、ミヤッピ」
「うん。……うっ」
「どしたん?」
歩き出そうとして足が止まる。
「背中、超痛い」
「あはは。ほい」
ゆっこの小さなかわいらしい手が伸ばされた。その手を取る。
「ちょっとズーラン、待ってってば!」
容赦なく駆け出すゆっこに引きずられ、痛みを我慢して私は教室を出たのだった。
〈了〉




