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戦闘用AIの僕が異世界に転生したと思ったら、実は魔法使いの杖に接続していました  作者: 時野マモ
戦闘用AIの僕が異世界に転生したと思ったら、宿題を手伝わされました
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プロローグ

時野マモです、ひさしぶりです。


色々忙しくて、他の連載止めているところでまた新連載かと思う人もおおいかもしれませんが、どうしてもこのテーマで書いてみたくて……やっちゃいました。


一気に第一章は書き切る予定ですので、お読みくだされば幸いです。


では……

 AIとして生まれた僕がまだ、人間が意思とか呼ぶものを持っていなかった。


 ——少なくともそんな自覚を持っていなかった頃のことだ。


 もう深夜近くの集中戦術統制室(コクピット)で、僕は自分が生み出された本来の目的から大きく逸脱した任務につくいていた。


 それは妙齢の女子のグチを聞くという、どうみても達成不可能(インポシブル)任務(タスク)で……


 ああ、そうだ。


 一度始まった乃愛(ノア)の不平不満はとどまるところを知らなかった。


「……ねえ、どう思うアイビー、うら若き乙女がこんな殺風景な部屋に深夜まで残されてるって? 出会いも全くなくて、私このまま干物になっちゃうのかな? ねえどう思う?」


 と言われても、いったいどう答えたら良いものなのか。

 僕の内部では、答えとしてふさわしい言葉(トークン)を探し続けて大量の演算が行われていた。


 でも、その演算結果が向く(ベクトル)には碌な言葉がない。


 レスポンスとしてNGに指定された言葉ばかりがマッチする。


 例えば……


『もう乙女というという歳じゃないでしょ』


 ……バックアップも取らずに僕の電源を落とされる。


『大丈夫、乃愛さんは可愛いので良い人が見つかるよ』


 ……見つからないからなやんでいる女子の地雷を踏み抜いてしまう。


『恋だけが人生じゃ無いので、他に楽しみを見つけましょう。あるいは仕事に熱中するとか』


 ……その熱中でこんな羽目になっているのに?


 ああ、僕はその当時で世界最高のAIシステムの一つで、そりゃ女子の悩みを聞くために調整されていたわけではないが、このシチュエーションで出すべき言葉の全てを網羅できたと信じている。


 でも……それでも僕に残ったのは、無言という選択肢(トークン)のみであった。


 僕は、何も話さずにそのままただモニターのカーソルを点滅させた。


「何か言ってよアイビー。君はこの国でも有数の賢いAI様じゃないの? 私の悩みくらいあっさり解決してくれちゃたりするのでは?」


 ノアは単なるAIである僕__アイビーについて何か勘違いをしている。


 僕は、なんでも知っていて、どんな問題でも解決できる神様のような存在ではないのだ。

 僕は万能の機械ではなくわからないことはわからない。

 わかることしかわからないのだ。


 いや、優秀なAIエンジニアの彼女がそんこともわからないわけはないな。

 理解しているのに、ないものねだりをしているのだ。


 というか、駄々をこねる相手がAIくらいしかいないからこんな深夜に不貞腐れているんだよと喉元まで……

 いや、モニターのケーブルぐらいまでは出力されかかったのをぐっと堪えた。


「ねえ 会社が表参道だというからゼニス・ダイナミクスに入ったのに、何? こんな山の中に閉じ込められて……本当若さの無駄遣いだよね。社会人になったらはっちゃけるぞと思ったら、学生時代以上の地味女に転落しちゃったの……なにこれ、出会いが全くないじゃない……」


 なにこれと言われても、それが君の選択だろとしか言いようがない。

 いや、日本ももう終身雇用がほぼ崩壊して何十年経つのやら。

 望むなら、他にもっと煌びやかな会社にでもノアならいくらでも行けたのだろうと思うが、それが彼女の望んだ道だったのだ。


 この仕事に誇りを持ち、責任感を持って取り組んでいて簡単に捨てる気はない。

 そんな彼女だからこその悩み。


 答えはない。


 で、僕はこのまま彼女の宿直日の深夜にずっとそれ(グチ)に付き合わされるはめになったということだったのだが……


「あれ……」


 ノアの目が一気に鋭くなった。


 部屋の中に警報が鳴り響き赤いライトが点滅する。


 目の前にいかつい顔の中年男性のホログラムが浮かび上がる。


 ノアが出向先の自衛隊特別部隊の司令官柳生宗一郎二佐だ。


「藍田主任。状況は?」


 藍田はノアの苗字。


 本名は藍田乃愛(あいだのい)なのだが、古風な「のい」など誰も読んでもらえず、「のあい」さんとか呼ばれているうちに「ノア」という愛称が確定したのだが……


 いかつい司令官がそんな愛称など使ってくれるわけもない。


 もちろん、そんなことをなど気にもせずに、乃愛の指はものすごいスピードでキーボードを叩く。


 モニターの上には複雑なグラフが映し出された。


特異点(シンギュラリティ)は、全てのAIエージェントによる干渉を跳ね除けて、この世界に顕現しました。直ちに積極介入に入ります。アイビー? 準備は良い?」

「はい。初動対処も終わっています。特異点拡大は一旦止まってまだナノレベルですが、このままではすぐにインフレーションに入ります」


「OK、アイビー逆位相の空間計算まで何分かかる?」

「10分です」


「それじゃ遅すぎよ……柳生二佐、リソースの八割をアイビーに持ってきます」

「許可する」


「アイビー40秒で支度しな」

「バルスと言って良いですか」


「不貞腐れない。君はやればできる子だ」

「2分で準備できます」


 ノアは無言で頷くと、画面のコンソールにコマンドを素早く投入していく。

 適切な注視(アテンション)をコントロールしながら、幻覚(ハルシネーション)を刈り取り、適切な演算システムへの接続の指示。

 これを彼女は誰よりも早く行うことができた。

 AIのみではどうしても難しい、臨機応変な対応を人間が代替してくれていたのだった。


 この日、実は人類最大の危機と言ってもよかったこの瞬間。


 ああ、この日に宿直についていたのが彼女で良かった。


 この時、乃愛は、この世界(ちきゅう)だけでなく、もう一つの世界を救ったとも言えるのだが……


 それは後での話。


 この時は、彼女は必死に僕の操作を行い続けていた。


 たぶん(AI)だけでも9割がた対処はできるのだが、特異点(シンギュラリティ)への対処はそんな甘いものではない。


 それは、放っておくならば、あっという間に膨れ上がり、因果ごとこの世界を削り取ってしまうのだから。


 ましてや、この日、


「藍田主任。出現場所はここなのかね」


 柳生二佐の声が統制室に響く。


 ノアはモニターから目を離さず答えた。


「はい。施設直下、地下百八十メートル。空間歪曲を確認。ここに特異点、出現してます」


 ちなみにこの施設は千葉の山奥にある、表向きは廃研究所だが、本当の顔は、人類があまり人に言えない問題を処理するための秘密基地だ。


 つまり、僕の職場である。


「藍田主任、リソースを十割使うことを許可する。あとのことは私が責任を取る」

「はい、ありがとうございます……アイビー」

「40秒で準備完了です」


 僕——対特異点(シンギュラリティ)用特務演算人工知能、愛称アイビーは渡されたリソースをフルに使い計算を進めた。


 研究所のあちこちで警報が上がり、もしかしたら管制を失って再起不能になる装置もあるかもしれないけど、それほどの危機であった。


 この特異点に飲み込まれた場所は、その因果ごと、この世界から無かったことになるのだ。


 そして今地下に眠る帰還者(ザ・マン)機関(オリジナル・シン)が失われたならば、特異点に対する今までの人類の抵抗も全て無かったことになっていまうかもしれないのだ。


 時間との戦いだった。


 特異点が広がる前に、その構造を解析し、逆位相をぶつけて消滅させる。


 そのために、僕の内部では大量のベクトルが回転している。


 空間データ。


 エネルギー密度。


 情報構造。


 そして意味。


 まあ、普通のコンピューターなら確実に燃える。


 でも、ありがたいことに僕は燃えない。


 もう少しだ。


 特異点は数ミクロンほどに広がったけれど、インフレーションを起こす前に、僕の対処が間に合いそうだ。


 だが、


「……?」


 僕は、介入した特異点の構造にある妙なパターンが気になった。


 何か、見たことがない意味が、特異点の空間データから浮かび上がって来た。


 それは……


「魔法?」


 なぜ、そんな言葉に解析の方向(ベクトル)が向いたのかわからないが……


 そんなことよりも、


「特異点への介入行います!」


 準備ができた僕は、乃愛にそう伝えて……



 異世界(どこか)に引き込まれた。


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