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モール内


久しぶりに見る、グロー球付きの蛍光灯がちらつく。


90年代からそのまま残っているらしい照明だ、と黒川は前に言っていた。

ダンジョン化した建物から取り外して使っているらしい。


その光の下で、ユウは装備を確認していた。


腰には手斧が二本。

背中には、あの異様に頑丈なハンマー。


「……重いなこれ」


軽く持ち上げてみると、ずしりとした重量が腕に乗る。

普通なら振り回すのも大変な重さだ。


鳴海が横から覗き込む。


「でもお前ならいけるだろ。なんかもう普通に持ってるし」


「普通じゃねえよ。腕取れるわ普通は」


「俺だったら一振りで肩壊れる自信ある」


「誇るな」


黒川が腕を組んだまま言った。


「今日は軽い回収任務だ。ダンジョンの三層まで。

 最近、妙なクリーチャーが出るって報告がある」


「妙な、って?」


ユウが聞く。


黒川は肩をすくめた。


「説明が曖昧なんだ。

 “静かすぎる”とか“音がしない”とか」


鳴海が笑う。


「なにそれホラーじゃん。やだなー」


「笑ってる場合か」


「だってさ、俺さ、ゴブリンと一緒に変なの結構見てきたけどさ」


鳴海は手をひらひら振る。


「怖いのはだいたい“静かなやつ”なんだよ」


「経験談なのが嫌だな」


「実体験だからね」


黒川が歩き出す。


「行くぞ。地上まで出る」


搬送路を上がると、空気が変わる。


地下の湿った匂いから、

乾いた、冷たい風に。


地上に出ると、景色は薄暗かった。


夕方とも夜ともつかない色。

遠くの建物は黒い影になっている。


錆の塊となった車を横目に、しばらく歩みを進める。

鳴海が深呼吸する。


「いやーやっぱ地上いいわ」


「ずっと地上にいたんだろ」


「それでも地下は圧迫感あるじゃん。

 ゴブリンの巣のほうがまだ広かったぞ」


「比較対象が最悪だ」


黒川が先頭を歩く。


「今回のダンジョンは元ショッピングモールだ。

 入り口は正面」


建物は巨大だった。


ガラスは割れ、

看板は半分落ちている。


それでも形はまだ平成の商業施設そのままだ。


鳴海が指をさす。


「ほら見て。あれ」


入口の横。


毛のない猿のような死体が転がっていた。


ゴブリンだ。


ユウがしゃがみ込む。


「……最近だな」


「うん。血も乾いてない」


鳴海が周囲を見る。


「つまりさ」


「つまり?」


「この中、まだいるよ」


ユウが立ち上がる。


「入るか」


黒川がうなずく。


「警戒して進め」


中は暗かった。


天井の照明はところどころ生きている。


古い蛍光灯が

じじ……じじ……

と鳴いている。


床には割れたタイル。


倒れた棚。


文字化けした案内板。


鳴海が小声で言う。


「この感じ、懐かしいな」


「モール?」


「いや」


鳴海は指を鳴らした。


「ランダムイベントの予感だ」


「そんな感覚いらねえ」


三人はゆっくり奥へ進む。


足音がやけに響く。


その時だった。


鳴海がぴたりと止まる。


「……待って」


「どうした」


「音がない」


ユウは眉をひそめる。


「何言ってんだ。今ずっと静かだろ」


鳴海は首を振る。


「違う」


声が少し低い。


「“静かすぎる”」


その瞬間。


天井の影が、

ゆっくり動いた。


ユウは反射的に手斧を抜く。


黒い影が落ちる。


音が、ない。


着地の音すらしない。


そこにいたのは——


人の形をした、細長いクリーチャー。


皮膚が異様に薄く、くぼんだ眼は皮膚でおおわれており、口だけが裂けている。


そして。


本当に。


まったく音を立てない。


牽制代わりに斧を投げつける。

よける気配もなく、胸に突き刺さるが、意に介した様子もない。


鳴海が小さく笑った。


「ほら来た。」


手を上げる。


空気が渦を巻く。


「体勢崩すから、ユウ、潰せ」


ユウはハンマーを握る。


「任せろ」


鳴海が指を振る。


風が爆ぜる。


化物の体が横に弾かれる。


その瞬間。


ユウが踏み込む。


床がドンッと鳴る。


ハンマーが振り下ろされる。


轟音。


静かな空間が一瞬で壊れた。


クリーチャーの体が

床に叩きつけられる。


だが。


まだ動く。


腕が異様な角度で伸びる。


ユウが舌打ちする。


「しぶといな!」


鳴海が叫ぶ。


「後ろ!もう一体!」


振り向くと、


天井から


三体


降りてきていた。


ユウが笑う。


「……いいな」


ハンマーを握り直す。


「今日は戦えそうだ」


鳴海が肩を回す。


「俺は崩すだけだからな。

 トドメ頼むぞ」


黒川が後ろで一ノ瀬を守る位置で呟く。


「……新人の初任務にしては、

 少し派手になってきたな」


そして、


クリーチャーが一斉に動いた。

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