記憶の不思議と植物三大栄養素<番外-前編>
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護衛、エセル、ドゥース、ジルマリク、ポーリーヌ、アドリアン
ロタンギリア人-ジャスランの友人-平民爵の始め/ロースダールのグラン・サブロン広場からサブロン町が命名された。
ロースダール公国は、バンベルクの公爵が建国/ザーム、ホスティリア人の侵食/お付き合が憤ったのは、アイテシア建国理念『圧政の無い"自由リベルテ"と、民族の"平等エガリテ"と、多部族から一つの家族になる事の"祖国パトゥリー"』に反するから
グレ、ヌムール
モンティニーからグランデル谷間まで20km(約5里)
ヴァレ・操り人形の森
フォンテーヌの東外縁から、ぐるりと北へ流れる大河モン・ビヨンヌ………。この河は、幾つもの大支流によって支えられていた。
その一つ、モンティニー街道が通っている更に南を流れるのが支流ロワン川で、フォンテーヌの南側モンティニー街道の先にある砂岩の町を基点に真っ直ぐ南へ遡ると源流に向かい、東へ下ればオルヴァンヌの町で同名の川と合流し、サブロンとトムリの間を北に流れモン・ビヨンヌへと注ぐ。
この辺りの地名は、ロワンの名が付された物が多い。サブロンから街道の終着点、モンティニーの町にもシュル・ロワンと付記されている。モンティニーとは、高地、丘、岩山という程の意味であり、その南の低地にロワン川が流れククレット川との間で広大な湿地帯を形成していた。
高台から南の低地をジュヌビレイと呼び、300年前この辺りに帝国は約3万の兵員で陣を張った。高台には後の救命公ジャスランが、成人したての15歳の若さで600の軍を率いていた。その差、実に50倍。これが、第一次フォンテーヌ会戦と呼ばれる戦いであった。
後の人々は、その残した事績と名言を取り上げて、ロレッタが生んだ俊英、アイテシアの至宝と称揚するが、第一次フォンテーヌ会戦以前のジャスランは、ロレッタの大うつけと言えば通るほどの超ド級の変わり者であった。
貴族達からすれば公爵家の三男は嘲笑の種で、読書をしても内容を説明できないので理解しているのか怪しく、矜持分別を弁えず下級兵士に交じり賭博に興じる在り様。何時もブツブツと独り言をいい、耳にタコが出来るほどの臣下の忠言に気のない返答をするだけ。もちろん家名を継ぐ所か、味方である筈の家臣でさえ養子に出す様な進言をしていた。
「へぇ……、ジャスラン公は、そんなに駄目な奴と思われてたんで?」「そうね〜〜〜。貴方は、ひと目で駿馬か駄馬か即断なさいますか?」「これは、質問返しでやすな?良うがす、馬は見た目だけで判断しない方が良いとアッシャ思いやすぜ。」
「その通りです。例え、馬を扱い慣れた人間でも実際に走らせて見なければ、馬体と比べて足首が弱く実戦向きではない物、調練不足で怯えから息の上がりの早い物など実際に使い物に成るかは分かりません。増して、馬を扱い慣れていない者は、駿馬か?否か?の見分けは着かないですよね。」
「はっ、はぁ〜。当時のロレッタ家当主も、ジャスラン公を走らせて見た訳でやすな。」「はい。見た目600の手勢でこの地に3万の敵を封じ込め、アイテシアの危機を見事に救われます。」「ほー、良将は"寡よく衆を制す(=小兵力で多数を敗る)"でやすな。ジャスラン公は、それまで三味線でも弾かれていたって訳ですかぃ?こう、ベンベーンなんてな具合に…。」
"クスクスクス………" 大うつけとは言われ無いが、当代の超ド級が付く変わり者と呼ばれるカレンは、思わず愉快気な笑い声を立てた。当人を除くと、道案内と護衛を入れて5人で古戦場跡を目指し馬に乗る。一団はポックリポックリと街道を進み、口と頭だけ暇なので所縁の地の話に花を咲かせていた。
「相変わらずアドリアンさんは、面白い表現を為さいますのねw 確かに、リュートの弦を緩めればベンベンと鳴ります。転じて、頭が緩み切った人間を演じた行動を指してリュートを弾くと表現なさるとは流石です。東洋の諺に、"能ある鷹は爪を隠す"というのが有ります。先ほどの衆寡の話では有りませんが、幼い頃のジャスラン公の逸話がロレッタ家には伝わっています。」
「どんなお話で?」「ある時、お忍びで出かけた幼い公は、街中の空き地で雪合戦に興じる子供達に出会ったそうです。割と身形りの良い側が人数が多く、貧しげで人数の少ない側を取り囲んで雪玉の集中砲火を浴びせていました………。」
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この見苦しい行いに、一緒に居たお付きが争い事を止めさせ様としますが、公は口出しを禁じました。」
「何故でやんしょ?」「憤慨するお付きに公は、"彼等が勝つから心配しなくて良い、見ていれば分かる"と少ない方を指差します。実際に、数の少ない方が団結していて、悪童のリーダーに集中して雪玉を投げて反撃しました。」「へえ、なるほど。囲むと、数は倍でも人垣は薄くなる。」
「それが、勝ちに繋がったと?ひ、あ!」つい、姫様と続け様として、お忍びなのを思い出したジルマリクはアタフタと口を噤んだ。このフォンテーヌ辺りの間道を熟知する彼女は、今日の案内役を引き受けてくれたのだ。
「"敵を囲地に置かない" これは、兵法を知っていれば当たり前の事です。人間は追い詰められると、普段の数倍もの力が出ます。それを一点突破へ、更にリーダー格に集中して怯ませれば逆撃が可能でしょう。ですが、なかなか他人は付いて来ない戦法でも有ります。余程の戦意と統率力を、公は一瞬で見抜いたと言った所でしょう。」
後の平民親友、平民爵を作ったのは親友の為、サブロンが王家の狩り場番なのは、親友の子孫と会戦で苦労を共にした平民の子孫=ロースダール公国ロタンギリア人-サブロン地域から移住した。サブロンとは砂あるいは砂地という意味で、昔ここが湿地の中の砂洲だったことに由来している。
当時のロレッタ家は嫡子だけで6男10女。これに、従兄妹再従兄妹を加えると、さぞや公爵正嫡子競争は激しかった事でしょう。」
「そうだと、まさか50人位で争っていやんしたとか?」「その倍の人数らしいです。」「呆れた。作りも作ったりでやんす。」「さてさて、ジャスラン公も跡目争いに嫌気が差していたのでしょう。優れた才能が有ったとしても、国が危機的状況になるまで隠し通してこられた。彼の残した言葉の端々に、身内同士で揉める事の愚かしさを嘆く様子が見受けられます。」
「で、それからジャスラン公は大勝したんでやすかぃ?」「そうですが、その裏には彼なりの綿密な計算が有りました。」
"クスッ…" カレンは、小さく笑うと続けた。「当時の北アイテシアは、帝国と連携して連邦が攻め込んでいました。しかも、正面のアミエンスだけでなく、ブルトン半島を迂回した一隊はナンテに攻め寄せました。これで、帝国本軍が中央山脈を超えて背後に迫れば、3方から攻められてエンフォートは終わりです。」
「正に、絶対絶命ですね。絶望的状況で、ジャスラン公は已む無く表立った行動に出た訳ですか?」「外国に落ち延びるにしても、何方にしろドルイドの血を要求されアイテシアの優位はいずれ無くなっていました。奪われた地を回復するにも骨が折れますし、外国の助力を得ると対価は高く付いた事でしょう。」
「そこで、仕方なしに公に白羽の矢が立ったと?」「まあ、最初はそんな側面も有ったのじゃないですかね。取り敢えず公は、コート・ドール領の都ディジョンにまで退いて帝国軍と膠着状態に有った、後の幸運王リオネルを3千の兵で救出する事を命じられました。」
「帝国は、どの程度の兵力だったんで?」「そうですねぇ〜。本格侵攻だったので、15個軍団、総兵力にして25万人余りです。」「うひょ〜!想像も着かない大兵力だったんでやすな。それで、味方は?」「王家が最初に滅ぼされて、国内は混乱の真っただ中でしたので兵は集まらず、ディジョンには辛うじて城兵を入れて1万と言った所でしょうか…。」
「25万対1万でやす?」「いえいえ、本格侵攻は費用が嵩むので少しでも帳尻を合わせ様とします。主軍以外の余剰戦力は、各地の貴族を攻撃すると言う名目で、方々の町を掠奪する為に分散しました。我先に、自分等の領地確保にも動いた部隊も居た様です。なので、ディジョンに対峙していた帝国軍は5万ほどですね。」
「ひと言でいえば、20万以上の盗賊集団が襲って来た訳ですな。」「最初の頃の帝国と違って傭兵で数を水増しして居りますし、自国から物資を輸送するよりも現地調達の方が労力が少なくて済みます。輜重隊(=補給部隊)に割く、実戦部隊も減らせますしね。20万居ても、純粋な職業軍人は半数にも満たなかったと思います。」
「愚かと評されていたジャスラン公が、どうやって勝てたのが詳しく知りたいと思います。」「その為には、ロレッタ家代々の当主の特徴を知らないとね。総じて、人を見る目に長けています。凡愚と言われる当主は幾人か居らっしゃいましたが、人材活用に付いては優れたセンスを持っていらした様でした。」
"はぁ〜………。それでも、若干3歳の子供に次期当主を任せるなんて、どんだけの直感力?いや、母ちゃんスキーに違いない!" なんて、お気楽に過ごしたかったカレンは、ブツブツと頭の中の父親に毒吐いた。「取り敢えず公は、父公爵へ"三千で救えと仰るなら北の総大将旗を渡して下さい"と宣われました。」
"ヒヒーン!ブルン、ブルン……" 急に手綱を引かれた馬が、驚きの鳴き声を上げる。「何だって!?あっ、ごほん……。急に大声ですいやせん……。」驚きは、アドリアンを始めとした詳しい話を知らない面々の目を丸くさせた。それもその筈で、アイテシア広しとは言え、総軍の指揮権を握るのは総大将の旗と印璽の持ち主だけで有ったからだ。
アイテシアには建国以来、総大将旗は連邦を担当する北と、帝国を担当する南が持つ2振りのみ。白赤青の3色旗のそれぞれに、王家とロレッタ家の意匠を配った物である。「この時リュイン家は滅び、南の総大将旗は失われて居ましたから、ジャスラン公が謀叛を企んでいたら大変な事になっていたでしょうw」「それでその旗を?」
「予想通り、時のロレッタ公はコッソリと息子に旗を託します。」常識では、考えられない展開に一同は呆けた。うつけとの評判は嘘にしても、1部将であるジャスランに大切な旗を渡したのだから無理も無い。「何とも、思い切りの良い事を為される………。」一同は、思わず嘆息を漏らした。
「別に、総大将旗と言っても、旗に過ぎませんよ?」「いやいや、総指揮権の証でやすぜ?そんな簡単ではない事は、お嬢なら説明は要らない筈じゃないでやすか!」"フフン" カレンは、してやったりと鼻で笑った。「寄せ手の大将も、そう考えたでしょうねw」「と、言いますと?」
「ジャスラン公は、中央山脈を超えてディジョンへ迫ると、帝国の指揮所の有ったタランの丘から見渡せる場所に5百の寡兵で総大将旗を高々と掲げて見せました。帝国軍は、誰もが目を奪われてしまった事でしょう。なにせ、王家を潰して、ロレッタ家も壊滅させれば遠征目的を完全に達成できるのですから、背骨を失ったアイテシアはボロボロのグダグダになるはずと思っても不思議はありません。」
「は、はぁ、当初の予定通りディジョン城を攻めるか?北の総大将を攻めるか?2択を迫られた訳でやすな。」「それだけでは有りません。北の王国軍は余りに寡兵過ぎて、"陽動か?"と疑わせて居りました。実際に帝国が、試しに攻め掛かる風を装った時に先頭部隊の腹背から弓矢の襲撃を受けましたから、全部隊を北の王国軍に向けて本格攻撃をしようか迷っていたみたいです。」
「有名ですから、その下りは存じて居ります。何でも、ディジョン城の囲みを解いた帝国軍は、一斉に北の王国軍に襲いかかったとか。その間隙を突いて、ジャスラン公は僅か数人の供回りだけでリオネル王をお救いした。公の行いは、豪胆無類の英雄譚として広く知られています。」ジルマリクは、興奮気味に頬を上気させて捲し立てた。
「帝国軍からしたら、攻城戦より野戦の方が勝負を決しやすく、また、ディジョンより明らかに兵数が乏しいであろう北の軍に攻め掛かるは必定でしょう。尤も、この時の幕僚の評価は豪胆な英雄ではなく、単なる頭のネジが"外れた"人でしたが……w」「"緩んだ"じゃないんですかい?」
「いえいえ、"外れた"で正解です。"弾け飛んだ"って陰口も有る程でした。」「それはまた、如何してでやす?」「大切な旗を囮に敵を惹きつけ、奪われそうなら燃やせと指示したからです。更に、攻められたら迷わず、"蜘蛛の子を散らす様に逃げろ!"と言われたのも有りますね。」「名誉を重んじる貴族てな〜、旗を守って死ねれば本望って奴なのに、戦いに出ていきなり"逃げろ!"じゃあ悪口の1つも言いたくなるやな。」
「だからジャスラン公は、超ド級の変人なんですよw」「お嬢は、そうは考えていないんでやしょ?」カレンは、少し微笑んでから、「戦さのプロになっては、勝てないのですよ。」「定石に捉われてはならないと?」「マリクの正解です。ピンチをチャンスに変えるには、新たなる発想と常軌をも覆す行動が必要です。」
「定石とか常識に倣っていては、戦さに勝てないと仰るので?」「何を言うかと思えば、非常識な手段で私の共周りを無力化した人の言葉とは思えませんねw 」「あ、あれは〜………、若気の至りって奴でさ〜。」アドリアンは、頬を赤らめながら頭をポリポリ掻く。カレンは、前世での"桶狭間の戦い"と似ていると考えた。織田信長は僅か2千の手勢で、10〜20倍の今川軍を破っている。
「これは、帝国が陣を張った位置の問題です。リオネル王を逃がさない、更に北からの援軍を警戒する意味で、ディジョンの西北西のタランの丘は定石を鑑みるに正しい位置取りですが、背後にセテ・フォンセを控えて谷と丘が複雑に絡み合う地形です。こうした地形は、兵を伏せやすく奇策を用いるに向いています。ジャスラン公の言う様に、ひたすら逃げに徹すれば、帝国は追い付くのに苦労をしなければ成りません。」
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【フォンテーヌ宮内殿/カレンの私室】
「宜しいでしょうか?」ジルマリクが、手を上げて何やら質問をしてくる。カレンは、書き物の手を止めて注意して聞く姿勢をとった。
「………先ほどから姫様の所作を見ると、私達2人とゲームをしながら、多分ペンだと思う物で書き物をし、書類にまで目を通して居られる様に感じますが、何れもが中途半端な集中に感じません………。」おずおずとした態度で聞いてくる。
カレンとしては、もう少しフレンドリーで良いのにと思うが、貴族として平民との距離を保つのは自分だけの問題ではないと考え、周りの為にも丁寧に意図から説明する事にした。"ああ〜、肩が凝るわぁ〜……"なんて、身分の垣根に辟易としつつ………。
「ペンの事などは後で説明します。今日、お2人をお呼び立てしたのは、いずれこの国の教育制度を改革する為のデーター取りが目的でした。」アドリアンが、愉快気にニヤニヤ顔をして見ている。「それは、察して居りました。」
カレンは目を僅かに見開いて、この少女の頭の回転の良さに関心した。「このルールブックを見れば、割と簡単なリバーシと、恐らくはチェスが土台であろう将棋があり、プレイして見れば何方も奥深い楽しみが有ります。」
「何でそれが、姫様の言われる教育改革と関係するの?」「ポーレット、もう少し落ち着いて質問しなと………。」「あっ……。」カレンは、クスクス笑いながら、「私は、貴女方の忌憚の無い意見を聞きたかったので良いのです。ポーリーヌは、遊んでいる内に打ち解けて来た訳ですよね?なら、上々。」
「昨日の事も有りますが、私が気になったのは何故してお呼び付けになられて、しかも内殿の自室にまで通されたのかと言った点です。お遊びのお相手でしたら、幾らでも居られるのでしょう?別の意図が有れば別ですがと考えた着いた時に、フと父さんから狩りを習った時の事を思い出したのです。」
「父さんは、地面に残された足跡から動物の種類と大きさまでの見分け方を教えてくれて、自分の失敗談など興味を引く事柄まで話してくれました。」カレンは、マリクが父親から真剣に、しかし面白味を交えながら狩りを教わるのを想像して目を細める。
「それは、お父様が良い教え方をされていますね。」
某異世界アニメの愚痴を一言。"民族自決権"なんて政治思想を持ち込むなら、国際政治の実情と思想に付いてシッカリと勉強をしてからの方が宜しいでしょう。中世期以前の文化文明が舞台であり、自由で中立公正なジャーナリズムが影も形も無い時代に、民族主義を認めるのは隣国の野心を掻き立て国内の混乱を招くだけです。
民主主義も同じですが、民衆の権利意識という物は暴走しやすく、感情を刺激すれば容易にコントロールが出来ます。ナチスが良い見本で、プロパガンダに刺激された民衆はユダヤ人などの排斥に走ります。
幼少期編でクレモンの民族主義に触れていますが、カレンは民族主義は野心家に"利用され易い幻想"だから言外に捨て去るべきと諭しています。民族の誇りより、皆が仲良く暮らす事の方が大切だと自覚する様に仕向けています。"人々の幸せ"が、本作の底流に一貫して流れるテーマになっています。
筆者としては、民族紛争の世紀と称される20世紀に対する反証としてクレモンの話を挿話しました。外伝に、"カレンと"を付けなかったのは、完全にクレモンの視点でのみ、その半生を描きたかった為です。彼にも、愛着を持って欲しく思います。
さて本作は、今後も不定期更新とさせて頂きます。今は、1馬力で仕事をこなして居りますので、悪しからずご了承ください。




