まごうことなきデートです13
久々のゲームセンターで恵茉は目を輝かせている。
「わー、聞いてはいましたけどこんなに音大きいんですね!」
俺の視線を感じたのか、恵茉が慌てて付け足した。
「いや違いますよ!全然、全然、前行った時と感じが変わってたから驚いただけですって!本当ですよ!いやー、懐かしいなぁ!」
この辺り最大級のゲームセンターはもはやデートスポットと化していて中高生だけでなく、年齢層の高いカップルも多く見えた。
映画館行ってご飯食べてゲーセン。まるで中学生のようなデートコースだったが恵茉と行くだけで十分すぎると思いなおす。これから徐々に夢の国へとステップアップすればいい。
恵茉はクレーンゲームの方にふらふらと歩いていき、興味深く眺めている。
「取ろうか?」
得意でも無いのに、それを言うことが正しいような気がして、つい言ってしまった。
恵茉はぶんぶんと首を横に振ると、
「目的が違いますから」
と言ってまた散策しなおす。
目的が何なのか気になったが、恵茉はお約束のようにプリ機の前で立ち止まった。
「撮ろうか?」
「うーん……いやぁ……」
否定されたらそれはそれでショックだった。恵茉のリアクションは芳しくない。
何をするでもなく眺めていると、男の人が視界の片隅に映った。
その人の姿は映画館でも昼食を取った食堂でも確認していた。今度はゲームセンターにも。まるで、俺らの後を追っているように。
そして、その人を見たときの恵茉の反応を思い返す。通路の中に座り込み、メニューで顔を隠す行為。
思い返していたら、案の定、恵茉から小さな叫び声が漏れた。
「あっ!」
至近距離で鉢合わせるのが嫌だったのか、恵茉は強引に俺の腕をつかむとそのまま中へと隠れるように引きずり込んだ。
引っかかるような何かがほどけた気がして、気が緩んだのだろう。
ドン、とグリーンバックの壁に激突してしまった。
「痛っ……」
不意に引っ張られたせいで、恵茉を抱きかかえるような格好になってしまう。
狭い空間でお互いの顔が近い。
あれだけうるさかった外の音もこの中では何も聞こえない。
「……」
「……」
視線が離れることはない。
瞼の上のラメがきらめいているなんて今気づくことでは無いのに。
恵茉は急に体を起き上がらせると、
「い、いや、その違いますから。別に、そのなんというか、違いますから!」
と顔を赤らめながら発狂している。
きっと、俺もそう変わらないだろう。急激に体温と心拍数が上がって平気ではいられない。恵茉もそうであればいいのに。
「その、別に撮りたいわけじゃないんです。ただ、ちょっと中を覗いてみたかっただけですから!暑いですし!この中!」
「……」
「……」
不用意な沈黙。耐えられなかったのは俺の方だったけれど。
「……撮ってく?」
「……1枚ぐらい、まぁ折角ですし」
「記念だしな」
「記念ですし」
真っ赤になっている顔はきっと映らないだろう。




