まごうことなきデートです4
不必要なほど早くに目が覚めてしまった。普段なら当然のように貪る惰眠も今日だけはいらないみたいだった。
夏本番とはいかないが、気温はそれほど低くないみたいだった。天気が悪いのは少し気になるが雨は降らないだろう。悩むかと思っていたが、気負いすぎるのも変だと思って、少し大きめのトレーナーを選んだ。姿見の前に立った時に、昨日から考えていたコーデ通りだと気づいて笑ってしまう。崩そうかと思ったが、これ以上いじると変になる気がしたので黙って家を出た。
結果、待ち合わせ場所に着いたのは指定の時間よりも30分以上早かった。喫茶店にでも行こうかと考えたが、いつ恵茉が来てもいいように待っていようと思った。立って待つのがしんどいからだろう、徐々に心臓の動きが早くなっている。高校入試でさえこんなことにはなっていないのに。
「遅いな……」
10時を少し回っても恵茉の姿は見えない。広場にはぽつぽつと家族連れと送り迎えの車が止まっている程度だった。駅に電車が入って来てもこちら側は混む様子も見せない。
一人、階段を下ってくる女の子の姿があった。恵茉かと思って視線を向けるがきっと違うだろう。韓流と形容すればいいのか、大袈裟な色の羽織とタイトなジーンズがトレンドっぽさを前面に押し出している。高いヒールを履いたその子は真っすぐにこちらに向かっている。
そう言えば、休日に恵茉と会うことなんてないのだから彼女がどんな私服を着ているのかは見当もつかない。インスタやTwitterにも写真を多く上げていないから分かることが少ない。案外あんな感じだったりして。
「あの、すみません」
「はい?」
「……分かりませんか?」
「……え、恵茉?」
コロコロといたずらにその女の子が笑う。
遠目からだとよくわからなかったが、丁寧に編み込まれた髪の毛は少し高い位置で二つに結ばれている。そんな髪型見たことが無い。不必要すぎる大きな眼鏡を外すと、派手なアイシャドウがきらめく。
「良かった、案外バレないみたいですね」
「……お、お待たせ」
「ヤだな、高瀬君。待たせたのは恵茉ですよ」
テンパって訳の分からないことを言ってしまう。どれだけシミュレートしても本番にはかなわないらしい。
「どうです?初めてこんな感じやってみたんですけど、似合ってます?」
恵茉はそう言ってクルリと俺の前で一回転した。それがあまりにも可愛くて、言葉を失ってしまう。何も言わないことに不安を覚えたのか恵茉は少しシュンとしてしまい慌てて口を開く。
「その……かわっ……」
「かわ?」
「……変わりすぎ。いつもと違いすぎてびっくりした」
「何その感想。嘘でも可愛いって言ってくださいよ」
「別に。普段もそんな感じなの?」
「え?いや全然ですよ。普段は普通ですよ。恵茉、トレンドとかあんまり詳しくないですもん」
「じゃぁ今日はなんで……」
言い淀んで辞めた。お洒落の本気が高すぎて恵茉が恵茉ではないけれど、それはきっと、デートだからなんだろう。




