まごうことなきデートです2
HRが終わっても、恵茉は机に着席したままスマホを眺めている。どうしようかと思って、躊躇したが、さっきのラインの誘惑に勝てず話しかけに行ってしまった。
「恵茉」
既に俺と恵茉が喋っているところはクラス公認らしく、大袈裟に茶化すような人間はもういない。横目で俺たちの会話に聞き耳を立てているクラスメイトは居れど、段々と周りから人は少なくなっていた。
「あ、高瀬君」
「今日は?部室に寄ってく?」
恵茉は隠すようにスマホを置いて、俺を見上げて残念そうに呟いた。
「すみません、ちょっと今日は用事があって、顔を出せそうにないんです」
「え」
「今日の活動……そんな胸を張れるようなことはしていませんけど、活動は無しでお願いします。だから、お休みをはさんで、また来週ですね」
恵茉はそう言うと迷いなく立ち上がった。教科書類が何一つ入っていなそうな薄いリュックを肩に引っ掛けると机の上で恵茉のスマホに着信。
「じゃ、そういうことで!すみません、また!」
「あぁ、うん。じゃぁな」
恵茉は最後に笑顔を残すと、着信に応対しながら教室を飛び出していった。
「ねぇ、まだ学校なんだけど。かけてこないでって言ったじゃん」
いつもとは違った声音の恵茉を見送りながら、ふと考える。敬語を使わないで話す彼女を初めて見たかもしれない、と。
一人残された俺は教壇の前に立ち尽くす。少しネガティブに回りかけた思考をいったん止めて、俺も帰ろうと思いなおす。
無造作にスクールバックを担ぎ、教室を出たところで、担任兼文芸部顧問の須藤と鉢合わせてしまった。
釈然としない気持ちが表情に表れていたのか、それに気づいた須藤の言葉が軽快に弾んでいる。
「たっかせくん。どうした?何かあったみたいな顔して」
「別に何もありませんよ」
須藤のニヤニヤが一段と上がったみたいで気分が悪い。
「……家入案件か……」
「そんなんじゃありませんって」
「さっき、険しい顔して電話してたぞ。あんな家入初めて見るけどな」
「別に関係ありませんよ」
反抗すればするほど須藤の調子は上がっていく。
普段は気にもならない担任の煙草の匂いが妙に気に障る。
「まぁ」
ふぅ、と須藤が息を吐いた。
「まぁ、アイツに人気があるのは百も承知だろうが、手綱は離さないようにな。それこそ面倒な事件に巻き込まれるやもしれんし」
「面倒な事件って……ヘンなこと言わないでくださいよ」
「そうか?最近は多いらしいからな、男女間のいざこざ。実際俺も別れた女の子からよりを戻したいという旨が詰まった恋文をもらってサァ。高瀬、これどうしたらいいと思う?」
「知りませんよ。自分で何とかしてください」
「高瀬行って、話付けてきてくれない?金髪ピアスが行った方がなにかとけん制にもなると思わない?」
「俺が見掛け倒しなの須藤が一番知ってるでしょ……」
「はぁ~、お前に相談して損したわ」
須藤はそう言い捨てると俺の頭を2、3度叩くと教室へ入っていく。須藤先生、と女子生徒達の上ずった声が聞こえて来る。無駄に人気が高いことが須藤のファンに追いかけられる原因にも繋がっているって気づいているはずなのに。
また一人になって、ゆっくりと酸素を肺に入れる。
「別に彼女でも何でもないんで、心配なんて出過ぎたマネなんですよ」
ため息にも近い何かが漏れ出た。




