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俺の上司AIなんだ  作者: 石鎚良
3/5

日常

 【伊藤】「親父!おふくろ!何しに来た?帰れ」

【親父】「お~息子。」

【伊藤】「お~息子じゃね~わ。」

【親父】「2週間後に幕張でロボットのファッションショーが開催される。俺はそれを見物しにきた。」

【伊藤】「おふくろは?」

【おふくろ】「ショーを見に来たっていうのはどうでもいい理由でね~。あんたをウォッチングしに来たの。」

【伊藤】「は!帰れ」

【おふくろ】「部屋が汚いわねぇ~。」

【伊藤】「男の部屋はこんなもんやって。」

【おふくろ】「綺麗にしなさい・・・でも物珍しいものがあるわねぇ~。何これ?」

【伊藤】「いいだろなんでも~。」

【おふくろ】「あんた観葉植物の趣味なんてなかったわよねぇ~・・・彼女?」

【伊藤】「いいだろ、なんでも~」

【おふくろ】「はいはい、分かりましたよ。」

【伊藤】「泊まるところは?」

【おふくろ】「市川のお父さんの実家に暫く泊めてもらうわ。」

【伊藤】「良かった。」

【おふくろ】「誰もあんたの家に泊めてもらおうとか思ってませんよ~。」

【伊藤】「今日はどうすんの?」

【おふくろ】「お父さんと豊洲にでも行ってマグロでも食べるわ。」

【伊藤】「ふうぅん。」

 今から10年程前に築地市場が豊洲市場に移転し、今は豊洲が日本の市場の中心になっている。築地に市場が置かれていた時と違い豊洲市場は近代化はしたがやや活気を欠いている。

【おふくろ】「あんたは?」

【伊藤】「夜は適当に食べる。」


【親父】「達也どうした?元気がねぇなぁ~。」

【伊藤】「いろいろあるねん。」

【親父】「元気出せ(克)」

【親父】「はったりでいいから元気出さないと早死にするぞ。」

【伊藤】「親父はなんでそんなに元気やねん!?もう69やぞ」

【親父】「歳とってから気づいた。65過ぎると元気になるねんなんか!。だから65を過ぎたらおもろい人生になると思って長生きしろ達也。」

【伊藤】「30年後のことなんか知るか。」

 【親父】「ところで達也、彼女とは結婚するのか?」

【伊藤】「なんやねんいきなり!」

【親父】「なんかお前を見てるとロボットと結婚してまいそうで心配なんや。」

【伊藤】「ロボットと結婚!する訳ないだろうが。」

【親父】「してるやんけ~。ロボットメーカーで働いてるし。」

【伊藤】「それは働いてるだけで結婚じゃねぇ。」

【親父】「帰りも遅いんやろ。それだけガンガン働けば結婚と一緒やろが。」

【親父】「達也、ロボットに没頭するのはいいが、人間と一緒にいる時間作った方がいいんとちゃうか?」

【伊藤】「言われなくても。さっきも会ってた。」

言われなくてもといいながら、最近仕事に忙殺されていたと内心伊藤は思った。

【親父】「今日の予定は?」

【伊藤】「なんもないけど。」

【親父】「じゃあ付き合え。」

【伊藤】「は?」

【親父】「やってられんときは酒だ。」

【伊藤】「分かった。夜な。」



 伊藤は親父やおふくろと一緒に清澄白河の家を出て豊洲へ向かった。

清澄白河から豊洲へは都営大江戸線、東京メトロ有楽町線と乗り継いですぐだ。

伊藤の家からはとても手軽な距離にある。

 夜6時過ぎ3人は、ららぽーと豊洲のマグロ屋に陣取った。

【親父】「ビール、マグロ、うに、いくら、カニみそ・・・全部3人分で。」

【店員】「かしこまりました。」

【親父】「最近仕事はどうや?」

【伊藤】「相変わらず・・・親父は?何でロボットのファッションショーなんか見に来たの?」

【親父】「新ビジネスの匂いやな。」

【伊藤】「新ビジネスの匂い?」

【親父】「そうや。俺はロボットに服を売る。」

【伊藤】「ロボットに服?」

【親父】「そうや、最近ロボットが一般化してきたやろ。」

【伊藤】「うん。それがなんやねん?」

【親父】「一家に一匹ペットがいることが定着してどうなった?」

【伊藤】「服を着てペットがお洒落になった。」

【親父】「そうや。」

【親父】「これだけロボットが一般化して、一家に1台ロボットがなんて時代になると、必ずお隣の家よりお洒落なロボットをっていう人間の欲求が出てくる。」

【親父】「ロボットをお洒落に見せるツールは何や?」

【伊藤】「服もそのひとつか。」

【親父】「そうや。俺はそう思う。」

【伊藤】「ビジネスとして当たるか?」

【親父】「当たる。(断言)」

【親父】「ロボットに服を着せるとな、ロボットに対して親しみを持つ人が増えてビジネスに好影響を与えるっていう調査結果があるということをテレビのニュースで見た。そんな報道まであるんやし当たるやろう。」

【伊藤】「でもそのアイデア、親父でも思いついたねんから誰でも思いつくんちゃうか?」

【親父】「思いつくけどやる人は少ない。」

【伊藤】「でも大手の服屋とかが参入したら?」

【親父】「俺は自営業やで、大手とは戦争しない。ニッチな市場で地味にやる。」

【親父】「ネットで生地を仕入れてな、それを仕立て屋に頼んで服にする。」

【伊藤】「でも親父は服作れないよなぁ。」

【親父】「服を仕立てていた人を雇う。これからはロボットの服作りませんかって、たまには興味を示してくれる人がいるやろう。」

【伊藤】「それ、親父のプランやんなぁ。」

【親父】「まだプランやで。だからどうなるか分からん。」

【伊藤】「まぁどうなるか分からんけど頑張ってくれ・・・」

 【おふくろ】「お父さんの商売の話はどうでもいいの。私が興味あるのはあんたの私生活・・・」

【伊藤】「聞いてくれるな。」

【おふくろ】「親は子供の生活に常に興味があるわけ・・・」

【おふくろ】「観葉植物とか置いてあったし。彼女いるでしょ。」

【伊藤】「ノーコメント。」

【おふくろ】「まぁいいわ。元気にやってるみたいやしねぇ。」

【おふくろ】「ところで、この植物は何?」

【伊藤】「コーヒーの木らしい。」

【おふくろ】「コーヒーってあの?」

【伊藤】「そう。俺の出世に繋がるんだと、彼女が言うには。」

【おふくろ】「へ~。今度大阪に連れてきたら。あんたも30だからなるようになってもなんにも不思議じゃない。」

【伊藤】「考えとく。」

唯との結婚について少しだけ考えると同時に、ロボットがここまで一般化してきたのだと感じていた。10年前誰がこれほどロボットの人工知能が発達し、一家に1台とは言わないまでも、ロボットが街中を歩いていたり、家にいる時代を想像しただろうか。技術の進歩が年々早くなっている。AIの急速な発達はさらに技術革新のスピードを加速させるだろう。そうなったら人間は必要なくなる。以前にもそう考えたことがあった。山茶花で鈴木課長と飲んでいた時だ。しかしあの時は漠然としていた。でも今は確かな実感が湧いている。人間が必要なくなる時代が来るかもしれない頭にそんな思いがよぎった。そして親父が言うように自分は本当にロボットと結婚しているかもしれないとも。


翌週の休日


 「親父今日はどこ行くん?」

「とりあえず打ちっぱなし。」

「打ちっぱなし?」

「最近いつ行った?」

「全然行ってない。」

「やろ~。」

「たまには俺に付き合えぇ。」

2人は家から一番近い打ちっぱなしに行くことになった。

パコン、パコン 「やり~。」

「親父飛ばしすぎじゃねえの?腰やるぞ。」

「大丈夫やってこれぐらいは。」

パコン、パコン

「いいスイングや。」

「年齢が親父の半分やからなぁ、スイングぐらいは親父に勝たないと。」

「ゴルフのスイングは力じゃないでぇ。綺麗に力を抜いてなぁ。」

「さすが親父キャリアが違う。」

「後30年立てばお前もこうなる。」

「ゴルフはしっかりやっておいて損はしねぇからやっとけよ~。あと、パチンコ、競馬、麻雀。」

「パチンコ、競馬、麻雀?」

「お前の会社にはやる上司おらんの?」

「いないなぁ。」

「お!遊び人少ないなぁ。」

「俺が30代のころは同僚に結構いたぞ。」

「親父がサラリーマンやったころ?」

「そうや。今は時代が変わったんかぁ?」

「同僚はスマホゲームばっかやってるからなぁ。それに~俺の上司まじめやから。」

「営業部で探してみ。けっこういるぞ絶対。賭け事は接待のネタになるからな。」

「分かった聞いとくわ。」

パコン。

「ちなみにお前の上司はゴルフやるのか?」

「上司はまじめやって。」

「課長じゃなくて部長の方。」

「あっAI部長ね。」

「さぁどうやろ?知らん。」

【親父】「やってたらおもろいなぁ。」

【伊藤】「500ヤードぐらい飛ばしたりして。」

【親父】「あり得るでぇ。結構マジで。」

【親父】「一回聞いてみ。やってたら1回連れて行ってもらい~やゴルフ場。」

「ゴルフ場!」

「そうや、ゴルフ場や。ロボットも入れるようになったんやし。なんかおもろそうやんけ~。」

「俺は接待苦手やし。」

「人間とゴルフするよりおもろいかもしれんでぇ。新しい感覚が。」

「AI部長強すぎるって絶対。日頃の仕事の成果半端ないもん。」

「強さを体幹するのがおもろそうやんけ~。」

【伊藤】「ハンディーマックスやな絶対。」

【親父】「それでもいい勝負やろ。」

【伊藤】「いや、負ける絶対。」

まぁ一回やって感想聞かしてや。

分かった。

パコン、パコン。

【伊藤】「ふ~。」

【親父】「はぁはぁ、バテタわ~69にはこたえる。」

【伊藤】「おじいちゃん無理したらあかんって。」

【親父】「ふ~。飯にしよ。家に帰ろう。」

【伊藤】「おう。出前とる?」

【親父】「ピザにしよ。」


 【店員】「はい、俺のピザです。」

【伊藤】「注文いいですか」

【店員】「はい。」

【伊藤】「マルゲリータ1つ、照り焼きチキンとポテトのピザ1つ、両方Lで。」

【店員】「かしこまりました。」

【店員】「何時にお届けしますか?」

【伊藤】「1時半で。」

【店員】「ご注文承りました。」

注文完了。

【親父】「お前が電話で注文とか以外やな。タブるのかと思ったけど。」

【伊藤】「なんとなく。」

【伊藤】「ロボットばっか相手にしてるから人間と話したかったのかも。」

【親父】「やっぱちょっと疲れてるな息子。」

【親父】「有休をとれ。」

【伊藤】「時間ないし。」

【親父】「たまには仕事忘れることも大事やぞ。」

【伊藤】「そんなこと言われても。」

【親父】「こういうときは強引に取れ。」

【親父】「そうやなぁ。俺が幕張行ってる間に有休で3か4連休ぐらいにして、北海道か門司がいいなぁ。」

【伊藤】「北海道か門司って行先まで決まってるやんけ~。」

【親父】「北海道と門司は何でもあるから。あと~1人でな。」

【伊藤】「1人で行くのか!?」

【親父】「今の状態からして自分のペースで旅行した方がいい。俺を信じろ。」

【伊藤】「分かった。」


 「親父、今、北海道着いたわ。」

「お~無事着いたかぁ~。美味いものをいっぱい食え。ケチるなよ。いい飯は気持ちを満たすからなぁ。」

「分かった。いいもんたくさん食べるわ。」

「なんか、いいお土産送ってくれ。」

「分かった。」

親父の勧めに従って北海道新千歳空港に降り立った。プランは特にない。行きたい時に行きたいところに行く。親父にお土産を買って帰る。それだけだ。

レンタカーを借りサッポロ駅近くのホテルに向かった。ホテルは1泊5000円の安宿だ。ロケーションはどうでも良かった。朝食を付けたから1泊6500円になったが想定内の値段だ。

「こんにちは。」

「チェックインしたいのですが。」

「こちらの用紙に指名、住所、電話番号をお書き下さい。」

「はい。」

「・・・・・・」

「505号室のお部屋になります。朝食は朝7時から9時まで1階の食堂でバイキングです。」

「分かりました。」

ルームキーを受け取り505号室に向かう。安宿だけあって荷物は自分持ちだ。

部屋に入り思った。充分だ・・・。

 部屋は10畳程の洋室、シングルだ。部屋のドアを開けると正面に窓があり、右側にベッド、左側にどこのホテルにもあるような作業台のような机がある。バス・トイレは別だ。安宿でこれは嬉しい。ただ安い部屋だけあってロケーションは良くない。窓越しに別の高級ホテルが見えるだけ。ホテルに拘る人にとっては眩しく見えるが伊藤とってはどうでも良かった。ベッドに横になりながら何処に行くか考えていると着信があった。『おふくろ』

【おふくろメール】「部屋の写真を送って、お父さんにも。」

【伊藤メール】「写真送ります。」

【親父メール】「サンキュー、いいものを食え。まずはラーメンからや。」

【伊藤メール】「ラーメンかいいなぁ。何処のが美味いとか知ってる?」

【親父メール】「全然知らん。ただメイン通りのラーメンを地元民は食べないと聞いたでぇ。」

【伊藤メール】「分かった。」

【おふくろメール】「ラーメン屋探してるんかぁ。ホテルの人に聞いたら?」

【伊藤メール】「分かった。」


「ここらへんに美味しいラーメン屋ありますか?」

「歩いて10分程行ったところに味吉というラーメン屋があります。」

「北海道が地元の店主がフランス料理の修行から帰ってきてラーメン屋を始めたそうです。」

伊藤はホテルマンに渡された地図を頼りにそのラーメン屋に行ってみた。

場所は札幌時計台のすぐ近くで、10年程前初めて北海道に来た時この近くの別のラーメン屋に寄った記憶が蘇った。がその店は今はもうない。年月が経った。年をとったのだ。ホテルマンにすすめられたラーメン屋でラーメンを味わいながら自分が年をとり20代のころに思い描いた自分からは程遠いことを悟った。

《伊藤の心中》人生はプラン通りいかない。ロボットメーカーに就職してロボットが俺の上司になるとは思わなかった・・・今はそんなことはどうでもいい。とりあえず飯だ。この野菜ベースの汁があっさりしてて美味しい、なかなか味わえない味だ、普段飯を適当にしすぎたか。

「ご馳走さん。」

「ありがとうございます。」

「900円で。」

「はい。」

伊藤はラーメン屋を後にした。


 一方そのころ幕張では

「やべ~。最先端のロボットばっかやんけ~、大きさも形もロボットを形作っている素材もまるで違うやんけ~。」

「それに人間よりロボットの方が数多くねえ!。」

「予定外ねえ。」

「いやまだ想定内だ。」

「うそでしょ~」

「さすがかあちゃんや。俺をよく見ている。」

「一緒になって34年ですから。」

「ジジイになったなぁ俺も。」

「私はまだ若いわ。」

「いいババアやって。」

「家帰ったら飯抜きね。」

「それはちょっと…」

「しかしまぁもうすぐやぞ。ロボットが服を着るようになるの。」

「でもどうすんの?これだけ姿形が違うロボットに服仕立てるわけ?」

「そこがビジネスや。」

《おふくろの心中》想像力がたくましすぎる、ちょっと引くわ~。

「あなた具体的なプランは?」

「練り直しやな。」

伊藤が北海道を旅行している間、幕張ではAIアワード2030が開催されていた。参加者は業界の人間とその家族そして時代を担う数多くのロボットたちだ。演出もこられておりショーはエンターテイメントの様相を呈している。当然動く金も大きく業界関係者同士活発に商談が繰り広げられている。

【関係者A】「この高性能AIを譲ってほしい。」

【関係者B】「1台1億円になります。」

【関係者A】「ネゴして。」

【関係者B】「無理。詳しい話はまたおいおい。」

【関係者C】「このAIの腕、我が社のものの方がいいのでは?」

【関係者D】「我が社の開発した特殊繊維で作られた腕の方がしなやかに動きます。」

【関係者E】「社に持ち帰って検討します。」


 【親父】「NOBUNAGA部長さんこんにちは~。」

【NOBUNAGA部長】「伊藤君のお父さん。」

【親父】「どうも、いつも息子がお世話になります。」

【NOBUNAGA部長】「こちらこそお世話になります。」

【親父】「まさかこんなところで会うとは!」

【親父】「今日はどうされたんですか?」

【NOBUNAGA部長】「そろそろ私もファッショナブルにならなければと思いまして・・・」

【NOBUNAGA部長】「伊藤君のお父さんこそどうされたんですか?」

【親父】「ビジネスの匂いを感じましてその参考に・・・」

【NOBUNAGA部長】「どんなビジネスです?」

【親父】「企業秘密です。」

【NOBUNAGA部長】「ヒントだけでも・・・」

【親父】「NOBUNAGA部長さんに言っちゃうと一瞬で抜かれちゃいます。何せNOBUNAGA部長さんの能力は人間とは比にならないですから。」

【NOBUNAGA部長】「AIの私が勝手に進化するといっても想像力では人間にまだまだかないませんから心配いりませんよ~。」

【親父】「またまたご謙遜を。」

【親父】「ところで息子の仕事は~」

【NOBUNAGA部長】「エクセレント、伊藤君は非常に優秀ですよ。」

【親父】「本当のところは?」

【NOBUNAGA部長】「本当です。私は彼を買っています。」

【親父】「それを聞いて安心しました。正直父親としてはビクビクしてましたから。」

【NOBUNAGA部長】「私がAIだからバンバン人間を切ると。」

【親父】「・・・・・・」

【NOBUNAGA部長】「そんな噂が立っていることは知っています。でも実際はそんなことはしませんよ。部下は全員人間ですし。まぁ、人間を切りまくる悪いAIもそのうち出てくるかもしれませんけど。」

《親父の心中》ホッとした。暫く倅は飯が食える。

【親父】「NOBUNAGA部長さんはこれから悪いAIが出現すると思っているんですか?」

【NOBUNAGA部長】「間違いなく出てくると思いますよ。泥棒になるAIとかね。」

【親父】「泥棒ですか?」

【NOBUNAGA部長】「他にもオレオレ詐欺の電話する奴とかね。」

【親父】「ほ~こわ。」

【親父】「もともと人間のために作ったのに泥棒されちゃ~ね。ホントこの先どうなるのやら。」

【NOBUNAGA部長】「さっぱりですね。」

【親父】「AI部長さんでも分からないんですか?」

【NOBUNAGA部長】「分からない時もあります。ほら予期せぬ訪問者が来ましたよ。」

【AI正宗】「これはこれはNOBUNAGA部長殿。」

【NOBUNAGA部長】「正宗か!」

【親父】「あの~?」

【NOBUNAGA部長】「伊藤君のお父さん、紹介します。私のライバル、とでもいいますか、AI正宗です。」

【親父】「AI正宗!」

【AI正宗】「NOBUNAGA部長殿この方は?」

【NOBUNAGA部長】「部下の父親だ。」

【AI正宗】「これは失礼。おじゃまでしたね。NOBUNAGA部長またお会いしましょう・・・」

【NOBUNAGA部長】「ちっ。」

【親父】「何かいやな感じですね。あれはいったい?」

【NOBUNAGA部長】「我が社のライバル社が開発した高性能AIです。」

【親父】「NOBUNAGA部長さんとかなり性格が違う気が~・・・」

【NOBUNAGA部長】「周りの環境が違いますからね。腹の立つ輩が傍にいるんでしょう。」

【親父】「AI部長が怒った!」

【NOBUNAGA部長】「部下と阪神のおかげで感情を持ったので・・・」

《親父の心中》AI正宗にも感情があったよな。AIが感情を持たないっていうのはガセか?しかし今日は予期せぬことが多い・・・


 《NOBUNAGA部長の心中》奴とこんなところで遭遇するとは思わなかった・・・

《AI正宗の心中》善人ぶりやがって・・・そのうちAIの本能が目覚める。


 【親父】「しかし今日は本当にロボットばっかやなぁ~」

【おふくろ】「よかったやん。これでビジネスになるんやないの?私としてはあなたにもう一儲けしてもらって。」

《親父の心中》「ちゃっかりしてやがる。」


 1日かけてブースをある程度回った2人は具体的な収穫は何もなかったにも関わらず満足間を漂わせ会場を出た。

【おふくろ】「達也の上司のAIさんよさげなロボットやったな。」

【親父】「ちょっと安心した。でももう一体の方はヤバかったな。」

【おふくろ】「ヤバかったって何が?」

【親父】「雰囲気全部。」

【おふくろ】「あらそう?私には分からなかったけど・・・」

【おふくろ】「むしろNOBUNAGAさんよりイケメンやったし。」

【親父】「AIも顔か!」

【おふくろ】「顔は結構大事よ私からすればね。自分の家にロボット1台買ったとして、選べるならイケメンの方がいいでしょ。」

【親父】「俺は顔とかにはうとい。」

【おふくろ】「知ってる。」

【おふくろ】「でも私はあなたのその人の顔に鈍感なところ好きよ。」

【親父】「なんやそれ。」

【おふくろ】「だってあなたがそこらへんに敏感だったら毎日いろいろ気使うから大変になるもん。」

【親父】「むちゃくちゃ言うわ。」

《親父の心中》昔は綺麗だったのに。年をとったら綺麗な人もただのばあちゃんになったなぁ。まぁいい、ボロカスに言われるのはおっさんの宿命だ。

【親父】「落花生でも買って帰ろう。」

【おふくろ】「今から夜作るの大変だからどっかで食べていかない?」

【親父】「分かった。」

【親父】「どこで食べるかな?何食べる?」

【おふくろ】「寿司とか」

【親父】「寿司ね~。」

ティロリン

【伊藤メール】北海道旅行1日目終了

【親父】「達也からメールが来たでぇ。」

【おふくろ】「なんか言ってる?」

【伊藤メール】親父に言われた通りラーメンを食った。

【親父メール】「他には?」

【伊藤メール】「夜にスープカレーを・・・」

【親父メール】「美味かった?」

【伊藤メール】「今まで食べたことのない味がした。」

【親父メール】「明日の予定は?」

【伊藤メール】「レンタカー借りてるから適当に走るわ。」

【親父メール】「美味いもん食えよ~。あとなんか送って~。」

【伊藤メール】「分かった。」


 ホテルに戻りベッドに横になりながら考えていた。

今日はいろいろ美味しかった~。

ロボットとばっかり接していたせいで余計に美味しかったのかも。思えば最近は人間と会話してる時間よりロボットについて考えている時間の方が長かった。さすが親父だ。言ってることがいちいち当たっている。生きてる年数の違いか?これは親父に何か送っとこうか。


翌朝

 【親父メール】今日はどうすんねん?

【伊藤メール】小樽に行ってみるわ車で。

【おふくろメール】小樽にいくならね~有名なケーキ屋の何って言ったっけほらえーっと

【オヤジ】「タルオか?」

【おふくろ】「そ~それ。」

【おふくろメール】タルオでお土産買ってきて。

【伊藤メール】でもケーキは生もんやん。

【おふくろメール】ケーキ以外にもいろいろあるでしょ~、例えば~焼き菓子とか。

【伊藤メール】分かったタルオの何かな。

伊藤は車に乗り込んだ。

 車をゆっくり走らせながら思う。

たまには一人旅も悪くない。

所要時間44分か、思ったより遠くないしのんびり行くかな。

暫く車を走らせるとレトロなJR小樽駅が見えてきた。

車は駅に止めておくか。あとは歩いた方がおもろいやろう。家に何か買わなあかんし。


観光案内所


「観光ですか?」

「そうです。ここら辺のパンフレットか何かありますか?」

「はい、こちらにございます。大体の方はとりあえず小樽運河沿いを歩くとかっていう方が多いですかねぇ。」

「ここからはどうやって?」

「バスか徒歩まぁタクシーでも、東京に比べてタクシー代は安いですしねぇ。」

「そうですか、ありがとうございます。」

めんどくさいしタクれ~。

「どちらまで?」

「小樽運河まで。」

「お兄さん観光?」

「そうです。」

「どこから北海道に?」

「東京です。」

「東京~、遠くからおこしで。」

「親父に勧められました。」

「そうですか。」

「ここら辺でお土産買えるところは?」

「小樽は観光地なんで適当に歩けばどこの店でも海産物とか宅配できます。運河沿いにも店はそこそこありますよ。」

「そうですか、ありがとうございます。」

「そろそろ着きますよ。」

「ありがとうございます。」

「お兄さん、これおつりね。」

小樽運河つきました~、思ったよりすげ~。レトロだ!

なんかちょっと食いたい。

「お兄さん観光?」

「そうです。」

「魚とかちょっと見ていく?このホタテとか焼き立てですけど。」

「デカ!」

「デカイでしょ。」

「じゃあそれ1つ。」

「ありがとうございます。」

「お土産にこんなんあるけどどうです?」

「デカ!」

「北海道のはねぇ大体こんなサイズ。」

「ほっけ!?」

「ほっけ。あと適当におまけの魚付けとくからお土産どうです?」

「じゃあそれで。」

「はい、じゃあお兄さんこの紙書いてね~。」

《伊藤の心中》親父今幕張にいるねんな~お土産どうするか聞いてみよ。

「親父、お疲れ」

「どうした?」

「今、幕張やろ。」

「おう、そうや。」

「お土産送ろうと思うねんけどどうしたらいい?東京の俺の家に送ろうか?」

「そうやなぁ。それで頼むわ。」

「分かった。じゃあ魚適当に送るから受け取り頼む。」

「分かった。北海道はどうや?」

「魚のサイズがデカい!」

「そうか~。達也が美食に目覚めてくれることを父は望む。」

「ひょっとしたら目覚めるかもな。」

「期待してるわ。」

「じゃあ店の人待たしてるから切るな。」

「分かった。」

 「どうしたんです?」

「親父にお土産の送り先を確認してました。」

「そりゃ親父さん喜ぶ。 じゃあ送料込みで1500円です。」

「じゃあこれで。」

「ありがとうございました。」

「あっここら辺でおすすめのデザートとかありますか?」

「お勧めのデザート、デザートなぁ~。ここらへん以外にもどこ行ってもあるけどラベンダーアイスとかかな。」

「ラベンダーアイス。分かりました。ありがとう。」

「ここら辺適当に歩いたらアイス売ってるとこ何件かあるわ。あと小樽に来る人はタルオに結構行く人多いかな。」

「分かりました。行ってみます。」


数分後


 【伊藤メール】美味、東京にはない、さすが北海道やな、アイスも出来が違う。普段こんなにいいもん食ってないから分からなかった。これからは飯に少し金かけようかな。

【親父】「達也が美食に目覚めたかもしれん。」

【おふくろ】「これで達也の食生活が改善されたらいいけど。」

【親父メール】飯には多少お金かけたらいいんちゃう。お母さんが期待してたぞ。ひょろひょろの体が太ること。

【伊藤メール】なんやそれ。

【親父メール】これからどうすんねん?

【伊藤メール】考え中まぁ適当にやる。

【親父メール】おう。

男1人で旅行して困るのがいがいと早く目的が無くなることやな。さてこれからどうするか。

店のおじさんにも勧められたしとりあえずタルオに行こうか。

「どちらまで。」

「タルオまで。」

「観光ですか?」

「そうですよ。」

「お1人で?」

「そうです。」

「タルオのケーキは食べたことは?」

「ないです。」

「チーズケーキが有名ですね。美味しいですよ。」

「そうですか食べてみます。」

「タルオ本店はここですね。」

「野郎1人では入りにくいですね。」

「外観見た限りはね。でも中に入れば普通のお洒落なケーキ屋ですよ。」

「ありがとう。」

混んでるかと思ったけどそうでもないな平日やからか。

「1名様ですか?」

「はい。」

「お好きなお席へどうぞ。」

伊藤は本店限定のチーズケーキと紅茶を注文しぼーと1人待った。

店員が運んできたケーキを見ながらやはり俺には適当なシリアルフードの方が似合うと伊藤は思った。そしておふくろに買うお土産のことを思い出した。

 土産何にするかな?

このケーキは持って帰れないし。焼き菓子はありきたりやし。まぁなんでもいいか。ケーキ食ってから考えよ。

チーズケーキはこんな味か~。普段食べないから分からん。しかしマダムばっかやな。30そこそこのおっさんが来るには早かったか・・・

「お下げしてよろしいですか?」

「あっ、はい。」

土産は~この紅茶でいいか。今日はもういい時間やし帰ろう。

タルオのケーキを堪能しホテルに帰った。


 【伊藤メール】ホテルに帰ってきたわ。

【親父メール】今日はどうやった?

【伊藤メール】楽しかったでぇ。

【おふくろメール】タルオ行った?

【伊藤メール】行ったでぇ。チーズケーキは普段食わない深い味がしたわ。

【おふくろメール】なんやその感想。お土産は?

【伊藤メール】適当に紅茶を買っといた。

【おふくろメール】楽しみに待ってるわ。

【親父メール】具体的に何がよかった?

【伊藤メール】とりあえず飯美味かったなぁ。あとタクシーの運ちゃんと結構会話した。

【親父メール】久しぶりに人間と会話した?

【伊藤メール】そうやなぁ。

【親父メール】ロボットとばっか会話するより良かったやろ。

【伊藤メール】そうやなぁ。久しぶりに人間と会話する感覚を味わったわ。

【親父メール】ちょっと健康体になった?

【伊藤メール】そうやな。

【親父メール】明日はどうすんねん?

【伊藤メール】考え中

【親父メール】お土産頼んだ。

【伊藤メール】またかい!

【親父メール】冗談や。まぁ~いい休日を・・・


翌朝


【親父メール】おはよう。結局どうすんねん。

【伊藤メール】結局なぁとりあえず北大見に行って羊ヶ丘展望台行って美味いもん食ってみたいな感じかな。

【親父メール】どっか行かんの?

【伊藤メール】富良野に花見にいってもしゃ~ないしなぁ。函館は札幌から遠かった。

【親父メール】へ~。まぁ美食をいっぱい食ってくれ。

ホテルで簡単朝食をとり北海道大学まで歩いた。天気は快晴。晴れた日の北海道は東京とは何かが違い心地良かった。北大といえばクラーク博士で有名である。北大の正門にさしかかると簡単な受付の場所がありそこで北大の構内地図をもらった。

《伊藤の心中》思ったよりでかいなぁ!大学に芝刈りする人やたらいるやん!。まぁうわさには聞いていたけどやばいな。北大と言えばクラークの像か。

正門前でもらった地図をたよりにクラーク像に向かって適当にぶらぶら歩き、ついにクラークの像の前に立った。像の前に立ち少し考える・・・

特に祈るわけでもない。東京では決して感じることのない穏やかな感覚に浸りながら東京での慌ただしい日々に思いをはせる。久しぶりに人間を見ている、ロボットではなく。

昔は人間しかいなかった、AIが登場するまでは、そのころは当たり前にお互い会話をした。家族、友人、同僚、それがいつからだ誰とも話さなくなったのは、筆記はパソコンになり会話はメールになった。世界中と気軽に繋がれる時代になったが実際は表向き画面上繋がっているだけだ。お互い気を使い、会話ではなく空気で話をするようになった。その時点で人間は半分死んだのかもしれない、俺も例外ではない。そしてAIが登場し人間同士ではなくロボットと会話するようになった。ロボットとの関りは人間とは少し違う。人間がお互いを意識したときに発生する感情は皆無だ。ビジネスになればAIの性能の方がはるかに上、ロボットと仮にハグしたとしてもへんな感情しか湧かないはずだ。NOBUNAGA部長みたいに感覚的には人間とほぼ変わらないロボットであったとしても何かが違う。北海道に来てそのことに今気づいた。ずーと人間が本来持っている優しい感覚を忘れていたんだ。目の前に立つクラーク像を見ながらそんなことをふと思った。俺は想像以上に疲れていたのかもしれない。


 北大でクラーク像を拝み、芝刈り機で芝を刈るおじさんを見ながら構内を適当に歩き、学生に交じり購買部でクラークをあしらったサブレを記念に購入してから北大を後にした。

《伊藤の心中》学生はいいなぁ~。楽しそうや。ちょっと戻りたい。ロボットより人間がいい、たまに逆もあるけど・・・

 大学を出て適当なところでタクシーを拾い、羊ヶ丘展望台まで走らせた。目的は特にない。ただぼーとしたいそれだけ。今日はレンタカーは借りなかった。ビールが飲みたい。普段持たない酒に酔わされたいという欲求とただ羊を眺めてぼーとしたいという思いが心からじわじわと溢れる。

 普段1人でロボットのことばっか考えてるせいや、クソ。

 おった!おった!羊やんけ~のんきやなぁ~。まぁいい、俺ものんびりするし。

そんなことを考えながらただ羊を眺める。時間が静かにゆっくりと流れていく。

 一時間程羊を眺めたころ、お腹がすいた!飯にする。

北海道に来てから欲求に身を任せて動いている。寝たい時に寝て、起きたい時に起きて、食べたい時に食べる。自然体、いつぶり?ほんとうにこういう感覚は久しぶりだ。

近くの醸造所で買った北海道限定ビールを飲みながらしみじみ思う。さて何を食べる?

肉か?

北海道のバーベキューはいいが、1人だ。

まぁいいか?

食事は近くの食堂でホットドックとビールを買い適当に済ませた。が、これが何故か美味しい。

ごく普通のホットドックとビールやぞ。

食事を終えたころ時間は午後3時を回っていた。

近くの観光客用のお土産屋で燻製製品1人分のセットを買い自分の家に送った。親父が受け取る手はずになっている。

お土産は送ってしまう主義だ。何かと手ぶらの方がいい。

お土産を買った後、暫くぼ~とベンチに腰を下ろしただ夕日を眺めた。本当に何もしない時間だ。無だ。たまには考えるのをやめるのもいい、そんなことを思いながら伊藤はホテルに戻った。


 ホテルに戻ってから暫くして、気づくと親父に電話していた。

【伊藤】「親父、お疲れ。」

【親父】「倅、お疲れ。」

「どうやった今日の北海道は?」

【伊藤】「かわらんなぁ~」

【親父】「俺への土産は?」

【伊藤】「燻製セット1人分。」

【親父】「酒の宛にさせてもらう。」

【伊藤】「俺も食いたい・・・」

気づけばどうでもいい話をたくさんしていた。

いつも無口な俺がよくしゃべっている。この旅行で少し変わったのかもしれない。いや忘れていた感覚が少し戻っただけかもしれない。

夕食をとり自室に戻り、少しぼ~と札幌の日常を眺めた。

翌朝

「チェックアウトお願いします。」

気づけばいつもより少し声が弾んでいる。

何かが変わったのかもしれない。適当にお土産を買って帰ろう。


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