第4話 獣人クゥと謙虚な神
「ゴッド様、私に一つ提案があるのですが少々よろしいでしょうか……?」
話が一段落したあと、リーシャが声をかけてきた。
「おう。何でも提案だけならいくらでも言ってくれ。俺は寛大で優しい男だ。なによりお前たちハーレムメンバーは、運命共同体だからな。」
「プッ(あ、まずい)」
ん?なんかノーリィの方から吹き出したような声が聞こえた気がしたが、後ろを振り返ると半目で無表情のままついてきている。
気の所為か……。
「え、えーと……。ゴッド様のその素晴らしいお力で、獣人を薙ぎ払ったのは覚えていらっしゃいますか?」
「あー、あのデカい獣か。元が美少女だったのに残念だ。俺はケモナー趣味じゃなかったんだがな……。元の美少女だったら飼ってやってもよかったんだが」
「「は?」ごほんっ……実は、彼女は生きているかもしれないのです。あの大きな獣の姿は一時的なもの。今は元の姿に戻っているはずなので、是非ゴッド様のハーレムに迎え入れて上げたいな……と」
うーん?
俺が全力で吹き飛ばしたのに生きてるとは思えないが……。
まぁ、見るだけならタダか。
「わかった。だがまた襲いかかってくるんじゃないのか? そしたら今度は完全に滅ぼすしかなくなるが……」
「(寛大で優しいとは……?)」
俺が憂慮を口にすると、こちらを上目遣いで見つめて力強くリーシャは語る。
「いえ! 彼女は絶対に大丈夫ですわ! 先程はゴッド様に取り憑いた邪悪な存在に敵意を向けていただけのこと。落ち着いて話せば、そのような存在ではないのは一目瞭然です! 彼女もゴッド様の魅力によって改心することでしょう……」
「……そう。神ゴッド様はかっこいいので……」
やはり美少女は俺のハーレムになる運命か。
「しゃあねぇなぁ!ハーレムの主として、懐の深さぐらいはみせてやらねぇとな!」
「プッ」
「(ノーリィ!)」
「(本当にごめん……)」
……リーシャの説明によると、どうやら、ノーリィはたまにむせる持病があるらしい。俺に心配かけたくなくて黙っていたらしいのだが、伝えた方がいいと判断したリーシャが話してくれた。
病弱美少女か、いいじゃねぇか。
◇◇◇◇◇
「クゥ……」
「……なんとか暴走は収まったみたい。」
ケモミミ美少女が平原の中にポツンとうつ伏せで倒れていた。
その近くには吹き飛ばした際にぶつかったらしき、大きな木が聳え立っている。
衝突の際の勢いが強すぎたのか、少しばかり歪んでいた。
改めて見ると、ハーレム切り捨て判断は早計だったことがわかる。
橙色で狼のような耳を生やした長髪に、軽装の美少女。やはり獣人といえばコレだよなぁ……!
リーシャも言っていたが、これからのハーレムを担う一角に相応しい美しさだ。ちと獣臭すぎるのが玉に瑕だがな。
うーん、ちょっとばかりおいたに力を込めすぎたな。
まぁ、最初から一時的な獣化だって教えてくれなかったのが悪いんだが……。
「クゥも臭いな。リーシャ、最上位の浄化を頼むぞ?」
もちろん肯定が返ってくるかと思ったが、なぜか頷かない。
こいつまさか……。やはり先ほどの神聖魔法によって、本当は邪神みたいな存在に操られてるんじゃ……?
『私の全ては世界のために——』とか、まさに洗脳ワードだろ。
リーシャはこちらに向き直り、胸に手を当て、軽く目を伏せながら行儀よく口を開く。
「ゴッド様。クゥをこのまま浄化してしまうと、ゴッド様のご尊顔を見た瞬間に、先程楯突いた自責の念から自死しかねません。……ですので、一度あちらにある大木の方で浄化し、クゥが自分を傷付けないように説得してからゴッド様の御前にお連れしてもよろしいでしょうか……?」
こちらに対して瞳に涙を堪えながら必死に訴え出る彼女は、とても美しかった。
なるほどな。獣人故に義理堅いのか。それなら仕方ないな。
なによりリーシャが可愛いからいいや。
「おう、わかった。クゥももう俺のハーレムメンバーだからな。勝手に死ぬことは許さねえ。そう言っておいてくれ」
「はいっ!さすがはゴッド様!その優しさは世界を包み込むかのよう!」
「神ゴッドさまは寛大で優しいです……」
そうだろうそうだろう!
ふふふふふ、これだ!これこそが!俺のハーレム!!
「俺様!ハーレム!やれやれ、美少女たちに慕われるのは辛いな……」
「プッ(な、なに今の!?)」
「大丈夫か?ノーリィ」
「だ、だいじょ、うぶです……」
くくく、俺の優しさに思わず心を震わせてしまったか。
あまり優しさを見せすぎるのも良くないな。
「それでは、行ってまいります!」
「いってきますね……」
◇◇◇◇◇
ハーレムメンバーたちを待つ間、俺は一つ今後のための訓練をすることに。
異世界と言ったらやはりあれだろう。
異世界から来た救世主を待っているはずの、ドラゴン美女や女精霊、王女や女神などを迎え入れる心構えを固めながら脳内の辞書から最適なセリフをイメージトレーニングで仕上げていく。
「(この世界は俺のもの。つまりお前も俺のものだ!……いいじゃねぇか)」
「(おい、この世界の理がどうたらうるせぇよ。俺がお前を手に入れることは、理以前の根源なんだぜ!……やべぇ、最高)」
そんな中、不意に近くの草を踏みしめる足音が耳に入る。
その音の方向に顔を向けると、体を綺麗にして見違えた美少女——クゥと共に、リーシャとノーリィがこちらに駆け寄ってきた。
「ゴッド様の貴重なお時間を無駄にしてしまい、申し訳ございません……!大変お待たせいたしましたわ……!」
「ごめんなさい……」
「…………」
三人がそれぞれのやり方で頭を下げる。
うーん……。なんかこれはちょっとちがくないか?
「ちょっと思ったんだが、俺たちはもう、家族だ。「は?」……ん?」
なんかクゥからドスの効いた声が聞こえた気が……。
すると、なぜか突然ノーリィが杖でクゥの頭を叩いていた。
おいおい、いきなり仲間割れとか勘弁してくれよ。
もしかして俺の家族は自分だけっていう独占欲か?
「ゴッド様……! 伝え忘れていましたが、クゥは声を発するのが難しく、つい感極まって声を出そうとすると、低い声が出てしまうのです。そこでノーリィが専門医として、声を発した後に体の中で不調が残らない様、特殊な技術で獣人の打診をしているのですわ!」
ものすごい早口かつ聞き取りやすい声でリーシャが一息に喋り通した。
……なるほど! だからさっきは謝罪の時に声を出さなかったんだな。
とはいえ、俺の見立てだとクゥは俺に対する独占欲が強めだからそれもあるだろう。
あのこちらに対する刺々しい目つき、まさに獣だ。
まるで私だけが神ゴッドの家族なんだと言わんばかりの眼光、やれやれだぜ。
「……そういや、さっき色んな不幸から戦ってた時に、よく喋っていたような……」
「あの時は、かつてゴッド様に取り憑いていた邪悪な存在を倒すために、無理をしていたのです……」
少し悲しげな表情をするリーシャ。まじか。俺に取り憑いていたらしい、俺の力を勝手に奪おうとしたやつは余計なことしかしねぇな。
「まぁ安心しろ、クゥ。俺はそんな邪悪な存在じゃねぇからな。俺ほど優しく、寛容で、なにより神々しくも謙虚で堅実な男は居ないと自負している……!」
「………………」
クゥはなぜかぼーっとしている。俺に見惚れたな。
その横ではノーリィがまたむせそうになっていた。さすがに謙虚さを見せすぎたか。
やれやれ、優しさを見せようとしなくても自然と見せてしまう。俺も罪深い男だ……。
「さ、さ、流石ですわゴッド様……!!」
リーシャにも申し訳ねぇな。俺の魅力で既に参っている所を、どんどん新たな蠱惑的一面が加算式に意図せず見えていってしまうのだから。彼女が言葉に詰まるのも無理はない。
……それはそうと、気になることがある。
「クゥは指輪をしないのか? 身分証明に使うという話だが……」
「……別に「彼女は部族故に、身分証明を必要としてなかったのです。それ故私たちが人間社会では常に一緒にいないといけなくて……」」
何かクゥが話そうとしていたが、うまく喋れないらしいクゥの代わりか、リーシャが説明してくれた。
「安心しろ、クゥ。俺がお前の身分証明だ……!」
「ぶはっ……」
「…………」
感動のあまり、感極まった反動か持病がでてしまうノーリィと、俺の器の大きさに驚いて表情が固まっているクゥ。
やれやれ、転移直後のハーレムメンバー相手にこの魅力加減なら、道を歩いているだけで民衆からは既存の宗教なんかを塗り替えるレベルで崇められてしまうんじゃないか……?
「(笑いを堪える訓練の必要がありそうね……)」
「(…………うん)」
俺の存在こそが、これからの道標になるのは明らかだ。
安心していいぞ、クゥ。
神ゴッドの存在こそが彼女たちの苦難の始まりでした。




