第16話 忖度の限界と疑心暗鬼
「神ゴッド様、そのガーゴイルは……!」
「しゃらくせええええ!」
飛空艇で天空城付近まで近寄ると、石でできた翼の生えた怪物がくぐもった女声で『何のようだ』と声を上げながら無防備に近付いて来たため先手必勝で殴って打倒した。
何の用かだと?
決まってる、空賊王を倒してハーレムを増やすためだろうが!!
どんなに女声だったとしても、見た目が怪物な以上俺が油断するわけないだろ!
そいつを倒した後、次々と増援のガーゴイルがやってきたため俺は必殺技の準備をする。
「スゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」
「神ゴッド様、それ以上その━━っ!(なに!?ノーリィ、今それどころじゃ……)」
「(もう訪問用のやつあれが倒しちゃったし、こうなったら神ゴッドに違和感持たれないようにするのが優先)」
「(絶対私怨混じってるでしょ! もう知らないからね!)」
曰くこの怪物はガーゴイルらしい。
必殺技の準備が出来たため、俺は解き放つ。
「フゥゥゥゥゥゥウ!!!ゴッドタイフウウゥン!」
「あははは!!! いけーーー!!」
「えぇ……」
俺の風を巻き起こす神の息吹と共に吐き出され、高速射出された神の唾がマシンガンのようになりガーゴイルたちが次々と倒されていく。
「神ゴッド様、いけーやれー(ふふふ、ミディルの嫌そうな顔が浮かぶ)」
「神ゴッド様なら全てを倒さずとも道を切開ける英雄ですわ……!(はぁ、大丈夫なのかしら……)」
やがて俺無双で空中戦を制した果てに、無事に天空城へと到着。
その城は、サグラダファミリアのように豪奢だった。
まぁ俺の隠れ家の一つとして扱ってもいいぐらいには中々いいものじゃないか。
戦いの余波で崩れなければ住んでやってもいい。
「私はここで待っているから行ってきて〜。頑張ってね神ゴッド様〜!」
手を振りながら見送るヴァイナに華麗に手を振り返して飛空艇に置いていく。
おそらくこの戦いには、歌声で援護するだけの人魚姫であるヴァイナはついてこられないからな……。
「ゴッド様、ご注意を。空賊王ミディルは遠隔で——」
「は? そんなの関係ねぇ! 俺の力は最強! 無敵! 神ゴッド!」
咆哮を上げながら俺は城の中心部に向けて『ゴッドタイフーン・拳圧トルネード』を放った。
この技は神ゴッドの言葉とともに息を前方に吹きかけ、それでいながら拳で正拳突きも同時に繰り出す事で完成される俺の必殺技だ。
これを開発してその理屈を説明した瞬間、常駐ハーレムの5人は皆揃って呆然としていたな。
さすがに天才すぎたか……。
それはともかく、俺のゴッドタイフーン・拳圧トルネードによって城は崩落し、中が丸見えになっていた。
そしてその中心にいるのは空賊王——ん?
「おいリーシャ、なんか美少女がいるぞ。空賊王の被害者か?」
最近の習慣である、わからないことへの解説をリーシャに頼む。
「あ……え、彼女は……」
『なんじゃ、お主たち。わしの天空城に恨みでもあるのか』
——突然、頭に鳴り響く声が一面に広がる。
「のじゃロリか……!足りないと思っていたんだよなぁ……! よっしゃ。人に向けていきなり音波攻撃はしちゃいけないよってことを、お兄さんが教育してやらんとなぁ」
「ゴッド様お待ちください……!」
「おまちくださいー」
「(ちょっとノーリィ!)」
「(だってもう天空城は壊されてるし……)」
腕まくりしながら前に出て、その金髪赤眼の美少女を見る。
見れば見るほど美しいな。
うん。
やはり、俺のハーレムメンバーだ。
『はぁ……?お前ふざけるのも大概に——』
「ゴッド・愛の鞭!」
教育的指導をするべく、その場を踏み込み襲いかかる。
まずはお尻ペンペンだ……!
『我が命じる。伏せよ』
——瞬間、俺は城の地面にめり込んだ。
「な、んだこれ……! 俺は最強……! 無敵……! 美少女……! ハーレム……!」
悪い子を教育せんとする勇者の力が湧き上がり、神々しいオーラが身体を覆う。
「「あ、あれは……!(やばい!?)」」
『……ん?』
「うぉぉおおおぉぉおお!お尻ペンペンするぞおおおおおおお!!!」
「「ブフォッ」」
のじゃロリを教育せんと正義の心に燃えた俺は、身体の中心から溢れ出る勇者の力を引き出しながらこの重圧に抗い、そして——
——振り払った。
「ふー、君が空賊王ミディルだというのはわかった。世界を裏からかき回すのは幾らやってもかまわないが、俺に対するおいただけは教育せんとな」
「(よ、よかった……)」
「(もう、ノーリィがここにきて手抜きするからよ。無差別洗脳が発動しなくてよかったわ……)」
「(ごめん……)」
両手をワキワキとさせながら、ミディルを捕まえるべく飛びかかるが、何度もすり抜けて逃げられてしまう。
『なんじゃこいつ。気持ち悪いな……』
「ははは、ミディルちゃんはツンデレさんだったか。」
ここで馬鹿な男ならこのミディルの言葉一つでブチギレるんだろうが、俺にはわかる。
あの瞳の奥に宿る俺を見ているようで見ていない瞳。それはまさしく、リーシャたちが俺を見る時の瞳だ。
つまり——照れ。
恥ずかしさゆえに一線を越えられなくて瞳の奥でさえも謙虚に目そらししている証拠ぉ!
そこから様々なミディルのおいたを諌め、何度も勇者の力を限界突破するはめになった。
だが、戦いながらも俺の勇者魂を魅せることで話し合いの余地が生まれた。
ミディルはじゃじゃ馬だが、ハーレムでは必要な要素でもあるからな。
俺の好みで言えば、デメリと同等だ。
デメリが巨人族なのを鑑みると、ミディルはデメリ以上の存在になるかもしれん。
手がかるほど可愛いとは、こういうことだったのか。
元から神レベルに寛大で優しさに満ちた俺だが、さらに上の領域。
もはや神を超越した、まさに超・神ゴッドになってるな。
ミディルは確実に俺の魅力で虜にせんといかん。
◇◇◇◇◇
城の応接室。
どこか気だるげなミディルが、なぜかノーリィに知り合いのような態度で声をかけた。
ふむ、かつて同じ魔法を学んだ同門というわけか。
卒業した後、善と悪で別れてしまった悲劇のヒロインってわけだ。
俺が救ってハーレムに入れてやらんとな。
「はぁ……。ノーリィ。説明せい」
「えーと……。とりあえず、はい。」
ノーリィが自分とミディルの頭に手を当てて、双方の額に小さな魔法陣が浮かび上がったかと思うと、しばらくして消えた。
「………………………………はぁ。」
しばらくしてミディルは、ため息を吐いてこちらを見つめる。
なんか記憶の共有魔法でもしたんかな。
俺の偉業の数々を覗いた結果、思わず感嘆の吐息が漏れたように見える。
救う必要がなくなったか……?
「自己紹介を改めてしようかの。……わしは空賊王ミディルという。だが、今は改心し、この城の中で己の罪と向き合いながら余生を過ごしていたということじゃな」
ふむ。やはり、美少女に根っからの悪人はいないという真理は真実であったか。
「おそらくだが……、俺がこの世界に転移してきた瞬間にその存在を感知して、俺に相応しい存在になるために、無意識に償いの意識が生まれたんだと思う……」
「ブッ」
「あ?」
なんだぁ……?
俺のハーレムの中で一番下の、ドラゴンの姫だから在籍を許されているにすぎないアムレアスが……、今、俺を鼻で笑ったか……?
「そ、そうだと思う。神ゴッド様の偉大さを察知したミディルが……」
「あはは……」
——というか……、よくよく考えると、なんかおかしいぞ……?
「おい、アムレアスその笑いは何だ……?」
「い、いやぁ、俺もちょっと持病で……」
俺の世界最高峰の神知性を舐めてんのか、テメェ。
「ドラゴン族は生まれ関係なしに、どんな環境でも病にならないって、お前の親が言ってたじゃないか」
「ぐっ」
様々な記憶が頭をよぎる。
あー、なんだ?
まじでおかしいぞ。
「よくよく考えたらノーリィ、お前のむせるタイミングって、いつも俺がなにか喋った時だよな……」
「あ……」
ふと、リーシャとノーリィのいつも大事にしている指輪を見る。
商人のオヤジが言っていたが、てっきりたまたまかとスルーしていたあの話を思い出した。
「というか、リーシャ……。この世界でも薬指は婚約とかの意味があることを教えてもらったんだぞ……。その直後に誤魔化されて今の今まで疑ってなかったが、飲食店でのやりとりも今思い返すと不自然だよな……」
「それは……」
くそ!
思い返したらおかしな場面が多すぎる!
俺にとってのヒロインは、現地ハーレムたち50人と、クゥとデメリファトスしかいねぇじゃねぇか!
……いや、そこそこいるか。
いやいや、しかし、こいつらを許すわけにはいかねぇ…………!
「——もうやるしかないのではないか?」
……は?
夢の崩壊。おわりの始まり。




