第14話 最後のしずくとハーレムの悩み
芸術の街という洒落た場所で、俺はこれまでの旅の疲れを癒すべく、救世主の休息をとっていた。
そこで見かけた美女を見てピンと来た俺が声をかけると、敬語で朗らかに返答され雑談を交わしていたら、いつの間にか話が終了していて気付いた時にはその姿を見失ってしまうという痛恨のミス……。
俺としたことが、無意識に話をするだけで相手を満足させてしまう話術を身につけてしまっていたのか……。
それはともかく、あの美しさと会話の弾み具合からハーレム加入イベントだと確信した俺は、執念深くこの街を探し回った。
その際、嫉妬で邪魔をしてくるであろうリーシャたちを振り切るのも忘れずにな。
そうして先程の金髪豊満の美女を見つけたのは街の歓楽街━━娼館だった。
そう、彼女は初めてのセクシー系ヒロインだったのだ。
そこからは話が早かった。
嫉妬するハーレムたちから追及されながらも華麗に誤魔化してお金を受け取り、その足で美女の救出のために再度彼女が入っていった店舗へと出向いた。
そこでは、謙虚堅実でありながらも清廉潔白な救世の神勇者である俺と違って、見るからに性欲に取り憑かれた猿どもが次々と建物に吸い込まれていくのが見える。
やれやれ、あんな性欲に支配された人間にはなりたくないものだ……。
俺は彼らを見て自戒した。
囚われた運命から救われるのを待っているであろう金髪豊満の美女に会うため、神勇者としての神聖な心持ちで娼館に向かうとしようか。
◇◇◇◇◇
「(鼻の下を伸ばしきって、完全に周りの男たちと同化してたわね……)」
「(囚われたヒロインがーとか、俺が救わなくてはならない犠牲者がいる! とか言うから何かと思ったら……)」
「(街で好みのルックスを見つけて、ハーレムに入れたくなった人があの娼館のメアリーだったんでしょう)」
「(演技も含めて割増料金取られた分は仕事してほしい)」
——メアリーは、最高だったぜ……。
◇◇◇◇◇
「と、いうわけで。新たに俺のハーレム入りしたメアリーだ。彼女は旅についてくることはできないが、俺はここに1週間滞在し交流を深めることを決めた。」
そう。
あえて立場が下になりやすい彼女を最初に贔屓することで、ハーレムの序列などにも精通している頭脳明晰な男としてのアピールだな。
ハーレムを円滑にするために頭を使った俺の、冴え渡る智謀策というわけだ。
まぁこういった複雑なメンバーを入れる場合、リーシャは頼れないからな。
ヒロインたちの好感度が上がりすぎているから致し方ないんだが、大変だぜ。
「は、はぁ……(仮定するのも嫌だけれど、本当にハーレムだった場合そんな説明は地雷でしかないでしょ……)」
「な、なるほど……嫉妬してしまいますね……(高級娼婦を1週間……!? いい加減にして……!)」
リーシャとノーリィはどこか気落ちした表情をしているが、全員を平等に愛している俺でも、分身はできないからな……。
この旅が終わったら、相手やるから許してくれ。
「…………♪」
「あー……まぁ、いんじゃね?(息抜きに、近くの空域で狩りでもするかな)」
クゥやアムレアスは賛成か。
さすがは本能的な部分が判断の大半を占めている種族だ。
ハーレム運用に対する俺のスタンスの正しさを感じ取ったな。
その中でも特にクゥは嬉しそうな顔を見せている。
やはり群れの主の頭が切れると誇らしいのだろう。
「ふーん。メアリー、よろしくね〜(最近は気持ち悪い方向ばっかりでつまらないなー)」
「よろしくお願いするわね(久しぶりに見る痛客……。複雑な事情がありそうだし、この子たちも大変ねー)」
咳払いを一つして、ここで全員の注目を集める。
「彼女の前歴や年齢でマウントを取ってしまうようなことや、若さや肌の艶を見せびらかしていびったりしないようにな!」
「「「「「(……は?)」」」」」
俺の新メンバーへの気遣いに心が満ちたのか、それぞれの顔を見ながら頷きあう嫁たち。
ふふ、さすがは俺だな……。
◇◇◇◇◇
その日の夜、なぜか俺は自分が老人になりながら、若い自分にマウントを取られながらも何もできない無力感に襲われた。
とてつもなく空虚だ……。
◇◇◇◇◇
「(最後のしずくが溜まったから、適当な野盗を山賊王にしようと思っていたのだけれど……)」
「(1週間もアホの無茶振りに対応してくれた人たちの危機だし、無視できない……)」
「(亡くなったご主人が残した遺産を、かつての仲間がつけ狙ってるなんて聞いてしまったからには、ね)」
「(準備が出来次第、私は他の人達に危害が加わらないように対処するから……リーシャもよろしく)」
「(ええ。頑張りましょう)」
メアリーと交流を深めること1週間。
メンバーたちとも合流し、旅が終わるまで別れることになるメアリーとの最後の交流を行っていた夜。
変な輩が現れ、宿屋の娘を人質にとって恐喝をした。
「おい! 娘がどうなってもいいのか! この宿屋にある財宝を出せ……!」
「娘を、娘を離してくださいギュネラスさん! なんでこんな事を……」
そいつはやたらと目をギラギラとさせていたが、俺には関係のないこと。
食事の邪魔をしなければそれでいい。
くちゃりくちゃりと、この神が食べている物の旨さを伝えるべく音を出しながら咀嚼する。
これでハーレムメンバーたちも俺と一緒に食べてる気分に浸れて嬉しいだろう。
最初にこの宿が母親と娘の二人経営と聞いた時はピンときたが、その顔を見て気の所為だったことを理解した時はがっかりした。
俺のハーレムメンバー候補ではなかったな。
だがまぁ、この食事の質に免じて許してやっている。
「そんなもの家にはない、です……(おとうちゃん……)」
この店の名物である噛めば噛むほど旨味が出てくる牛肉のような物を、優雅に気品を持って食べていた中。
「嘘つくんじゃねぇ! おい、そこの男、くちゃくちゃうるせぇ! 黙らねぇとこの娘を斬るぞ!」
「ヒィッ……」
俺の邪魔をしてくる声が聞こえた。
さっさと斬るなら斬れや。
こういう有言実行しないやつ嫌いなんだよな〜。
「別にどうでもいい。俺には俺のハーレムが——」
——その時、別のテーブルについていたリーシャが横から割って入ってくる。
「差し出がましいかと思いましたが……、神ゴッド様の御威光を理解していない輩に思い知らせてやるべきです、その偉大さを……!(クズすぎるわ。はっ倒してやりたい)」
「ゴッドさまの偉大さは最強無敵です……(ラストスパートかぁ……頑張ろ)」
「………………さいきょー」
ふむ、三人が俺を褒め称える言葉はいつも俺の心を震わせてくれるな。
「神ゴッド様……。 わたしにもあなたのカッコいい所、見せてほしいわ……?」
新しいハーレムメンバーにまで言われたらしょうがねぇな……。
「(雑すぎるんじゃない?)」
「(知らん)」
しっかし、ヴァイナはともかく、アムレアスがひたすら我関せずなのはいかんだろう。
「おいてめぇら、無視してんじゃねぇ!」
「無視してねぇよ。俺の威光に恐れ慄き、土下座する時間や謝罪する時間を与えていただけだ」
決め台詞と共に人質ごと殴り殺そうとすると、なぜか拳が逸れていき——
「な、何をした……!」
——硬直した男の腹を思い切り殴りつけた。
「ゴハァ……!」
人質の娘は音もなく近付いていたクゥが受け止めており、そのお腹で泣き喚いている。
俺もクゥの腹触りて〜。
……と、いかんいかん。今は目の前のこいつか。
まったく、俺の目の前に立ち塞がっておいて、この程度とはな……。
「神ゴッド様……! この男、山賊王ギュネラスですわ……!(はぁ、やっと終われる)」
なんだと……!
「いつの間にか世界の裏を支配する王を片手間に倒してしまう俺……。余りにも、強くなりすぎたな……。圧倒的すぎる」
「神ゴッド様、こちらをお渡しします。武勲の証ですわ」
リーシャが……確保していたらしく、4つ目の封神のしずくも手に入った。
やっぱりデザインは統一されていて地味だ。
そのままノーリィに渡して預ける。
「(なんかやたらとくちゃくちゃうるさかったな〜)」
「(むふふ、ゲスさがおもしろーい)」
◇◇◇◇◇
ついに来てしまった。
残念かな、メアリーとのお別れだ。
いつもそうだが、現地ハーレムたちと別れる瞬間は名残惜しいぜ……。
「神ゴッドさま〜! いつでも私は待ってるから…………!」
「ああ……! 必ず迎えに行く!」
うーむ、お別れした現地ハーレムメンバーたちの中では一番俺に従順で、なにより俺を称える言葉がスラスラと出てきていた。
現地ハーレムメンバーの中では、テパニーとの二強だ。
これは戦いが落ち着いたら本メンバー入りさせて、アムレアス辺りに危機感を抱かせるのもいいかもしれん。
「(……高すぎる、メアリー。)」
「(この街一番の女性だったらしいし、しょうがないわ。後もう少しの辛抱よ)」
「(はぁ。もうこれ以上の出費は勘弁して……)」
しずく集めは終わりましたが空賊王がハブられてます。
五王伝説捏造の真相や、彼女たちの最終目的は果たして……。




