第10話 野次馬人魚と俺は深海
クゥ不在
「(海賊団と船団の癒着の証拠を見つけたわ。その際に海の種族からの『依頼』を受けてしまったから、申し訳ないのだけれど……。詳細を詰めるために交渉に行かないといけないの……)」
「(……流石リーシャ。でも、もしかしてそれって……)」
「(…………お願いね)」
◇◇◇◇◇
人魚姫が度々現れるという噂が流れる港町。そこで脳裏に電流が走りピンときた。
——これ、俺のヒロインじゃね?
そこからは早かった。船を用意して新たなハーレムメンバーである人魚姫を救いに行くことを伝えると、珍しく渋るリーシャとノーリィ。
イライラを募らせながらも説得していた所、普段はぼーっとしてばかりのクゥも加勢してくれた。
やれやれ。
「(クゥが気づいてくれて助かった……。洗脳能力の推測が当たるなんてね。子供みたいにゴネるこの男の危険性を、最近甘く見すぎていたかも)」
紆余曲折あってくっそボロい船に乗船し出港したら、いきなり海賊団に囲まれるとはな。
しかしまるで運命だったかのように、それが目的の人魚姫が囚われている海賊団だった。
流石俺、運命に愛されてるぜ!
「(まさか本当に海の種族が近海の海賊程度に捕まってるなんて。しかもこっそり接触したらスリルが欲しくて遊んでるとか言ってたし勘弁して……)」
このボロい船を借りるのにリーシャが駆け回る理由がわからねぇが、まぁいい。
ノーリィとクゥが俺の勇姿を見届けて、しっかり伝えるだろ。
「ゴッドさまー、あの船団全てが海賊王べジャンキーの手下ですー。船団全てを打ち倒さなければ、人魚姫たちが捕らえられた本船がでてきませんー(遊びで捕まってる海の種族しかいないけど)」
「マジ許せねぇなべジャンキー……! ちょっと待ってろ! 俺が神の裁きで無双してきてやる!」
ここだ……! 俺は船頭に立ってキメ顔を作りながら必殺技を放つ。
「ゴッドォォォ!!! タイフゥゥゥゥゥ……!ンンンン!」
「ブフッ(変顔と変なポーズやめて……。とりあえず、ゴーレムをクゥっぽい口調で褒めさせよう)」
「…………無双。最強、強い、かみー」
おお!
日頃『……ん』とか『……うん』とかしか言わなかったクゥが俺のことを称えているだと……!
「クゥ! お前が初めて俺を称えたその声援に応えてやろう!」
「え(もしかしてクゥ、一度も称賛したことなかった……?)」
遠くに逃げていく海賊どもの船を見据えて心を落ち着かせる。体の中心から流れ出るエネルギーに集中し、それを喉に貼り付かせ、そして——
「——ゴッドォォォォォォ!! タイフゥゥゥゥゥンンン! 2連射! フゥゥゥゥゥゥゥウンンンんん!!!」
「…………ッ(なに、これ?)」
あまりの凄さからか、ノーリィとクゥが双方景色に魅入ってしまっている。
そう、この必殺技はゴッドタイフーンを2連射もできるようになった進化系である。
「ガハハハ!!!」
遠くに逃げていた船団までタイフーンが届き、半壊して沈んでいく。
やがて俺が殲滅した海賊船の奥から、巨大な豪華客船のようなものが現れて、いよいよ親玉が乗り出してきたのがわかる。
今行くぞ、人魚姫! 俺のヒロインよ……。
「……かっこいい。いけめん。さいきょー」
「クゥ、声援はいいんだが、もうちょっと抑揚がほしいぜ……!」
とはいえそれもクゥの個性か。
固定メンバーのデレと、新規メンバーの補充。胸が高鳴るな〜!
「(棒読みすぎたか……。リーシャ早く帰ってきて……)」
◇◇◇◇◇
「俺はブラダ船団の——」
「私はアマンディ船団——」
「オメェなんだってんだ——」
神の勇者道を邪魔する奴らを次から次に蹴散らしまくる俺。
最高に輝いているぜ。
「邪魔だ邪魔だ邪魔だぁぁぁぁ! 人魚姫を出さねぇと殺すぞ!!」
「(もう殺してるし……)」
なんかやたらと自分の名前を冠した海賊団を名乗っていたな。
はいはい。べジャンキーとは無関係アピールなんだろうが、海賊って時点でアウトだから。
「な、何だね君! 私は——」
「私を殺せば侯爵が——」
豪奢な船を探索してる時、やたらブクブク太った豪奢な服を着こなす貴族みたいな海賊がいた。
どうせ俺みたいな高貴な人間に憧れただけのコスプレ海賊だろうな。
「(はぁ。こいつが暴れる前に交渉とか殺人教唆なんかの証拠提出間に合ってよかった。後少し遅ければ流石にヤバかったかも……)」
やがて見るからに何か囚われてそうな部屋の前にきた。
「おおーい! 人魚姫はいるか? 迎えに来たぞ! ハーレム!」
「ブフッ(な、なに? いきなりハーレムって……)」
ドアが開かないので、無理やり開けようとした所、横からノーリィが解錠した。
なるほど。
さっきの海賊から鍵を回収してたのか。気が利くな〜。
そうして中を見ると、広い水槽の中に下半身だけを浸らせた人魚姫がいた。
その人魚は、エラのようなものを頬から生やしている。
身体を軽く身震いして水のような髪色を震わせると、水飛沫が宝石のように美しく周囲に飛散しながら、下半身が光り輝きやがて人間の下半身に変化した。
おお……!
俺のハーレムになるために、人化の術を身につけていたとは。
「ハーレム〜! 出迎えごくろー、一緒に脱出しましょ〜」
「おお! やはり人魚か! 俺のハーレムになるべく、いつでも準備万端にしていたとは!」
「あはは、ハーレム、ハーレムー(名前も交わす前から所有物扱い、海賊たち以上におもしろいなー)」
◇◇◇◇◇
その後船を乗っ取って操縦をノーリィに任せると、俺は甲板に出て新メンバーであるヴァイナと交流を深めようとしていた。
「なぁ、ヴァイナは処女か?」
——瞬間、辺り一面が雲に覆われて雨が降り始めた。
「は? 流石にデリカシーなさすぎて気持ちわるーー。いっぺん死んだら?」
ヴァイナが何か言っていたような気がしたが、突然の豪雨でそれどころではない。
くそ、新しいハーレムとの交流イベントなんだから、天気も空気読めや!
イライラしながら俺は船に戻った。
ふう。
それにしても、処女か聞いた瞬間、瞑っていた目が光り輝いていて綺麗だったな。
これはあれか。
普段は人魚の生態的に目を開けたらいけないけど、俺の事をどうしても見ておきたかったから目を開いたということかな?
俺の神々しいオーラに惚れたということだな。
めちゃくちゃ美人だし、もちろんハーレムにはいれてやろう。
あの神秘性、処女確定だろう。
はー、雨がなければもっと気分が良かったんだが……。
◇◇◇◇◇
「(いきなり怒らせるなんて、想定可能だったけど、回避不可能だった。海の種族はこの男の力なんて意にも介さないだろうし、そもそもこの人魚、ただの野次馬だからなぁ)」
突然の大雨に驚いたノーリィが船を停止させて確認に来た。少しばかりヴァイナと交流してただけだと言ったら納得していたが。
その後、ニコニコ笑顔のヴァイナと、少し足取りが重いノーリィがやってきた。
「ノーリィ、足取りが重いぞ、生理か?」
ヴァイナがなぜか笑いながらノーリィの肩を叩いた。
「(子供すぎなーい?)」
「(まぁ、そう。気にしないようにしてる……)」
おそらく人魚には生理が人間とは違うんだろう。
それでからかってるのかもしれん。
しかし、ちょっと気になるな……。
「まぁ、あれだ。俺は生理なんてないから分からんが、頑張れよ! 俺のために」
「……(生理じゃなくてただの心労だけど……流石にイライラした)」
「……(あー、私にもそんなことを言ってきたら、おしおきしちゃおうかな)」
俺の言葉や優しさを感じ取って感無量になったのか、ノーリィどころかヴァイナまでも無言になった。
やれやれ、気遣いの天才だな俺は……。
その後、天候が安定したの確認しノーリィが出発前に俺の旅の目的であるアイテムを渡してきた。
「神ゴッド様ー、しずくを見つけましたー」
そのしずくは、盗賊王カンダタを倒した時と同じ形をしていた。
うーん、コレクションとして地味すぎる。
持っておくのはだるいな。預けとこう。
「これ、全部持っておいてくれ。全部集めたら俺が使うから」
「え……はい!(……よし。これで使う際にこの男から回収する手間が省ける)」
どこか喜色を浮かべて俺が渡したしずくを受け取るノーリィ。
俺のアイテムならどんなものでも受け取りたいってことか。
ついでだ。
新ハーレムメンバーのヴァイナに、神勇者の気遣いを見せてやるか。
「ヴァイナ」
「んーー?」
できるだけキメ顔を意識し、配慮の出来る男の目線を意識した後━━さりげなく下腹部を見る。
「人魚って、生理はあるのか? あるならどういう風なんだ?」
「は?」
そこからの記憶は、よく覚えていない。
◇◇◇◇◇
「うっ!!!」
痛ってぇぇぇぇぇ!!
腹が痛い!痛い!痛いィィィィィ!!!!
「破れる……!痛い!痛すぎる……!」
下腹部の辺りが殴られたように痛んでキツい……!
なんだこの痛みは……!
「や、やめてくれぇ……!痛いんだぁぁぁ!」
ゴスッ、ゴスッ。
そんな音が聞こえるような痛み。キツすぎて立ってられない。というかここはどこなんだ……。
「ああああ嗚呼ぁあ!!!」
助けてくれ!!! 誰か! 誰か!
「ああああああああ……はぁ、はぁ、はぁ……」
あれ、ここは海の中……?
突然、真下から謎の引力が発生し、身体が引きずり込まれていく。
『お前に深海の痛みを与えよう』
━━━━ゾワリ
謎の強烈な悪寒に襲われるのと共に、俺の魂が肉体から広大な海の底へと永遠に引きずり下ろされる感覚になる。
どうにか足掻こうとジタバタするが通用しない。
「いだい、ぐるじぃ…! やめでぐれぇ……! 深海に俺を引ぎずりごまないでぐれ……!」
身体の穴という穴から無限に水分が排出される。
「やめでぇぇぇ!うえぁうえおえあぁぁぁ!………あぅ」
その後俺は深海の奥深くで二度と浮き上がろうとは思わなかった。
そうだ……、世界は、深海に……。
◇◇◇◇◇
「(ヴァイナ、何したの……?)」
「(んー?生理生理うるさいからー、味合わせてみた。あとはー、深海の引力も一緒にね)」
「(流石に顔面蒼白すぎるから、後は私に任せて)」
「(んふふ、ごめんなさーい)」
べジャンキー海賊団以外の蹂躙された敵は全員選別された悪人たちです。
神ゴッドはこのあとハーレムの夢を見させて無事復活しました。
なぜかこの後、生理の話はしなくなった謎。




