第6話 魔王は本当にいるのか?
バー「ヘッド・ロック」の、いつものカウンターでバイパーは酒を飲んでいた。今日はいつもより気分が良い。レナから「少しづつ感じがつかめて来た」と手紙が届いたのだ。バイパーはそれが嬉しかった。
ゴクッとマグに入った酒を飲んだ。その様子を、おや?と感じた店主が彼に声を掛けて来た。
「先生、今日は何やら嬉しそうですね。」お皿を布巾で拭きながらバイパーに尋ねた。
「いや、大したことじゃないです。」少し照れ笑いをするバイパー。顔に出ていたか、と思いつつ、もう一口、酒を飲んだ。
店主はそれ以上、その事には触れず、話題を変えた。
「ときに先生。先生は子供頃から剣を振っているんですよね。剣道場とかに通っていたんですか?」
店主の問に躊躇うことなくバイパーは答えた。
「剣道場にも通ってましたし、親父も剣士でしたから。親父にはかなりしごかれてました。」
何とも懐かしい子供時代を思い出し、あの頃はとにかく夢中で練習していたなぁ、と遠い昔に思いを寄せていた。
「そうですか。親父さんも剣士でしたか」
バイパーは、店主の言葉にすぐさま返事をした。「爺さんも剣士でした。」
「おお、お爺さんまで。剣一筋の家系だったんですね。」
「冒険一家ですね。」バイパーが答えると、店主はさらに質問して来た。
「すると、親父さんも、お爺さんも、魔物と戦って来たんですか?先生。私は前々から思っていたんですが。魔物がいなくなる日は来るんでしょうか?」
バイパーは店主の問に少し考えた。確かに爺さんも魔物と戦っていた。考えてみると、これまでの歴代の勇者も魔物と戦って来た。しかし、魔物は依然として今もいる。
バイパーが考えていた時、店主がさらに質問した。
「先生、魔王は本当にいるんでしょうか?」
店主の問いかけでバイパーは、ハッとした。これまで歴代の勇者は、魔物を討伐している。しかし、魔物は今もいる。魔王という呼び方をする者もいるが、それなら勇者は魔王を倒したわけでは無いということか?だがもし歴代の勇者が魔王を倒していたと仮に考えてみると、それは魔王は何体もいることを示していることになるぞ。
ん〜。バイパーは悩み込んでしまった。
もしかすると、初代魔王や三代目魔王、みたいに、次から次に魔王が誕生している…。ん〜、そもそも歴代の勇者が倒したのは、本当に魔王と呼ばれる魔物だったのか?単にその時代に一番強い魔物だったのでは?
バイパーは、かなり考え込んでしまったが、店主に自分の考えを話した。
店主は、バイパーの話しを聞き、なるほどと唸って、バイパーと同じように考え込んでしまった。
バイパーは、ふと、別の考え方も模索してみた。「確かに勇者の誰かが魔王と呼ばれる魔物を倒した。ただ、その長である魔物を倒したからといって、その他の魔物が消えてなくなる?ん~、それはないだろう。ということは、残党の魔物と今、戦っているのか?」
試行錯誤した後、バイパーは店主に話し掛けた。
「狼の群れが獲物を倒す時、集団で狩りをすることを知ってますよね。最も強く最も賢い狼が群れのリーダーとなって狩りをする。魔物たちも、この狼の群れと同じ感じじゃないでしょうか。そしてリーダーの狼が年老いて引退したり、あるいはより強い奴が新しくリーダーになる。」
店主はバイパーの話しに、なるほど、と頷きそして「では魔王というのは?」と、バイパーに聞き直した。
「俺たちは魔物と会話することは出来ない。だから、魔物のリーダーを単に魔王と呼んでいるだけで、魔王は俺たちが勝手に付けた名前ということ。」
バイパーの言葉がしっくり来たのか、店主は、「ああ、なるほど。そうか、狼のリーダーみたいな感じと思えばいいのか」と、つぶやいた。
「かつて勇者が魔王を討伐した、というのは、もしかすると、その時代の魔物のリーダーを倒した。そういうことかもしれませんね。ただ、この広い世界のどこかに、さらにもの凄く強くて、賢い魔物がいるかもしれませんが。その時代時代で、強くて賢い魔物のリーダーを倒してきて、今はまた新しい魔物のリーダーとその配下の魔物と戦っている。」
バイパーの言葉は店主には、この上なく納得できるものだった。
「いやー、バイパーさん。何ともスッキリしました。」
店主は、ニコニコとして、棚の中から、瓶を取り出しマグにその瓶の中の酒をそそいだ。そしてバイパーの座っているテーブルに置いた。
「バイパーさん。奢りますよ。飲んでください。」
店主の言葉に少し驚いたバイパーだが、そうですか。それじゃ、ご馳走になります。と、礼を言い、酒を飲んだ。
「美味い!」
「頭を使った後に、美味い酒。最高です。」
夜も更けて静かになった店内は、静まり返っていたが、バイパーも店主も、上機嫌だった。




