【6-14】囮作戦 1 引き金
【第6章 登場人物】
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6月17日、麾下第3連隊からの再三にわたる出撃許可願を受けて、帝国軍右翼の統括指揮官たるエイグン=ビレー中将は、根負けした……わけではない。
ブレギア産の愛馬と引き換えに、レディ・アトロンは、中将から出撃許可を手に入れたのだった。
【6-3】レディ・アトロン 下
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突如、献上された黒毛の極上馬を前に、鼻息を荒くしたビレーは、馬の持ち主からの要請を認めるか否か逡巡した。
悩んだ末、物欲が勝利した。この中将の馬好きは、病的なものに属するのかもしれない。
ただし、右翼全軍といった大規模作戦ではなく、あくまでもアトロン連隊に限っての威力偵察ということで、ビレーは、しぶしぶ出撃を許したのであった。
結果として失敗したとしても、アトロンの馬鹿娘が暴走しただけのことであり、よしんば成功した場合は、己の手柄にできる。
そうした打算は決して楽観できるものでないことは、この吝嗇家で馬狂いの中将もわきまえている。下手を打てば、左翼のブレゴン派閥に後れを取ることになりかねないのだ。
しかし、ビレーは黒毛の名馬という誘惑に負けた。彼の胸先三寸において、ブレギア産の極上馬は、派閥抗争のリスクを上回った。
もちろん、レディ・アトロンが右翼全軍はおろか、それ以上の作戦構想を秘めていることなど、この時、彼は気が付いていない。
快勝だった。
面白いような勝利であった。
低俗な挑発だったが、腹踊りの効果はてき面であった。誘いに乗ったヴァナヘイム軍は、セラ=レイス少佐の予想したとおり、必要以上に追撃を行った。
敵の進路を推測し、その先を囲い込むように味方を配置する。
それも、地表のちょっとした隆起や灌木を上手く利用し、腹這になって小銃の狙いを定める――。
レイスの配置した陣形は見事に当たった。目をつむって発砲しても外さぬほど、敵は密集して突入して来たのである。
結果として、レイス・アトロン両軍が待ち構えている地点まで飛び込み、クロスファイアポイントで次々と撃ち倒されていく。
腹這になっていたキイルタ=トラフは、窮屈な胸部を解放するかのように上体をわずかに起こした。そして、その灰色の瞳を細めて、前方を注視する。
敵の将官と思しき姿を視界にとらえたからだ。馬上の袖には、金の線が数本見える。混乱した味方の立て直しに、奔走しているようだ。
トラフは、岩陰に身を隠したまま、ライフルの角度をわずかに上げた。
彼女は、この小銃の癖を知り抜いている。
銃口を照準から僅かばかり左に逸らすと、静かに引き金を引いた。
【作者からのお願い】
裸踊りの挑発から戦闘までの流れを、帝国側から描いていきます。
ヴァナヘイム軍からの視点は、こちらを思い出してください。
【4-19】裸踊り ⑤
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この先も「航跡」は続いていきます。
作戦のため、帝国軍のためなら、愛馬を手放すレディ・アトロンの心意気に感心された方、是非、ブックマークや評価をお願い致します。
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【予 告】
次回、「囮作戦 2 花模様」お楽しみに。
囮作戦による戦闘がクライマックスを迎えます!!
フェドラー大隊の中央は、いつの間にか撃ちすくめられ、備えが薄くなっていた。正面のヴァナヘイム軍は、そこへ最後の突撃を仕掛けてきたのである。
あわや、大隊長戦死かと、レイスたちが顔をしかめた時だった。
白兵突撃をかけたヴァ軍の横面に、騎兵ごと体当たりした帝国軍の一団が現れる。




