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航跡 ヴァナヘイム国興亡記  作者: 秋山 文里
第5章 はずれ者

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【5-21】お化け屋敷 下 《第5章 終》

【第5章 登場人物】

https://ncode.syosetu.com/n8102if/52/


 少女を保護した若者たちが、大一番の作戦立案に挑んでいる。


 ヴィムル河の流域で展開される、壮大な作戦であった。



 どうしようもなく勤労意欲に乏しかった上官は、スイッチが入ると別人のように躍動した。


 作戦を思いつき、練り上げていく姿からは、応接間のソファで日がな一日ゴロゴロしていた様子は微塵も感じられない。


 しかし、河原を視察した際の彼の鼻歌はひどかった……音程は外れ、旋律は乱れ。


【2-1】流域

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700427163127019




 紅髪の怠け者がフル稼働で放電を続け、電流は末端の参謀たちに行き渡った。


 彼らは脇目も振らず、戦術起案に打ち込んだ。活気も童心も鳴りを潜めるほどに。


 しかし、フルパワーで稼働する先任参謀を相手にするには、参謀たちに分が悪そうだった。

 

 あまりにも、時間も人手も不足していたのである。


 それでも、彼らは歯を食いしばり、上官の背中に喰らい付いていく。疲労は色濃くにじみ出ていた。


 気が付いたときには、ソルは彼らの手伝いを申し出るようになっていた。


 帝国語は、作戦に関わる専門用語になってしまうとお手上げだ。


 そのため、手伝いといっても単純な検算作業や資料の製本程度であったが、その申し出が受け入れられたことは、言うまでもない。


 しかし、少女は、単なる気まぐれや暇つぶしで、手を挙げたわけではなかった。



 紅髪の創り上げる作戦は、旧態依然とした発想を打破したところから始まり、縦横無尽に展開し、常識や定説を覆すところに帰結する。


 そこには、まるで冒険譚を読み進めていくかのような、活力と魅力が満ちていた。


 そこには、まるでチェスの長手詰めのような、美しく明快な棋譜が生まれていた。


 彼の部下たちは、そうした「作品」に傾倒しており、それを生み出す上官を心から敬っているようだった。


 一助を通じて、ソルも彼による「作品」のとりこになっていく。



 同時に、少女は気が付いた。


 そうした1人1人の上官への敬慕の情が、普段は彼に対し憎まれ口をたたきながらも、参謀部に明るさや活気、そして()()()()()鹿()()()()をもたらしていたのだ。


 そんな彼らに囲まれていると、ソルは居心地の良さすら感じるようになっていた。


 いつの間にか、少女の水色の瞳に映る新居の風景は、彼女の家族や家人たちがいた屋敷よりも色づいていた。




 「作品」の脚本に沿って動いた帝国軍は、少女の母国軍を完膚なきまでに叩き潰した。


 いくら激しやすく単純な民衆でも、この2年を経て勘付いていたことだろう――帝国軍に手を出したことは失敗だった、と。


 ヴィムル河流域での派手な惨敗は、その認識を決定づけたとも言える。


 紅毛の風変わりな帝国青年将校は、友人の父親や農務大臣、それに軍務次官の持説――避戦辛生・開戦必滅――が正しかったことを、証明してみせたのである。



 熱しやすいということは、冷めやすくもある。


 この会戦以後、新聞が煽る猛々しい言葉も、この国の民衆には浸透せず、街の道々を吹き抜けていくばかりになった。


 そして、一部の民衆に芽生えた激情は、軍上層部や審議会高官に向けられていく――どうして勝てないのか、と。



 虚しかった。


 いまさら、帝国避戦論を証明されて、いったい何になるというのだろう。よりによって、帝国軍の手によって立証されようとは、皮肉なことだ。


 誇るべき相手もいないのでは、溜飲が下がることもない。


 もっとも、それら母国について何もかもが、少女には関心がなくなって久しい。



***



 ソルのまぶたの裏には、赤い弧――作戦図上からテーブル下へ落ちていく赤駒によって描かれた曲線――がいまも消えていない。室内の熱気と胸中の高揚感とともに。


【2-10】赤い曲線

https://ncode.syosetu.com/n8102if/17/



 少女は、水色の両目を開けた。


「私は大嫌いなんです。父も代議士も、この国の民も」



 少女は、自分語りを終えた。


 この日も応接間のソファで横臥していた紅髪の将校は、いつとはなしに肘で頭を支えながらも、こちらをしっかりと見据えてくれていた。


 彼とその麾下は、参謀部を罷免され、間もなく右翼第3連隊へ異動となる。そこは銃弾飛び交う最前線であり危険極まりなく、黒髪美しい副官は、これを機に隊を離れ実父の後を追えという。


 彼のあおい視線に躊躇することなくソルは申し出た。



 もう少し、この隊に居させてください、と。




第5章 完


21話という長きにわたり、ソルの冒険にお付き合いいただきまして、ありがとうございました。

※第6章に続きます。



【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


一連の少女の物語を楽しんでいただけましたら、是非、ブックマークや評価をお願い致します。


このページの下側にある「ブックマークに追加」や「いいね」ボタン、【☆☆☆☆☆】をタップいただけましたら幸いです。



【予 告】

第6章「囮作戦」は、久方ぶりに帝国へフェイズが戻ります。


だいぶ間が空きましたので、レイス隊副長・キイルタ=トラフ中尉に、帝国東征軍の歩みを振り返っていただきながら、物語を進めていこうと思います。

ご期待ください。

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