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航跡 ヴァナヘイム国興亡記  作者: 秋山 文里
第4章 若き総司令

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【4-17】裸踊り ③

【第4章 登場人物】

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 ダリアン隊によるラッパの演奏が再開された。進撃を命じる旋律に合わせ、粛然として歩兵部隊が丘を下りていく。


「先月、兄貴が死んだよ」


「俺は、弟を失ったばかりだ」


「これまで生きながらえてきたが、いよいよ俺たちもおしまいだな」


 行軍中、私語は厳禁のはずだったが、そこかしこで、そうしたささやきが交わされていた。兵士たちは右肩に銃を乗せ、精気のない顔を下げたまま、黙々と斜面をくだっていく。


 律動的なラッパの音色と、無気力な彼らの動きは、どこまでも不釣り合いであった。

 

 その脇をアルベルト=ミーミル、スカルド=ローズル一行が馬を飛ばして逆走していく。


 このような場所に総司令官と副司令官が、わずかな幕僚だけ連れて走っていることに、誰一人として気がつく者はいない。




 小高い山を登りきると、アルヴァ=オーズ中将の大きな幕舎が見えてきた。


 ヴァナヘイム軍は、ミーミル大将により布陣を見直し、全軍の配置を大幅に改めたが、オーズ中将だけは頑なにその命令を拒み、麾下の左翼第1師団各隊とともに、山腹に留まっていた。


 ミーミルは、馬から勢いよく降りると、そのまま幕内に入った。


「こ、これは総司令官。いつお見えになられた」

 オーズ中将以下、彼の配下たちはそれぞれの身支度を終え、愛馬にまたがるべく、幕舎を出ようとしていた。


 そんなところへ、総司令官がわずかな供回りだけ連れて飛び込んで来たのである。ヴァナヘイム国一の豪勇で知られるオーズも、虚を突かれたように、古傷のある右目を見開いた。


「将軍、これから攻撃をかけるつもりか」


「知れたことよ。帝国の雑兵ども、つけあがりおって。今日こそ蹴散らしてくれん」

 帝国軍の挑発は、連日続いているのだ。この猛将は、その太い腕でサーベルを折らんばかりに息巻くと、幕舎を抜けていく。


 ミーミルも呼吸を整えつつ、その後を追う。

「いま動いては駄目だ」


「総司令、帝国兵どもにあのようなふざけた態度をとられ、このアルヴァ=オーズ、指をくわえて見ているわけには参りません」


 オーズの怒声に、馬たちは落ち着きをなくしている。


 ミーミルは、愛馬とともに猛将もなだめようとする。

「いまはまだ駄目だ。われらは反撃の体制が整っていない」


「反撃の体制……我らに()()行きを命じられたことか」

 なじるような言葉を発する口からは、大きく鋭い犬歯が見え隠れする。そのまま取って喰われそうだ。


 恐怖を紛らわそうと、猛将から視線を逸らし思考を巡らしていたミーミルは、軍務省次官の軽口に思い当たる。


 あの猛獣は、「己の体には百の傷がある」と豪語しているが、すべてが戦場で受けたわけではない。特に右目元のそれは、細君に引っかかれたものなのさ――。


 将軍の顔に、右目元にミーミルは視線を据えようと試みるも、嚙み千切られんばかりの圧力に、思わずそれも遠くへ逸らしてしまう。

 

 ――嗚呼、次官殿、それは考えようによっては、史上最悪の()()です。

 

 猛将のご家庭における夫婦喧嘩にまで思考を巡らしたことなどおくびにも出さず、ミーミルは平静を装い、口を開く。

「そうだ。いつまでもこんな山の中腹に居座っていても、帝国の大軍に足元を囲まれたら、ひとたまりもないぞ」


「その時には、こちらから駆け下り、帝国のやつらを粉砕してご覧に入れる」


「なにを馬鹿な……貴官は先の戦闘における帝国の戦術を忘れたのか。貴官らが悠長に下山するまで帝国軍が指をくわえて見ているものか。山の形が変わるほど砲弾を撃ち込まれておしまいだ」


「むう……」

 この猛将は、自分の非をすぐに認める素直なところがある。大きな犬歯で唇を噛み、押し黙った。


 そこをミーミルはたたみかける。

「そもそも、ここは飲み水の確保すらままならない状態ではないか。砲弾を撃ち込まれる前に、日干しにされて万事休するな」


 その方が帝国軍も弾を浪費せずに済むだろうと、ミーミルはからからと笑った。幕舎外に置かれた飲料水用の樽を叩きながら。


 猛将の直情径行ちょくじょうけいこうを鈍らせるには、鷹揚おうような言動をとることも有効なのである。



【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


総司令官も大変だと思われた方、

猛将オーズのギャップに萌えた方(いないか汗)、


是非、ブックマークや評価をお願い致します。


このページの下側にある「ブックマークに追加」や「いいね」ボタン、【☆☆☆☆☆】をタップいただけましたら幸いです。



【予 告】

次回、「裸踊り ④」お楽しみに。


うつむくアルヴァ=オーズ中将の肩や背中を、やや重い陽光が照らす。ついこの間まで雪雲で空が閉ざされていたとは思えない日差しである。


両目を細めたミーミルはつくづく思う。人間の争いなど構わず、季節は確実に移ろいゆくのだ――。

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