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大魔法使いを目指してHighになる  作者: ぽこん
その娘、特務隊長補佐になる
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その娘、困惑


冬も間近に迫り、窓の外では厚手のコートに身を包んで歩き回る人が増えた。まだ雪が降るほどの寒波は来ていないが、あと一月もすれば王都は見事な雪化粧に包まれるだろう。


ルディリアが王宮で働き始めてもうすぐ一年が経とうとしていた。


去年の今頃は、確か…貴族院卒業までに常時身体強化魔法を習得するために躍起になっていたなと思い出す。貴族院の試験はルディリアにとって比較的に簡単なものばかりだった。辺境の地で魔法に打ち込めるように、マナーや勉強は人一倍頑張った。だからか、周りの生徒よりも苦労せずすんだ。それよりもルディリアは魔法の技術を高め、王宮魔法師団へ入る為の準備期間として、卒業までの3ヶ月を特訓に費やしたのだ。


「あの頃は…魔法ばかりで、今考えると少し勿体ないことをしていた様な気がする。」


魔法研究室へと向う途中の廊下で独り言を零す。窓の外の景色を眺めながら、この短い時間を振り返る。


貴族院を卒業して、すぐに王宮へと魔法師試験を受けに来た。

本当は魔法師になって魔法師団へ入団する筈だったのに、室長に掴まって魔法研究室の室長補佐になっちゃったんだよね。しかも、魔法師じゃなく魔導師見習いとして黄色いローブを羽織って出勤する事になるとは、思ってもみなかった。でも、研究員の皆は無表情な私を明るく受け入れてくれて、だから私も頑張ろうって思えた。


その後は、アルンベルン騎士団長の補佐となってインベージョンを静めた。

神位の魔物に出会ったのは初めてで、その威圧感に気圧されて立ちすくんでしまった。…それでも、自分の役割を果たすことは出来た。あれがきっかけで、その後の遠征は難なく熟してこられたんだ。それに、表彰されて魔導師見習いから魔術師見習いに昇格して、ローブも赤色に変わった。


ルディリアは自身の着ているローブに目を落とすと、口角を僅かに上げる。


「ほんと、目まぐるしい一年だったな。」


それでも、嫌ではなかった。寂しいと思ったことも無く、ただ夢中で駆けてきた。

そしてルディリアはこれからも前へと進む為に、止めていた足を動かす。魔法研究室と掛けられたその扉は、もう見慣れたものだ。ガチャリと重厚な音を響かせて中へと入る。


「おはようございます。」


ルディリアが挨拶をすれば、応接室で仕事をしていた研究員達が振り返り、笑顔で返す。配属されてすぐの頃は、いくらお客様が見えないからといっても応接室で仕事をするなんて、と考えたこともあったが、入ってすぐに誰かがいるという状況や、誰かが挨拶を返してくれるというそんな当たり前の日常に小さな幸せを覚える。


「おはよう、ルディリア!」

「おはようございます、ルディリア様。」

「おはようございます、今日もよろしくお願いします!」


ルディリアはつい緩みそうになる頬を引き締めて、いつものように室長室へと向った。


「おはようございます、ルディリア・ヒースロッド只今出勤しました。」


コンコンと扉を叩いてから声を掛けると、いつもの様に暢気な声が中からかかる。


「あ~、ルディリアかい?入って構わないよ。」


サウスライドの言葉に従い中へ歩みを進めると、執務机で書類に目を通している彼を見つけた。今まではその仕事から逃げ出してばかりだったというのに、アルンベルン公爵家にお泊まりをした後から、彼は少しだけ変わった。

ソフィア様やアルンベルン騎士団長の思いが少し伝わったのかもしれない。そう思うとルディリアはまた頬が緩みそうになる。今までこんなに心中が穏やかだった事はあるだろうか?だからか、気を緩めるとついつい頬が緩みそうになってしまう。


気を引き締め直して、ルディリアは自身の机へと向う。するとそこには、いつもとは違うものが置かれていた。

これは何か?と小首を傾げると、それに手を伸ばす。


――手紙? 宛先は…?


自身の部屋へ届くことはあっても、今まで私用の手紙が魔法研究室へと届いたことはない。

仕事依頼?いや、それもすべてサウスライドの方へ行くようになっている為あり得ない。

…それではこれ何なのか?


じっと見つめて考えるも、時間の無駄だと中を開けてそして驚愕した。手紙の内容を読む前に名前と印が先に目に入ってきた。そこには王家の印とともに「エルスベルト・フォン・プライダル」の名が記されていたからだ。


ルディリアはその手紙を握ったまま、頭を机へと押しつける。先月のパーティではあんなことを言っていたのに、ここへきて彼からの手紙が届くとは、と項垂れる。

その様子を見ていたサウスライドがルディリアに声を掛けた。不思議に思うのも無理はないだろう。


「ルディリア、どうしたんだい?」


「…室長、この手紙、どなたが持ってこられたのか分かりますか?」


そう言って中身ではなく封筒をサウスライドへと見せる。彼はそれを見ると、大きく頷いた。


「あぁ、これなら朝、ヘリオス殿に偶然出会ってね?頼まれたから君の机へ置いておいたのさ。」


「…。」


なる程。ヘリオスと言えば、王国騎士団 第一騎士隊 隊長のヘリオス・エイオースである。

昔から王太子の隣で護衛兼従者として、彼と共にいたのでルディリアは良く覚えている。そして、彼が朴念仁であることも良く知っていた。そんな彼が届けるように頼むとは、よっぽどのことかもしれないと、ルディリアは手紙の内容に目を通した。


手紙には、先月のパーティの謝罪と改めて祝いの言葉がつらつらと書かれていた。兄―ラーディウスと話した際に、彼がルディリアの現状を心配している事を話すと兄に怒られてしまったこと。そしてその中で一つ、彼が決意した事がある為、手紙を出すことに決めたのだと書かれている。


その決意とやらは書かれていなかったが、どうやらあのパーティがきっかけで彼の中で何かが変わってしまったようだ。ルディリアとしては今まで通り放っておいて欲しいものだが、そうもいかなさそうな気がしてならない。またお茶会だなんだと呼び出されてはたまらないし、「さて、どうしようか」と顔を上げるといつの間にか目の前に室長の顔があった。


「わっ」


「おや、気がついたかい?凄く悩んでいる様子だったけど、それ何が書いてあったのかな?」


室長は差出人が誰か理解した上でのこの質問だ。どう返そうか迷いながら無難な言葉を選ぶ。


「えっと、これは。パーティの時の謝罪と、改めてお祝いの言葉とかが書かれていました。」


「とか、ねぇ。」


サウスライドに指摘されて、ルディリアは「しまった」と思った。しかし、もう遅い。指摘されて肩が小さく跳ね上がった事も、泳いだ目もサウスライドはしっかりと見ていた。そしていつもの様に微笑むと「そうか」と返して自身の机へと戻って行く。どうにか見逃して貰えたらしいと、ほっと息をつくとサウスライドが言葉を続ける。


「そう言えば来月、王宮でのガーデンパーティがあるらしいね。公爵家にも、研究室にも招待状が届いていたなぁ?確か、そこには君の名前も書かれていたと記憶しているが…?」


「それって…」


「勿論、断ることは出来ないだろうね。王族からの直々の招待だ。…特別な理由でも無い限りね?」


ニコリと笑うサウスライドを見ると、手紙の内容が分かっているかのように見えてドキリとする。しかし、この話題は偶然だろうと思い直すことにした。それでも、そのガーデンパーティを考えると憂鬱な気持ちになる。社交が苦手なルディリアにとって、それは勉強の場である。…それだけで済めば良いが、一波乱起きそうな予感をひしひしと感じていた。


「そう、ですよね。」


特別な理由…。


その特別な理由とやらを急いで作らねばならない。王族からの招待を断るには、病気で伏せっている場合や、どうしても外せない仕事か、そもそも王都内に滞在できない理由がある場合である。

今のルディリアがとれそうな言い訳は、どうしても外せない仕事だろうか。しかし、それも王太子権限で無くされてしまう気がする為、心許ない。そうなれば騎士団へ行って遠征が無いか聞いてくるのが一番良さそうである。


そうと決まれば、とルディリアは椅子から立ち上がった。すると間髪入れずにサウスライドが口を開く。


「残念ながら、今月クラウストが出る遠征はないよ。」


サウスライドの言葉に、ルディリアは力なくまた椅子へと腰掛ける。そして机へとうなだれた。


どうしよう…。


「室長…。」


「諦めた方が良いんじゃないかい?」


書類から目を上げること無くそうつぶやいたサウスライドはすでに興味なさげに仕事をしていた。折角室長が仕事のやる気を取り戻したというのに、自身がこれではいけない。と義務感からルディリアもまた仕事を開始した。



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