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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
怪《かい》の章

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白い部屋

 そこは、いつもの白い部屋だった。


 前も後ろも上も下も、真っ白な空間。 それでも與座が、白い部屋と表現するのは、天井と壁、床と壁、そして壁と壁の間の境目が辛うじて視えるためだ。 これがなければ、白い空間と表現しただろう。


 與座は、目がおかしくなるような真っ白な部屋の中で、中心と思われる位置に座する曾祖母を見据える。


「大婆ちゃん、今回も頼むわ」


 そう言いながら、與座は、よっこらせと言いながら、曾祖母と向かい合う形で正座する。


 この数年、曾祖母と白い部屋で向かい合う事でわかった事が何点かあった。


 一つは、目の前の曾祖母が、本当の曾祖母ではないこと。 曾祖母の形をしてはいるが、基本的に質問にしか答えてくれない。 曾祖母の方から、何か話題を発することがないのだ。


 そして、もう一つは、與座が見たことのないものについては、聞いても教えてくれない事だった。 いや、正確に言うと、一度見たものについても、ある程度、質問を重ね、與座自身が周辺の知識を認識する事で、わかる事が増えるのも特徴だった。


 そのことから、目の前の曾祖母は、本当の曾祖母ではなく、與座が見たもの、触ったものについて、無意識に読み取った魄のデータを言語化してくれる表現者でしかないと考えていた。 言ってみれば、もう一人の自分を具現化した姿が、曾祖母の形を取っている。 そういう存在と與座は考えていた。


「遠視が出来れば、少しは変わるんやろうけどな……」


 遠視。霊視を得意とする者の中には、直接見れない遠くのモノに関しても、霊視できる者がいると聞く。 未だ、曾祖母のトメ以外には、遠視が出来ると言う者に出会った事はないが、直感的に卑弥呼には出来るのだろう、と與座は考えていた。


「さて、大婆ちゃん、虚忘について教えてくれへんかな?」


「…………」


 ダメ元で、核心を突いてみたが、やはり答えはなかった。 生前の曾祖母、與座 トメは、虚忘について霊視し、呪いだと読み取っていたようだが、與座自身が虚忘だと思っていたものがゲートだった以上、本当の虚忘について、現認していないので、その内容を言語化する事ができないのだろう。 目の前のトメは無言のまま、開いているのか、閉じているのか、よく分からない細い目で、與座を見詰めるのみだ。


「ま、せやろな。 ほな、この地域について教えてくれへんかな? ……まず、そやな……この地域の成り立ちから聞いてみよか」


 営業として、各地の妖を霊視してきた與座は、妖不在の時は、その土地について霊視してきた。 一ノ瀬 航輝の案件の際も、旧八又トンネルにまで出向き、その土地の成り立ち、起きたことを霊視していた。


 それなのに、いざ妖が目の前にいるとどうだろう? その土地ではなく、直接、妖を視ることに固執してしまい、それで視えないときたら、この体たらくだ。


「あのコギャルの言う通りやな。 いろんなもんを視て、多角的に分析せんとあかんヤツもおるっちゅうこっちゃな……」


 與座は、自分の至らなかった点を反省し、ポジティブに考える。 まだ自分には成長の余地があるのだと……。


「もしかやけど、いずれは遠視も出来るようになるかもしれへんしな……」


 そんな独り言をブツブツと呟いていると、曾祖母が口を開く。


「ここは……、逃げてきた者や居場所のない者が集まって出来た集落じゃ」


 ふむ。


 與座は、その情報に、虚忘を倒すための価値があるかどうか考える。


「ま、一応、聞いとくか……。 大婆ちゃん、そこんとこ詳しく頼むわ」


「家を継げずに追い出された者達、駆け落ちして流れ着いた夫婦達、罪を犯して逃げてきた者達、戦から逃げてきた者達……じゃ」


 どうやら、ここを拡げても、あまり役に立ちそうにない気がした與座は、切り口を変える。


「じゃ、ここで血なまぐさい事件とかあったら、教えてくれへん?」


「最近で言うと……戦時中、戦争に異を唱える者……非国民と烙印を押された者とその家族が……大量の血痕を残して……失踪……がそうじゃ」


 大量の血痕を残して、失踪……。 與座は父の事を思い出す。 虚忘の仕業……のように思えた……が、そこに違和感を覚える。


 非国民と烙印を押された者? 偶然? この地域にとって、邪魔な存在と思われるもんが、虚忘に喰われよった事を偶然で片付けていいのんか?


 聞きたかった虚忘誕生の話とは違うが、興味を惹かれる。


「……誰かさんが虚忘を……けしかけよった?」


「この地域の相談役が、虚忘という妖を使って、邪魔な者を排除しておる……」


 マジか!


 與座は、寺の入口であった竹内を思い出す。 あれだけ好戦的だったのは、竹内にとって、虚忘を退治される事は、都合が悪い事だったためなのだろう。


「……胸糞悪いわ」


 與座は、思わず顔を顰める。 だが、どうして竹内は虚忘を使える? 與座の中て疑問が湧き上がる。


「……竹内と虚忘の関係は?」


「……竹内は、虚忘という妖に贄を捧げておる。 ……定期的に虚忘に、名前と出身地を伝える事で、妖の暴走を抑える役割を担っておるようじゃ。 その際、自分にとって邪魔な者や、与する権力者の政敵などを捧げておるのじゃ」


 暴走を抑えるため? 必要悪だとでも言いたいのか? 何が善で何が悪なのか、與座にはわからなくなった。 ただ、一つ言える事は、竹内が……、名前と出身地を知っている全ての者の生殺与奪の権利を持っているという事だ。


「なんで……なんで竹内が、そないな役割を担う必要があるんや?」


「竹内の先祖が、……虚忘に"縛り"を与えたからじゃ」


 !


 思いもよらず、虚忘誕生の取っ掛りが見えた気がした。 虚忘が誕生した経緯がわかれば、異界から引きずり出すための方法が分かるかもしれない。


 與座の脳裏にかつてのトメの言葉が蘇る。 虚忘が暴走し、集落を絶滅の危機に陥れた時、別の者が虚忘に"縛り"を加える事で、状況を落ち着かせた。 確かにそんなような事を言っていたはずだ。


 ということは、虚忘を生み出したのは、別の者ということになる。


 ……今なら、虚忘の誕生について聞けるかもしれへん。


「虚忘は……誰が……なんのために……どうやって……生み出したんや?」


「……虚忘は……高島(たかしま) 賴成(よりなり)によって……役人を殺すために……呪術を使って……生み出された呪霊(じゅれい)じゃ」


 高島 賴成……。


 って、誰やねん!?


 思わず、心の中で盛大なツッコミを入れてしまう。……が、ようやく、生前のトメが口にした『虚忘は呪い』という内容に辿り着いた。


 あとは、その呪術の内容を聞くことが出来れば、奴を異界から引きずり出す事ができるかもしれない。


「大婆ちゃん……、その辺の話……詳しく教えてくれへん?」


 その質問に、目の前の曾祖母が、かつてない反応を示す。 開いているのか閉じているのか、よく分からない細い目をカッと見開き、與座を見詰めたのだ。


 途端に、與座の脳裏に、虚忘誕生の経緯が、まざまざと浮かんだ。

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